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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第三章 燃え滾る熱血

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付与される権限


「……一日で二匹、討伐したの。そう……やるじゃない」


 ユノボイド邸に戻った後、ハーブ園でお茶をしていたウィスプさんから出た言葉がそれだった。

 お茶菓子も何もないハーブティーだけが置かれた屋外用のブロンズテーブル。しかし席についたウィスプさんが安っぽく見えるようなことはない。堂々とした振る舞いは、何をしても絵になるんだなぁとなんとなく思った。それはきっと、彼女の幽玄とした見た目のせいもあるんだろうけども。


「フィーネ。ノラド討伐の相場はいくらだったかしら」

「はッ。ノラドですと……島外の絢華団であれば、素材無しの討伐の相場は二千ほどでしょう。調査費込みですと五百上乗せといったところですね」

「二千五百YEN。ふん……なら、彼女らに報酬として千YENずつ……払いましょうか……」

「……オレもですか、母様」

「当然です……クライン、あなたも、働いたのであれば……」


 お? なんか帰ってきて早々にお金が貰えそうな気配がするぞ。


「あ、あのぉ。私も教職員としてお聞きしなければならないのですが、そういった報酬はよろしいので……?」

「問題ないわ……働きには相応しい報酬を与えなければ。クラインの分も含め……後ほど、家令よりお渡しします。これほどの短時間で、ゴホッ……良い、仕事……ゴホッゴホッ」

「ウィスプ様!」


 咳き込んだウィスプさんを、側でフィーネさんが支えている。

 ……喉が悪いってのは大変そうだ。きっとウィスプさんのは塵肺とも違うんだろうな。


「これより……」


 咳が落ち着いた辺りで、ウィスプさんが再び言葉を紡ぐ。


「これより。……あなた方の討伐での働き、そして馬車防衛の訓練にて、その実力は……ユノボイド家の認めるものとなりました。ミネオマルタの優秀な学徒たち。……今回の働きに対し、然るべき重さの銀貨と正しき勲章を与えましょう」


 随分と儀礼的というか、かしこまった物言いだ。

 なんとなく勲章をもらった時の授与式を思い出した。ひょっとするとこれは略式っていうやつなのかもしれない。


 でも私達、言っちゃあれだけど功績としては野良の魔獣を二匹駆除しただけなんだけどな。

 私以外もみんなそんな思いがあるからか、お互いに顔を見合わせている。


「……この勲章は、ユノボイド家が信頼を置いた方にのみ授与される印です。クモノスにおいては特に、紹介状よりもはっきりとした効力を持つことでしょう。たとえば……他の旧貴族などから強引な勧誘を受けたときなど。それを見せれば、面倒なやり取りをせずとも速やかに断れます」


 ウィスプさんの手には人数分の、服につけるような小さなアクセサリーがあった。

 銀か何かで作られているのだろう。サイズもデザインも控えめだけど、輝きには隠しきれない品がある。


「あ、あの。認めてもらえるのは嬉しいんすけど、良いんですか。私たちがいきなりこういうのもらっちゃって……」


 遠慮しようか悩んでいると、ウィスプさんは咳払いしながら微笑んだ。


「信頼に足る、人柄かどうか。で、あれば。既に……クラインから、聞かせてもらっています」

「ウィスプ母様」


 なんかクラインが居心地悪そうにしてる。


「ふふ。……その上で、この印をお渡しするのです。まだ、そう長い付き合いではないでしょうけれど。……これからも息子のことを、良くしてあげてくださいね」

「オレは別に……」


 ぴりっとした気迫を抑えた、穏やかなウィスプさんの笑み。

 それは確かに、母が子に向けるような慈愛に満ちているように、私には見えた。そのすぐ側でむず痒そうにしているクラインの姿も含めて、やっぱり親子なんだって思う。


『なるほど、そういうことであれば。ありがたく頂戴します』

「私もまぁ……ほとんど討伐には参加してないけど、もらっていいのかしら」

「貰っておこう。人数分あるんだしね」

「へへ、これあたしの服のどこにつけたらいいかにぇ……」

「付けてたら盗まれねえかなぁ……おっかないから荷物の中に入れておくか」


 これで勲章も二つ目? ってことになるのかな。

 今回のは通行手形に近いようなものだろうから、また別なんだろうか。詳しくないからわからん。

 でも人から働きを認められるっていうのは、やっぱり良いもんだな。


「……ゴホン。ところで、ウィルコークスさん」

「え、あ、はい」


 ひとまず勲章をオイルジャケットの胸ポケットにしまい込んでいると、ウィスプさんから名指しで呼ばれた。思わず背筋が伸びる。


「その印を持っていれば、ユノボイドに存在するいくつかの……施設に立ち入ることが認められます。けほっ……それは、あなた方がこの前見たラガブルの砦であったり、蒸留所の内部であったり、製剤所であったりなどです。……その他にも、余人にはあまり見せられない“古代の地下施設”なども」

「……ウィスプ母様。それは、ラガブルの?」

「えほっ、ごほっ」


 咳き込む中、ウィスプさんはクラインの言葉に何度も頷いてみせた。


「……ウィスプ様。一度お休みになられた方がよろしいかと」

「そう、ね。ええ……詳しい話は、クラインや。ラウドさんから、聞くとっ……良いでしょう……ゴホッ」


 見ているだけで少し気の毒になるような咳に苛まれながらも、ウィスプさんはそれだけ言い残して屋敷の奥へと送られていった。

 彼女の身体も心配になるけれど、そんな喉の調子で無理をしてでも言いたかったことがありそうな気もして、興味も唆られる。


 普通なら入れないところに踏み入れる勲章。

 それを与えてまで、一体私達に何が言いたかったんだろう。明らかに何かありそうなんだけど。


「……まさか母様は、ボイドを見せたいのだろうか。しかし、何故……」

「ボイド? ってなんだよ、クライン」

「ラガブルの地下洞窟と、それを管理する大きな施設。ですよね、ユノボイド君」


 言い当てたのはマコ導師だった。有名な場所ってわけでもないのに、どうして知っているのだろう。クラインもそんな顔をしていた。


「ラガブルで情報を集めている際に耳にしたんですよ。あの街には大きな洞窟があって、ユノボイド家はそれを管理していると。私もクモノスに来て初めて知りました。……でも、そのボイドも決して立ち入りが制限されているわけではないとも聞いたのですが……?」

「……ええ。上辺の施設だけであれば、案内があれば普通に入れます。しかし……」


 クラインは私達の顔を見回した。

 全員が全員、聞く体勢だ。結構気になる話だしな。続きを頼むぞオイ。


「……こうして立ち話で語るには、少々長くなりそうだ。庭でハーブティーでも飲みながら話すとしよう」

「あたし普通のお茶のがいいじぇ」

「嫌なら聞かなくて構わん」

「んぎぇー、わぁったよ、飲むよぉ」

『うむ、楽しみだな。話もハーブティーも』

「なんだか面白そうなことが聞けそうだね」


 ラガブルの地下洞窟、ボイドか。


 ……地下洞窟って聞くと、ちょっと心躍るよな。私も楽しみだ。


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