3,接触と交渉
何とか勝ち進んでおります。結局、転移先は剣と魔法のファンタジー世界にしました。
晴也の一言で困惑するドーク、しばらくして嘲笑する。
「はっはっは、異世界か!?それはまたとんでもない所からきたものだ!」
「ならば、証拠をお見せしましょうか?ケイネスさんお願いします」
「あいよ」
晴也に指名されたケイネスは、HK416を取り出すと、近くにあった砂袋に向けて10発ほど撃ち込んだ。ドーク達は、初めて聞いたのか、HK416の銃声に驚きびくびく怯えている。幸い、工房内は広いため、跳弾の心配はなかった。
「な、なんだその武器は?」
「これは銃と言って、鉛の弾を撃ち出す兵器です。僕たちの世界ではこれが一般的な戦争道具になっています」
銃と言う武器の説明を聞き、唖然とするドークとエレン。しばらくして、ドークが正気に戻り、口を開く。
「なんと……この世界では剣や槍、弓や魔法で撃ち合うのが主流。そんな武器、今まで見たことがない……やはり、お前達が異世界から来たのは本当の様なんだな」
晴也は近くにあった輝く剣を手に取る。
「品質もいい、重さといい切れ味も申し分ないな…………と言うことで、早速と言ってなんですが、この世界について出来る限り詳しく説明してもらえませんか?」
「いいだろう、しかし世界は広いもんだ……異世界なんて信じられないよ」
ドークはため息をつくと、椅子に深く腰を掛けた。
「まずはこの場所、アメクラン公国領ヴェスパルについて説明する」
今、晴也達がいるヴェスパル、大陸歴と呼ばれる独自の年号の1560年、大公アメクラン12世の命により開拓されたイスト地方唯一の工業地帯である。
そして、工業都市ヴェスパルの属するアメクラン公国は、人口550万人、現在は大公派と王妃派に別れて内戦中である。王都付近は戦火が激しく近寄れない状況らしい。
「他にはどんな国がありますか?」
「この大陸だけで20だな、アメクランは北にフロール連邦、東に東方トルメスタ国、西にナスラ諸国連合、南にハルジニア王国が隣接している。こんなもんだな……なぁ、さっきから気になってたんだが、けーじーえすしぃしゃとは何だ?」
「KGSC社とは、僕が最高責任者の貿易商ですよ。主に武器を取り扱っています」
「ぶ、武器だと?」
「何せ僕たち、武器商人なんですから」
晴也が笑うと、ドークは納得した様に頷く。
「なるほど、やはり普通の商人ではなかったのだな」
「ご察知のようで……いつからでしょうか?」
「あんたが商人だと言った時だ。普通の商人は取引などの現場に護衛する兵士を連れたりしない。しかし、あんたは護衛する兵士を絶対にそばから離さない。戦慣れしてる証拠だ、いざという時に裏切られないように……」
「裏切るも何も、彼らは僕が認めた一流の兵士です。自分の寝床を任せれる人材で、掛け替えのない家族でもあります」
「私はどんなことがあってもハルヤを見捨てませんが?」
そう言ったヴェレは、晴也の首に腕を回し、抱きつく。しかし、その力が強過ぎるためか、晴也は必死で拘束を解こうとする。
「痛いっ!痛いですヴェレ姉さん!」
「ニエット(だめ)、姉さんって言ったお仕置きです」
「あ!ヴェレさんズルい!お兄ちゃんは私のもの!」
数分後、エヴァのおかげで解放された晴也は顔を赤くしながら「どうも不甲斐ないところを」と言って謝罪する。
「ドークさん、僕から一つ提案があります。聞いていただけますか?」
「なんだい?」
「この世界の武器は剣や槍、弓などですね?」
「あぁ」
「そして、あなたを含め、この街では武器の生産を行っていますよね……祭神さん」
「了解っす」
祭神が晴也から手渡された紙をドークに渡す。そこには、この様な事が書かれていた。
『契約書「武器供給元の設定の件」・我がKGSC社の社長、桐山晴也代表取締役は、貴社を我が社の取り扱い兵器の生産元として設定することをここに記します。契約者印「KGSC社代表取締役・桐山晴也」被契約者印「ーーーー」』
「これは?」
「我々は突然この世界にやってきました。もちろん、元々あった会社は消滅、取り扱う武器も無くなってしまいました。ドークさんには、この一帯で生産される武器を僕に譲渡してほしいのです。そうすれば、僕が様々な所へ武器を売りに行きます。いわゆる商品の仕入れです」
「……話は嬉しいが、俺一人の判断じゃ決定できない、明日にでも定例会を開こうとしよう」
「では明日、同席させてくださいね」
「ちょっと待ちなキリヤマさんよ」
そう言った晴也が席を立とうとすると、不意にドークが呼び止める。
「あんたら、宿はどうするんだ?」
「この町の何処かで休息を取ろうと思います。まぁ、最悪野宿を視野に入れてますが……」
そう、晴也たちは金がない。念のためにカバンに入れていた金の板があるが、こちらの金の相場が分からない以上、むやみやたらに貴重な金を渡すことはできない。
「なら、うちに泊まりな」
「いいんですか?」
「いいぞ、ちょうど3部屋ぐらい空いてるしな、分けて使ってくれ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」
「気にするな……エレン」
「はっ、はいっ!」
「彼らを2階に連れて行ってくれ」
「はいっ、親方様」
ケープを羽織ったエレンは、晴也たちを2階の個室に案内する。部屋は晴也が一人、ヴェレとエヴァ、ケイネスと祭神と言ういつもながらのペアで寝泊まりすることになった。
「では、晩御飯までお待ちくださいね」
「お食事まで提供してもらえるのですか?感謝の極みです」
「えっと……お食事は一時間後です。準備が出来次第お呼びしますので……えっと、待っててくださいね!」
あたふたしながら説明するエレンを見て、晴也たちは自然に顔の表情が緩む。エレンは顔を赤くする。
「あわわ……み、皆さん、そんな顔しないでくださいよぉ……」
「えっ、あぁすみません。ご説明ありがとうございました」
そう言われたエレンは、全力疾走でその場から離脱して行った。
「なぁハルヤ」
タバコを加えたケイネスが晴也に話しかける。
「あの子、コミュ障だろ?」
「……たぶん」
こうして彼らは個々の部屋に戻った。
たぶん、魔法考えるのが一番難しい