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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第八章 動かざる石碑

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砥046 見切れる狙撃手


 路地裏に入った。

 そこは高層の建物たちに見下される場所で、一見するだけでも探すべき場所が多いとわかるエリアだ。この場所を踏破するのはちょっとした仕事になるだろう。


 一瞬、風を切る音。


「うわっ!?」


 私は咄嗟にアンドルギンを振り抜いて、どこからか飛んできた“それ”を横合いから殴り抜いた。


 歩いている最中に突然飛んできた何か。

 やってきたのは多分、回転する薄い鉄の刃だ。クラインもよく使う“曲刀(カトレット)”か何かだろう。正面から見た分にはほとんど目立たない投擲物なので、危うく当たるところだったかもしれない。


「ロッカ!?」

「下がれッ! 正面の奥にいるぞ!」


 私の叫びで皆が後退する。

 そうこうしている間にもまたもう一枚、こちらへヒュンヒュン飛んできやがった。


「わかってれば大したことはないな」


 刃物相手なので強化した素手で受けるのはちょっと怖いが、アンドルギンを進行方向へ適当に突き出しておくだけで刃は勝手にひしゃげ、消滅する。

 芯の欠損による全体消滅は、鉄魔術の弱点だ。薄い刃は見えづらいという強さもあるけど、こうして苦もなく処理されるのは弱みなんだろうな。


「おーい、敵かー!? 私はロッカだぞー!」


 念の為、今の攻撃が味方によるものかどうかを調べるために声を張り上げた。

 しかし返事はない。返ってきたのは、声もなく投げ放たれる一枚の刃であった。


「なるほど、だんまりしちゃいるが……こいつは敵ってわけだ」


 柄を手の中で回し、アンドルギンの頭を傘のように回転させる。

 グルグル回る歯先に弾かれ、飛来した凶器は瞬時にかき消された。


 ……それに今ようやくわかった。時々大声で聞こえてきた“敵かー!?”っていう声、あれは襲撃してきたのが味方かどうかを確認してたんだな。

 ほとんど操られてる人だとわかっていても、なるほど。確認せずにはいられないもんだ。


「敵の攻撃はここまで下がれば当たらないようだね。一応地図に記しておこう」


 私もある程度後ろへ下がると、攻撃が止んだ。飛んできた方向も何度も見て把握したので、敵の潜伏地点もわかっている。


「ふむ。これは二階の部屋……か? 窓越しに投擲してきたのだろうか……」


 ダルナドフは目を細めているが、距離は結構ある目が悪いと見えにくいのかもしれない。


「しかし遠い……僕は目がそう良くなくてな……他の人は見えたかね?」

「ごめんなさい。私もあまり、眼は良くないから」

「あ……すまない」


 モヘニアの右目を覆う鈍色の眼帯を見て、ダルナドフは素直に謝った。

 しかしモヘニアは上機嫌に手を緩やかに振って、“良いのよぉ”と返している。……一口お酒を飲んだだけで随分な変わりようだな……。


「んぅ。ロッカさんとヒューゴさんからは、見えるのかしら?」


 モヘニアは遠くを左右に覗き込むような奇妙な動きをしながら訊ねてきた。

 私とヒューゴは顔を見合わせる。


「窓際の……あれだよね、ちょっとだけ肩……かな? それが出てるやつ」

「お、ロッカにも見えるんだ。そうだね、僕も多分それが魔道士だと思う」

「間違って無かったか。二人合ってるなら正解っぽいな」


 しかしこちらもはっきりと見えるわけではない。なにせ相手は微動だにしていないし、身体もほんの一部がチラっと見えるだけなのだ。

 けど正解そうならその線で行ってみよう。


「じゃあこの建物の二階の窓際にいるものとして地図に描くけど……一本道をどう進んでいくべきかな。さっきまでの様子だと、迂回路もかなり入り組んでいるだろうし……」

「仕方あるまいさ。敵の位置がわかっただけでも十分ではないか? 射線に入らないルートで進んで行く他ないだろ」

「いや、他に手はあるよ」


 私がそう言うと、三人が“なんだ?”という顔でこっちを見た。


「私がアンドルギンでここらへんの建物の壁に穴を開けて進んで行けば良いんだよ。そうすれば相手の攻撃に晒されないまま最短距離でいける!」

「……よし、迂回しよう」

「……そうだね」

「……それが一番ね?」

「ちょっと無視しないでよ」


 結局私の案は“一人だけが無駄に体力を消耗する”という極々真っ当な理由で却下された。

 ……確かに、言われてみるとちょっと疲れるかもしれない。

 掘ってる間はかなり気晴らしになるんだけどなぁ。




「“キュアーズ(水精よ)ラギレルテル(跳ねろ)”!」


 樫木(カシ)のロッドが上向きに突き出され、凄まじい勢いの水が射出される。

 水は僅かにうねり、二階の窓を狙う蛇のように軌道を曲げる。すると水流は見事に部屋の天井の角に当たり、内部に大量の水を撒き散らすことに成功した。


「“テルス(風に)キュアー(凍てつけ)”!」


 次に間髪入れずに放たれるのは氷の術。水属性に類するこれは術者の扱う水を効率よく凍らせることができ、水属性術を扱う魔道士にとっては欠かせないもの……だそうだ。私自身も何度もこの氷属性に動きを封じられているので、厄介さは身に沁みている。


「ははっ、どうだ見たか! これが集中した時の僕の全力さ!」


 道を迂回し、無事に標的の建物の直下へとたどり着けた私達は、今度はダルナドフに魔道士の制圧を任せていた。

 やることは簡単で、二階にいる相手の死角になるような位置から窓へ水を投げ込み、弾けたところで凍らせる。


 ダルナドフによれば位置的にも氷で拘束するのは問題ないそうである。

 しかし“見たか!”とダルナドフに言われても“いやこっからじゃ中は見えねえよ”と返すしかない。実際どうなんだろう。上手く魔道士は拘束できてるんだろうか。


「さあ、ここからは堂々と二階へ上がり、魔道士を拘束するだけだな!」

「……んー……本当にできたのかしら……?」

「手応えはあった! フフン、あれだけの水量があれば数分は身動きが取れまいよ!」

「“イオニアル(溢れる程の猛火)”!」


 ダルナドフが偉そうに胸を張っている間に、二階から小声が聞こえてきた。

 イオニアル。うん……火属性だな。


「あ……いや、うむ……あれは……相手はまだ辛うじて動けているようだね」

「ああ、窓から炎が揺らめいているのが見えるね。どうやら脱出されたみたいだぞ、ダルナドフ」

「ぐっ……」

「相手は意識さえあれば最適な魔術を使って切り抜けるみたいね……フフッ。私も氷で動きを封じる戦法は好みだけど、意識を奪う方が向いているのかしら?」


 相手を気絶させる。これがまたなかなか難しいんだよな。遠くからやろうとなると、さすがの魔道士でも手こずるようだ。

 操られている人間ではない普通の精神をもった奴が相手なら、少しは動揺だってするし、ヘマを踏んだりもするだろう。そういう手合いなら氷で動きを封じた隙に、ってのは良い戦法だったんだろうけども。


「しょうがない。もう一度上から水を注いで、雷で仕留めるか。穴はまた私が掘るよ」

「ぐっ……僕も活躍したかった……!」

「まあまあ、よくやったよ」

「フフッ……」


 一進一退だったり、手探りだったり。それでも私達四人チームは、そこそこ順調に進めていた。


 建物内部にいる魔道士が相手なら水と雷で完封する方法も見つけたし、最初に警戒していたほど流れは悪くない。

 このまま何事もなく、良いペースでやっていけるんだろうと思っていた。




「うわぁー! ライカァーン!」


 その時、どこか遠くでボウマの悲鳴を聞くまでは。


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