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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第三章 燃え滾る熱血

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踏み荒らす花壇


「つ、疲れたぁ……」

「……ソーニャ、まだ全然歩いてないよ」

「わかってはいたけど私、こういう仕事ムリ! 向いてない!」

「よわっちぃじぇ」


 男女で班分けし、山林を歩き始めて十数分。

 ソーニャは既に息を荒くしていた。いつもより動きやすい格好をしているはずなのに、それでもソーニャはソーニャのままだ。

 階段だとか山のような坂道には弱い女の子なのだった。


「うん、丁度いいですね。そろそろ休憩にしましょう。山や森の中ではこまめな休憩が大事ですからね。会敵した時に戦えるだけの余力が残っていないのではお話になりませんから。全員が余裕のあるところで一休みいれるのが大事ですよ」


 元杖士隊なので当然ではあるんだけど、マコ導師も全く疲れていない。

 彼はショートパンツの横につけた革のホルダーからタクトを取り出すと、杖先から水を溢れさせてハンカチを洗っていた。休憩中のちょっとした仕草も手慣れたものである。


「あたし全然疲れてないから枝拾うじぇ枝」


 で、この仕事を始めてからというもの。講義では上の空なことの多いボウマはとても活き活きとしてるというか、真面目にやっている。

 けど、そんな彼女の気持ちもわかるんだ。私もどっちかと言えば座学よりも実践の方が楽しいしね。

 未だに理学式とか数式を見るのは嫌いだ。行きの馬車の中で勉強しようとしたら吐き気がしたもんな。


「おっしゃボウマ、見てろよほら。薪拾いはこうやんだぞ。立ち枯れた木をこう、オラッ!」

「うわーすげー! へし折れた!」

「脆そうなとこを強化して思いきり蹴るとぶっ壊れるから、その後いい感じのサイズの薪を拾うんだ。枯れてるし軽いから落ちてるのより運びやすいぞ」

「へー!」

「……多分ロッカも間違ったことは言ってないんだろうけど、もうちょっと普通の人でもできるやり方があるんじゃないのそれ」


 ちなみにアンドルギンをスコップ形態にすれば薪割りに便利だったりする。

 魔力がもったいないし、万が一壊れたら泣くからやらないけど。


「あ、こっちに良い感じの岩がある!」


 ボウマと一緒に薪を集めていると、ソーニャが突然機敏な動きで山を登り始めた。

 何事かと思ったけど、どうやら座るのに丁度良い平らな岩があったらしい。そこらへんの土とかに座ればいいのにって思うのは私が変なのか。


「……うん、良い座り心地……ひんやりしてて癒やされるわぁ……」

「ソーニャ疲れてたわりにちょっと離れたところにある岩には座りにいけるんだね」

「休憩場所がすぐそこにあると思ったら頑張れるでしょ!」


 まあ確かに大きい岩だし、椅子っぽい高さもしてるけどさ。


「あたしも座る!」

「あ、ボウマずるいぞ。私も座る」

「あらあら」


 結局、ソーニャに引きずられるようにして私たちも一緒になって岩に腰掛けることになった。

 マコ導師だけ座るスペースが残ってなかったけど、彼は彼で微笑ましそうに私達を見ているだけ。一緒になって座るつもりはないようだ。




「ねえ、男達がいない今だからこそ聞くんだけどさ」


 小さな休憩ついでに口の中でしょっぱい飴を転がしていると、ソーニャが変な話の切り出し方をしてきた。


「マコ先生そこにいるけど」

「マコ先生はいいの、特例よ特例。ほら、男が居たらなんとなく話しにくいでしょ? 恋バナってやつよ」


 恋バナ。つまり恋の話。

 なるほどな、ソーニャ。


「……良いな! 楽しそう!」

「ロッカなら得手不得手関係なく意外とこういうのに乗ってくれると思ってたわ」

「んにぇ。恋バナってあれでしょソーニャ。男に点数つけるやつ!」

「んーーーとね、ボウマ、そういうのも私としては結構好きなんだけどね、私はみんなともうちょっと性格の良い恋バナをしたいわ」

「良いですね! けど、本当に私も混ざって良いんでしょうか……?」

「どうぞどうぞ先生! むしろ先生がいないと普通の恋バナが進行しないような気もするので! 今この時だけは同年代の友達ってことで!」

「わぁ、嬉しい……!」


 既に休憩も必要ないくらい元気いっぱいになってるソーニャだけど、まぁこれから面白そうな話になるしもうちょっとスカブラしとくか。

 実際、男と女で分かれる機会なんてあんまりないもんな。


「ここだけの話……いや半分以上わかってて聞くんだけど。みんなって婚約者とか今付き合ってる人とかっている……?」

「いないよ。デムハムドにもいないし。てか同年代が少なかった」

「いにぇ。故郷もガキばっかだじぇ」

「いませんねぇ……自粛中といいますか……」

「私もいないわ。いえ良いのよわかってたから。念のためね、念のため。もしもいたらまた別の話をするつもりだったっていうだけだから」


 今日一番喋るなソーニャ。


「じゃあ、うーんそうねぇ、軽めなところで……もし皆が誰かと付き合うとしたら、どういうタイプの男なのかを聞いてみたいわ! 順番に答えていってよ」

「逆にソーニャは?」

「私? まぁ私はそうね、顔が綺麗めで清潔感があって、将来に困らないくらいお金を沢山もってる男が良いわね。というかこれが最低条件!」

「あたしよくわがんねけどソーニャが欲張りってのはわかったじぇ」

「ふふ、でもちょっとわかります」


 というよりソーニャの好みは今までも時々話の中で聞かされてた気がする。

 普段からこういう話をしたかったのかもしれない。


 次は私か。私の好みの男……男ねぇ……。


「まあ、仕事ができる男……っていうのが私の最低条件かな」

「何の仕事よ。鉱山のやつ?」

「いや仕事だったら何でも良いんだけどさ。真面目で仕事熱心な男ってのは大事だと思うんだよ。不真面目に仕事してる野郎だけは嫌だね。ぶん殴りたくなってくる」

「こっうぇ」

「勤務態度は大事ですよね。仕事には人柄も自然と出てきますし」

「そうそう、そうなんすよ。仕事を真面目にやらない奴にまともな奴はいない」

「実感がこもってるなぁ……」


 掘り出すフリだけして分け前だけは一丁前に貰おうとしたり。石の選り分けが明らかに適当だったり。自分からは奢らねぇくせに他人の宴会には必ずやってきてタダ酒強請ってきたり……やべぇな、思い出したらなんかムカムカしてきた。


「あたしはー、うーん……男ぉ……? うーん……」

「ボウマにはちょっと早かったかしらね?」

「早くないし! あたしはぁ……優しくて強い男……?」

「なんで疑問形なんだよ」

「言ってて自信にぇ」

「まぁまぁ、良いじゃない。優しくて強い男。優しいっていうのは大事よね。私も優しい追加しとこ」

「じゃあ私も追加するわ」

「ふふ、強い人って良いですよね」


 まあ悪いもんじゃなければいくらでも理想に追加したくはあるけどさ。そんなことやってたらあらゆる長所を持ち合わせてる男になっちまいそうだよな。

 そんな男がいたら逆に怖い気もするし、私と合わない気もする。結婚する想像ができない。


「じゃあマコちゃんは? どうなのん」

「あ、対象は男でお願いしますね。一応これ女だけの恋バナなので」

「顔が格好いい男性が良いですね!」


 ……即答だった。


「……あーでももちろん顔だけじゃなくて、体つきとか。あ、やっぱりそれって強さというか。はい。強くて……私もボウマさんと似てるかもしれませんね」

「マコちゃん優しさとかいらんの?」

「優しさもできれば欲しいです!」

「……先生って顔が良ければ良いのかしら」

「最初に言ってたもんな」

「顔は! 顔も一つの長所ですから! そういう意味ですよ、はい!」


 いつもと違って随分と必死そうなマコ導師。

 本当にソーニャに図星を突かれてるのかもしれないなこりゃ。


「えー、じゃあ次はもし私達のクラスで付き合うとしたら……」

「あっ! ノラドです! ノラドがあっちにいます!」

「えっ、嘘ぉ!?」


 マコ導師の声に皆が岩から腰を上げ、杖を構える。

 休憩中の和気藹々とした空気から一転、血が凍るような一瞬だった。


「向こうの斜面の下、茂みから顔を出しています! 色が同じで分かりづらいですが隠れてますよ!」

「……うっわ本当だ! あんなところに!」

「あ、目玉見える! 顔ちっちぇ!」

「どどど、どうしよう……!」


 斜面の下側には、言われなければわからないくらい目立たない色合いのノラドの頭が茂みから飛び出していた。

 起伏の多い山道と同化するように丸く伏せているので気づかなかった。よく見つけられたなあんなの……!


「このまま展開して多方向から……あっ、ノラドに気づかれました! 皆さん、動き出しますよ!」

「うっしゃ狩りの時間だじぇ!」

「よしやるかぁ!」

「ああ、良いところだったのに……!」


 ちょっと長く休憩しすぎたからな。追いかけ回すだけの元気はまだまだ残ってるぞ。

 恋バナも良いけど、今は仕事だ仕事!



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