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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第三章 燃え滾る熱血

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抜き打つ手刀


 魔獣討伐の仕事をやってみたい。

 ボウマの、そして私達の希望は一致した。


 魔獣を倒す仕事を実際に経験してみたい。やってみたい。

 私も魔道士の一人として、そういう思いはある。鉱山に現れる強い魔族を駆除し、作業員の安全を確保するのも大事な仕事だ。


 クラインの実家があるユノボイド領でならきっと魔獣討伐も大丈夫だろうというクラインの言葉もあり、私たちはその日はトロードスの宿に泊まって、明朝からユノボイド邸を目指すことにした。何にせよまずはクラインのお父さんから許可を貰わなきゃいけないからね。


 ……トロードス領。

 アクセサリーを買ったり、シモリライトを採掘したり、アネモネア・ゴルゴンと戦ったりもしたけど。

 マルガリータみたいな結構気の合う話し相手もできたし、色々あって楽しかったな。




 ユノボイド領に入り、菜園が広がる。そのまま旧貴族街に突っ込んで、ユノボイド邸へ。大通りを走って真正面に邸宅の入り口があるって、よく考えたら凄いよな。


「オレは先に中に入って父さまに事情を説明してくる。その方が話は早い。君たちは客間で休むか、食事でも摂っているといいだろう」

「じゃあ私もユノボイド君についていきますね。一応これも学園のことですから」

「ええ、お願いします」


 こっちはお客。悪い言い方をすれば部外者だ。言われた通り、じっとして待っているのが良いだろう。駄目って言われたら、その時は諦めるしかない。


「皆様はこちらでお待ち下さい。後ほど軽食もお持ちしますので」

『あ、どうも』

「ありがとうございます」

「っす」


 客間は広い。ソファーもあるし、ここだけで十分寝れる。

 ……外で討伐任務なんてやってる間は、このソファーみたいな所で眠ることもできないんだろう。

 とはいえ、私たちは……ソーニャ以外は、聖櫃で長期間の探索任務をこなした経験がある。食べ物に余裕の無い、不安ばかりのあの世界でもやっていけたんだ。木々に囲まれたくらいの未開の地なら、むしろ気楽かもしれない。


「討伐の練習、させてくれるかなぁ」


 使用人の人が運んできた飴の盛り合わせから赤っぽい色のものを口に放り込み、ボウマは珍しく弱気そうに呟いた。


「どうだろうね。けど、この領地はユノボイド家の裁量に任されてるんだろ? だったらクラインからの希望は通りやすいんじゃないかな」

『多少の危険はあるだろうが、それを理由に拒む家でもなさそうだしなぁ』

「……行きの馬車を襲撃してきたくらいだものね」


 賊だかなんだかの襲撃対応訓練やらされたもんな。クラインの言う通り、魔族の討伐なら喜んで承諾してもらえそうな気がする。


「なあ、ボウマはどんな魔獣を倒したいんだ?」

「うぇ? どんなって」


 暇だし、ちょっと気になったので聞いてみた。


「ほら、魔獣っていってもいろいろいるだろ。鉄鉱石で出来たゴーレムとか、岩クラゲとか、錆蜘蛛とかさ」

『喩えが偏ってるなぁ』

「ドラゴン! あたしドラゴンぶっ殺したい!」

「目標が尖ってるわねぇ……」

「はは、なるほど。ボウマはドラゴンキラーを目指してるわけだ。けどクモノスに竜っているのかな?」

「さすがにあたしだっていきなりドラゴンから倒そうは思ってないし。最初は普通のでいーよ」

『お? 意外と現実的じゃないか』

「ふへ。あたしはいつだって冷静に物事を……わかるんだじぇ」


 最後らへんが絶妙にアホっぽいけど、いきなりドラゴンと戦わせろとか言わないようで安心した。

 もう二度とラスターへッグみたいな大物と鉢合わせるのだけは御免だからな。


「やあどうも、皆さん」


 と、そんな他愛もない話をしていると、ラウドさんがクラインとマコ導師を伴って部屋に入ってきた。随分と話が早い。もう許可をもらったんだろうか。


「話はある程度聞いているよ。トロードスではアネモネア・ゴルゴンの討伐に巻き込まれたのだってね。災難だったと言うべきか、貴重な経験ができたと言うべきか、普通なら悩むところだが……それから日も経たずに魔獣討伐に出たいというのだから、君たちにとっては後ろ向きな騒動ではなかったのだろうね」


 ラウドさんはテーブルの奥側に座り、丸眼鏡を指で整えた。


「ユノボイド領内での討伐任務は許可しよう。魔道士たるもの、その力で民を守ってこそだ。それに、クラインの話を聞く限りではそれぞれの戦闘能力も高く、安全面は問題ないだろう。それに導師セドミストがついていらっしゃればそこらの警邏よりも盤石だと言って良い」

「いえ、それほどでも……」

「丁度今朝方、我々の抱える魔道士部隊が最新の出没状況を寄越してきたのでね。宛もなく森を彷徨う必要もないだろう。やってもらえるのであれば、私達ユノボイドとしてもありがたい」


 ラウドさんが手にしていた書類の一枚がテーブルに置かれる。

 そこには細かな文字で、何らかの報告がまとめられてあるようだった。


「ユノボイド領からススガレ領へ向かう領境、その付近の山林で野竜ノラドの出現が確認された。君たちには是非ともそれを討伐してもらいたい」

「竜!」


 ボウマのやる気が燃え上がった。いきなり竜かよ。


「ふ。竜とはいえ、ノラドはさほど危険ではないよ。もちろん力は強く、素人では手も足も出ない魔族ではあるが」

「えー、ドラゴンじゃないの……」

「こーら、ボウマ。言葉遣いちゃんとしなさい」

「いやいや構わないよ。……ノラドは翼を持たず、地上を歩き回るドラゴンだ。普段は森や洞窟を四足歩行で歩き回っているが、外敵の存在を察知すると素早く上体を持ち上げて両手を構えて戦うんだ。絵柄を見てみるといい。大きさも人間よりは一回りも二回りも大きいし、決して油断できる相手ではない」


 報告書に載せられた白黒の絵には、ノラドの特徴が図解で示されている。

 普段は手足の長い大トカゲのように暮らしているが、敵と戦う際には立ち上がって応戦するのだという。……長細い鼻先に弛んだ腹は間抜けなようにも見えるが、この二足歩行で歩くのが結構賢いのだとか。


 登りやすそうなちょっとした高さの木になら鋭い爪である程度までは登ってみせるし、不利と分かれば逃げるだけの判断力もあるらしい。

 クモノスではこうした魔族の討伐も精力的に行っているが、狭い岩陰にも容易く隠れることから根絶は難しい種族なのだそうだ。


「野竜ノラドは自然の中を自由自在に駆け回る厄介な竜だ。見た目はさほど美しくはないが、油断をすれば死者が出ることも珍しくない危険な魔族であることには違いない。家畜や人に危害が加えられる前に、是非ともよろしくお願いしたい」


 ……竜か。冠称に“竜”のつく大きい生き物は結構いるけど、ノラドの場合は種族がちゃんと竜の端くれってことなんだろうな。

 正真正銘、竜の一体。そう考えれば、私としては油断なんてできないよ。


「これ! これこれ! あたしこういうのやってみたかったの!」

「もう、元気ねえ……」

『ノラドか、悪くないかもな』

「はい、そうですね。……ではボウマさん、他の皆さんも。こちらの任務を受けるということでよろしいですね?」


 否はない。私たちは全員、迷いなく頷いた。


「ノラドは徒党を組まない魔族だ。見つければまず一対一で戦うことはできるだろうし、オレも仕留めきる自信はあるが……万が一、複数体に出くわすこともある。その場合は無理押しせず、安全な場所まで退避するぞ。危険な独断専行は許さないということだ。わかっているな、ボウマ」

「……うぃ。作戦とかは、詳しい人に任せるじぇ」


 本当に今日のボウマは素直だな。

 この飴のせいか? 一個食べてみよう。……ハーブの味がする。好みではない。


「……ふむ。私のような大人があれこれ指示出ししても成長には繋がらないか。ここは若者達に任せるとしよう。もし大きく脱線するようであれば、導師セドミスト。その時は」

「はい。皆さんを安全に、適切に導きます。お任せください」

「おお、これは安心だ。……よし、そうだな。討伐が早期決着となるかを問わず、現地で試しに一泊してみるといい。一日野営し、翌日中に帰ってくるんだ」


 一泊か。まあそのくらいなら平気だ。

 ソーニャが私の隣で替えの服について真剣に頭を悩ませているけど、一日くらいじゃどうってことないだろう。


『楽しみか、ボウマ』

「うん!」

『そうか。だが、油断はするんじゃないぞ』

「ふっふぅん。あたしはいつだって周りをピリピリ意識してるじぇ!」


 本当かよ。そう思って得意げにしてるボウマの後ろから頭に手刀を落としてみた。


「あでぇっ!?」


 当たるじゃん。


「ちょっと、かわいそうだからやめなさいよ」

「ごめん」

「ロッカに殴られたぁ! しかも右手でぇ!」

「ごめんて」


 うん、今のは完全に私が悪かった。すまないボウマ。


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