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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 熔ける環銅

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胞001 回帰する遠因


「えー、トロードス領は……銅? とかぁ……魔石とかぁ……石綿ぁ? とかの採掘で有名なんだってさぁ」

「ッシャオラァ」

「ロッカ、馬車の中なんだから大声出さないで。コビンが驚いちゃうでしょ。あと品のない叫び方も良くないわよ」


 私達は今、ユノボイド領からトロードス領に向かう馬車に乗っている。

 ボウマが観光冊子を読み上げた通り、これから向かう先は採掘業が盛んな地域。つまり良い土地ってことだ。

 ラガブルの水産業も見どころあったけど、私としてはやっぱり採掘の仕事の方が気になってしまう。


「トロードス領は職人が多いが、その分魔道士を育む土壌は乏しい。観光地としては……オレの印象にはあまりないが、シモリライトの石切場、鍋市……あとはトロードスの邸宅くらいのものだろう」

「読むの疲れたじぇ……ヒューゴ読んで」

「もう少し読む練習しとけよ。……やれやれ。えっと? うん、まぁクラインの言った通りの場所らしいね。鍋市は僕結構気になるな。鍋だけじゃなく色々な銅製品があるそうだよ」

『あくまで調理器具中心というだけなんだな? 見応えありそうじゃないか』


 いいよ調理器具は。寮に最低限のやつはあるし。でも安くて良いのあったら欲しいかも。


「トロードスには小さな初等理学学校があるそうなので、そちらの様子も伺ってみましょうか。ラウドさんの紹介状もありますし、施設の見学は色々と融通が効きそうです。皆さんも希望する場所があれば仰ってくだいね」


 私達を取りまとめてくれるのはマコ導師だ。

 ラウドさんから預かった紹介状は、領外でも私達の立場を保証してくれる。ただの観光客としてブラブラするよりも便利なのは間違いないだろう。


「僕はみんなについていきますよ。知らない街で迷ったら大変だしね」

「私も。一人じゃ危ないし」


 まぁヒューゴとソーニャに関してはそこまで心配してないんだけど、どっちかというとボウマの方が勝手にどこか行きそうで怖いんだよな。

 最近は結構大人しいから大丈夫か?


 ちょっとした不安や大きめの期待を懐きつつ、私達の馬車は襲撃されることなく順調に進んでいった。

 管轄の領が異なるとはいえ同じ干満街クモノスの中。到着はさほど遅くもならないだろう。




「魔道士として身を立てると、基本的には国や街に仕えるか、傭兵ギルドに所属するかといった進路があります。私の場合は杖士隊でしたので、国ですね。杖士隊は少し極端ですが、街に所属する魔道士は一般的です。昨日の練兵所にいた方々もそうですね。一部地域で役割を持つ、警官さんと同じような役職です」


 馬車の外からユノボイドの牧歌的な農地も見えなくなり、海岸と山林ばかりの景色になった頃。

 マコ導師はいい機会だからということで、魔道士の仕事について普段の講義っぽく話してくれた。


「仕事内容は警官のような治安維持、監視などもありますが、対応できる幅が広いのでどこでも重宝されますね。付近に湧いた魔獣の討伐、消火活動、あと副次的なものとして魔道士の存在そのものが、地域の犯罪率低下に寄与しているとも言われてますね。警官さんは同じ機体で揃えることが多いですが、魔道士はどこにいるかわからないですから」


 警官の姿はわかりやすい。水の国なら筒状の頭をしたメイディンコックで統一されているし、鉄ならライトメイルスの機体を使っている。疚しいことがなくても、近くを警官が通るだけでも少し首が竦む思いをしてしまう。

 反面、確かに魔道士はそれっぽい装いをしてないとわからない。杖士隊の人とかにもなれば専用の目立つケープとかを着込んでいるけど、ローブ姿ってだけだと一般人にもいくらでもいるし。杖だってロッドほど目立ってればわかりやすいけど、タクトや指輪だってあるからな。


「町に所属する魔道士さんは、平時はとても楽だと思いますよー。有事に備えて魔力を温存するので訓練も日を置くことが多いですし、基本的には町から離れないので街道を見て回ることも多くありません。駐在所で魔術の復習をしたり、時々初等学校にお呼ばれして子供に理学を教えたり……ってことの方が多いかもしれませんねえ」

『ほほう……案外暇なのですかな』

「はい。けど、それも町にもよりますけどね。大きいところだと仕事は沢山あるでしょうから、持ち場がコロコロ変わって忙しくなります。その分、働きが評価されやすいので上の組織に引き抜かれることも無くはないですが……。逆に落ち着いた環境で魔道士として過ごしたいのであれば、小さな町で働くのが一番ですよ。……小さいところに魔道士に払うお金があるかどうかはさておき、ですけどね」


 はー、魔道士もそんな感じなんだ。

 駐在所で勉強して、学校で魔術を教えて……いや無理だな私には。想像すらできねえや。


「その点で言えば、昨日皆さんが見て回ったラガブル。あの港町の魔道士さんはとても勤勉ですね。訓練にも本気で臨まれていましたし、ラガブルくらいの規模の町であれだけ本格的な備えをしている魔道士団体はそう多くはありませんよ。きっと、砦から見えたグレーターグマランなどの存在もあって、熱心なのでしょうけど」

「オレも比較するほど多くの街を見て回ったわけではないが……マコ導師の言う通り、クモノスの魔道士は他よりも精兵だ。特にユノボイド領の魔道士はよく訓練されていると言われている。一般的な魔道士としては考えないほうが良いだろう。そういう意味では……」


 幌の外に、町並みが見えてきた。

 山のゆるい斜面にへばりつくように段々と連なる家。遠くでは長い煙突から煙が棚引いているのが見える。


「これから向かうトロードスの魔道士は、一般的な連中だと思って良いだろう。トロードス家自体は魔術の修練に熱心だが、領民の多くはあまり興味もなく、そのせいか魔道士の質も特別高くはない。“普通の魔道士”の姿を見物するにはいい機会かもしれん」


 うん。まぁクラインの言いたいことはわかるんだけどよ。


「もうちっと言い方なんとかならないの」

「……他に言いようがあるか? 事実として、トロードスは五領の中でも最も……」

「お前それトロードス領に入ったら口に出して言うなよ……喧嘩になりそうだ」

「僕たちをクモノスの内戦に巻き込まないでくれよな、クライン」

『はははは』


 クラインはわざとらしく鼻息を大きく鳴らすと、眼鏡のレンズを付け直し景色(そっぽ)を向いてしまった。


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