5,白と黒の存在
異世界に召喚されたのは晴也たち以外にもたくさんいた!?
ヴェスパル、アメクラン公国東方に存在する工業地帯。と言っても、大小さまざまな工房が存在する都市だ。首都フラクロードから離れているので、今のところ内戦の影響は出ていない。出るとすれば、フラクロードから輸送されてくる繊維製品などの不足だ。
「それにしても賑やかですね」
「ここは内戦の影響がないので、比較的穏やかなんです」
「さっきも言ってましたが、内戦はどの様な状況なんですか?」
「独裁政治を行う大公派と、リベラル思考の王妃派に分かれています。独裁政治の影響が強いためか、兵力に乏しい王妃派が劣勢です」
「なるほど……あそこのお店に寄りましょう」
二人は屋外カフェテラスに立ち寄る。街中は賑わっており、人々が民謡らしき曲に合わせて踊りを披露していた。二人が席に座ったのを確認すると、ウェイトレスらしき女性が水を持ってくる。
「ご注文がお決まりでしたらお伺いしますが?」
「僕はサンドイッチとコーヒーを」
「えっと……私はサンドイッチと……オレンジジュースで……」
「かしこまりました」
ウェイトレスが去った後、水を飲まながら晴也が尋ねる。
「魔法とは、いったい何ですか?」
「えっと……魔法とは、体内に流れる魔力を具現化することで奇跡を起こすことです」
「その魔力ってのは、誰だってあるものですか?」
「はっ、はい……訓練さえすれば自由に扱うことが出来ます。魔法の性能を上げる場合は修行が必要となりますが」
「じゃあ、誰だって魔法を使えると?」
「はい。そ、その……あの……ハルヤさん?」
突然エレンは顔を真っ赤にして、うつむきながら口を開く。
「私と……魔法のくん……訓練をしてみませんか?」
「本当ですか!?いいですよ!」
「そうですよね……ダメですよね……えっ?いいんですか?」
「いいに決まってるじゃないですか〜?魔法なんてファンタジーな能力扱えば、僕なんて明日にはヒーローですよ!それに、こんな可愛い子と魔法の訓練なんて羨まし過ぎますよ……って、どうしました?」
「か、可愛いなんて今まで言われたことないので/////」
トマトのように顔を真っ赤にしたエレンは、ウェイトレスが運んで来たサンドイッチを食べ始めた。サンドイッチを両手で持ち、小動物の様に端からゆっくり食べるエレンに、晴也は見とれていた。自分も、サンドイッチを食べ始める。
「美味しいですね(エレンさん可愛いなぁ……)」
「はいっ!」
すると、晴也とエレンの近くの席に、護衛任務に赴いていたのか、甲冑を身につけた二人組の傭兵が入店して来た。彼らはエールとつまみを頼むと、興味深い話をし始めた。
「おい、聞いたか?昨日、王妃派が勇者を召喚したらしいぞ?」
「聞いた聞いた、何たって黒髪黒目のガキンチョだって話だ。それなのに、そいつ一人で一個旅団並みの力を発揮する様だ。内戦の結果は王妃派の勝利だな」
「いや、分からんぞ?何たって王妃派の武器は倉庫や博物館で保管されてた骨董品らしいぞ?いくら勇者が加わったからって、まだまだ勝ち目はないよ」
「分からんぞ?何たって伝説って呼ばれてるほどだからな……ん?」
「その話、もっと詳しく話してもらえませんか?」
いつの間にか、晴也が二人の傭兵の横にいた。エレンは、心配しながら席で晴也を見守っていた。
「どうした坊や?腹が減ったのか?」
「あ、これはすみません。僕はこう言うもの何ですよ」
そう言って渡したのは、晴也が新しく作り直した名刺だった。
「東方統合兵器廠、営業部長、キリヤマハルヤ?聞いたことないな」
「つい最近出来ました商会です。先ほどの話を聞かせてもらえませんか?」
そう言って晴也は傭兵の手に金貨を一枚握らせる。前世界の代物だが、どの世界でも価値があるのか、傭兵は快くそれを受け取った。
「あんた、噂話にしては金払いが良過ぎやしないか?」
「気にしないでください、それほど価値があると見越した上での判断ですので」
「んじゃいいや、ありがたく受け取っておくよ。さっきの話だな。俺たちは大公派に雇われてたフリーの傭兵だ。契約期間が過ぎてこうしてここまで商隊を護衛する任務に就いてた。その時聞いた噂話でな、大公派とやりあってる王妃派が、古代魔法で勇者を召喚したらしいんだ」
「それが黒髪黒目、ちょうどあんたと一緒の色だ」
「なるほど、その伝説の勇者は単刀直入に強いんですか?」
「分からんなぁ、だが古文書には一国を焦土に化す力を持っているそうだ。しかし、別に召喚魔法を発動しなくても、時空の裂け目から人が現れたりするらしいしな。こればっかりは何も分からん」
彼らの話を聞く限り、俗に言う転生無双者である。聞く所によると、晴也と容姿が同じなため、おそらく日本人が神の手違いでテンプレ転生したのだろうと予想する。
「いわゆるチートですね」
「ん?なんだそのチートって?」
「あ、いえ、気にしないでください。それで、今、その勇者は?」
「召喚の反動で気を失ってるらしい。明日ごろには目を覚ますだろう」
「ありがとうございます。それと、一つ頼み事をしてもよろしいですか?」
「いいぞ?」
「もし大公派の幹部と接触したら、『武器商人が話をしたい、リストを送るから欲しい武器を選んで金を用意しておけ』と伝えてもらえませんか?」
晴也は傭兵たちにわら半紙で作られた既存の武器リストを渡した。リストには、各種の武器と値段が記載されている。
「お安い御用だ。ちょうど向こうに行かにゃならんしな」
「ではお願いします。付け加えとしては返事は明日までと言ってもらえれば嬉しいです」
「わかった、任せてくれ」
傭兵と契約した晴也は、エレンの待つテーブルに戻ると、突然笑い出した。
「あ、あの……ハルヤさん?」
「フッフッフ、面白いじゃないですかぁ。いいでしょう、存分に利用させてもらいますよぉ、覚悟してて下さいね転生者くん」
そう言った晴也は、コーヒーを飲み干すと、金貨をウェイトレスに握らせ、工房に戻った。それを見たエレンは、晴也の裏の顔に恐怖しながらも、少なからず別の興味を持った。
晴也は悪ですw
しかも、アンチ転生者です(−_−;)