6,武器商人と五人の番犬
銃弾不足は魔法で解消!
渓谷を走る魔法列車、その一等客車では、武器商人が会合を開いていた。この会合は、いわばブリーフィングであり、リーダーである晴也からチームに情報が伝達される。
「と言うわけで!みなさん、こちらに来てから初仕事が入りましたよぉ!気合入れていきましょう!」
晴也は両手を挙げて喜ぶ。しかし、テーブルを囲む私兵たちの顔つきはダラけモードだった。いつもの事だが。
「「「うぇーい」」」
「なんですかその返事……まぁ、気合の入れ方は各々に任せます。それと、これから新しい仲間が増えます、どうぞっ!」
扉が勢い良く開かれ、そばでビールをかっくらっていたケイネスが吹き飛ばされる。そこにいたのは、ケープを羽織った金髪の少女、リボルバーを握ったエレン・アクアスだった。
「新入りって……」と、ヴェレ。
「まさか……」と、エヴァ。
「エレンちゃんだったのか……」と、ケイネス。
「しかも拳銃持ってるし……怖ぇ……」と、ビビる祭神。
「…………あのぉ、ハルヤさん。私、何をすれば……?」そして、困惑するエレン。
「そこに座って下さい。はいみんな、今日から新しい仲間も増えた事ですし、頑張りましょう!」
手を叩いて場をしめた晴也は、テーブルの上座に座る。
「んじゃ、今回のお仕事の内容を説明しますね。今回は、アメクラン公国で内戦中の大公派に、武器の輸送、納品、撤収が主な内容です」
「ハルヤ、質問かまいませんか?」
そう言って手を上げたのはヴェレだった。
「どうぞヴェレさん?」
「なぜ、技術者のエレンさんを仲間に?」
「それは、彼女の希望もありますが、第一に僕がエレンさんが魔法を使える優秀な方と判断したからです。エレンさんが使えるのは使い魔を駆使した防御魔法、僕の護衛にピッタリじゃないですかぁ〜」
「ま、ハルヤの隣は渡しませんが」
「じゃあ、みんな自分の部屋に戻ってくださ〜い、目的地に到着するまで大人しくしてて下さいよ?」
「「「うぇーい」」」
私兵たちは返事をして、各々の部屋に戻って行った。エレンは彼らについて行こうとするが、晴也に呼び止められた。
「あ、エレンさん。エレンさんは今日、僕の身辺警護をお願いします」
「わ、私がですか?」
「とりあえずランチでも食べに行きましょう」
客室を出て、四つ前の食堂車に向かう二人。この魔法列車は、魔力の力で動く蒸気機関車で、15両編成の列車だ。晴也たち以外にも一般客が乗っており、食堂車は賑やかだった。
「まずは乾杯といきましょう」
「こ、これは何ですか?」
エレンはグラスに注がれた青色の飲み物をまじまじと見つめる。
「カクテルです。まぁ、美味しいので飲んでみて下さい」
「は、はい……では、いただきます」
エレンはカクテルを少し口に含む。しばらくして、口にあったのか、再び飲み始める。
「お、美味しいですね……そういえば、晴也さんはどんな魔法を使いたいんですか?」
「ある兵器の弾薬を精製したいですね。そう、魔力を形にして弾薬を供給するという」
「ジュウの弾ですか?」
「これです」
晴也はリボルバーから弾を抜き取ると、エレンに渡す。彼女はそれを手にとってじっくりと見ると、晴也に返す。
「理論では可能だと思います」
「そうですか?」
「ですが、前例がないので……何とも」
「希望があればいいんですよ。っと、じゃあさっそく部屋でやってみましょう」
「はいっ!」
二人が部屋に戻った後、食堂でその様子を見ていた集団がいた。
「オルカス、奴らに間違いないか?」
「えぇ、勇者様からの情報通りです。黒髪黒目の武器商人、奴で間違いありません」
「あの女は護衛か?だとしたら厄介だな。俺が殺る」
「ザックレー総統自らですか?」
「他のものにも伝えよ、0時に作戦を決行すると」
「了解、全ては王妃様のために」
そして、一般客が寝静まった頃、一等客車に忍び寄る影があった。その動きは、もはや人間のものではないほど俊敏だった。
客室の扉がゆっくりと開かれる。男の目の前には、布団をかぶり、寝息を立てる人物がいた。男は懐から短剣を取り出すと、振りかぶって突き立てようとする。
「はい、お疲れ様」
男は、自分の体が動かなくなっていることに気付く。すると、周りから様々な銃を構えた私兵たちが現れる。
「クッ!?体が動かん!?」
「何故かって?答えはこの中です」
布団がめくられると、そこには魔法書を抱えたエレンがいた。エレンは使い魔を使って、男の動きを止めたのだ。
「さぁて、お楽しみの時間ですよ」
晴也が仁王立ちで止まっている男の足に、レイジングブルの44magunum弾を撃ち込む。男は悲鳴を上げ、苦痛に苦しむ。
「取り引きしようではありませんか殺し屋さん?誰に雇われた?」
「だ、誰が言うもんか……」
「おそらく……王妃派の差し金です」
「こ、この小娘がぁ!」
エレンの答えに異常に反応した男。この時点で、この男にこれ以上聞くことはなかった。
「では、さようなら」
晴也が手を振り下ろすと、周りにいたチーム達から銃撃が加えられる。銃撃をまともに食らった男は、糸の切れた操り人形のように倒れる。
「いやぁ、度肝を抜かれましたね。それにしても異世界に来て早々殺し屋とは……」
「やはり襲撃です」
「他の敵は?人数?」
「不明」
チームにそう言う晴也の顔は、すでに仕事モードだった。
「指示を」
「一等客車はまずい、ここから貨物車両まで脱出する。敵は撃滅する、見つけ次第ぶち殺せ。車掌さんに説明しないといけないし、めんどくさいなぁ……」
「最大目的を」
晴也は手を首に当ててその場を去る。それを見たエレン以外のチームは不気味に笑い出す。
「狩れ、だってさ」
「久振りの狩じゃ」
「俺らのやり方はちと過激だぜ」
そんな彼らの後ろ姿を見たエレンはこう思う。
「何なのこの人たち……」
文字通り、狩りが始まる。
狩りが始まりました……