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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第八章 動かざる石碑

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砥044 成功する児戯


「見つけたのか!? 魔道士を! 怪我はないか!?」


 幸い、ダルナドフとヒューゴはこちらが呼ぶまでもなくすぐにやってきた。

 私も大きな声出したり魔術の音も出た。気を張っていればそりゃあ気付きもするか。


 二人はかなり緊張した面持ちでやってきて、私とモヘニアがいる廊下に並んだ。


「怪我はないよ、平気。炎のなんか竜みたいなの出してきたけど、ギリギリで避けたから。魔道士は……二つ向こうの部屋の、一番奥にいたかな。一瞬だったから顔とかはよくわからない。男だったけど、特徴までは見れなかったな」


 そもそも一瞬で飛び退いていなければ炎に飲まれていたはずだ。こればかりは仕方ないだろう。


「魔道士は飛び出して来ない……みたいだね。その様子だと」

「うん。多分部屋の奥から動こうとしない。平地に居たのと同じタイプだと思う」

「なるほどね……うーん」


 ヒューゴは床に降ろされた私の背嚢の焦げた部分を撫で、唸った。


「なあ、君達。それで、どうするんだ? どうやってその部屋の奥にいるとかいう魔道士を倒す?」


 ダルナドフの言葉に、私達は各々思考を巡らせ、暫し沈黙した。

 けどそんなに考えるまでもない。私の答えは簡単だ。


「バッと出ていって石投げてぶつける」


 ダルナドフが“君は何を言ってるんだ”と呆れた時のクラインみたいな顔をしているがこっちは本気なんだよ。


「……悪くは、ないかも」

「うん。僕もモヘニアの言葉には同意かな。案外悪くはない」

「はあ? 何を言って……」

「身体強化で素早く廊下を走って、途中の部屋に全力で石を投げる……ロッカならそんな芸当も難しくはないだろうからね」

「野蛮すぎないか……? 魔道士のやることじゃない」


 なにが野蛮だ。こっちは真面目に考えてるんだぞ。


「粗野でも乱暴でも、結果さえ出せればそれで良いんじゃないか? なんなら参考までにダルナドフの意見も聞いてみたいところだけど」

「ぐ……良いだろう。もちろん、相手が籠城して動かないのであれば対処は決まっている。その間にこちらが環境を構築し、部屋前の廊下に優位な状況を作り上げる。それが一番賢いやり方だろうさ」


 なるほど、環境か……。


「よくわかんね。具体的にどうやんの?」

「魔道士ならそれくらい……当然、一番確実なのは水属性術で水浸しにすることさ。部屋前の廊下に氷の堤防か何かを作り、水魔術が部屋の内部に流れ込むようにする。その後は凍らせるでも氷壁を作るでも、雷が使えるなら感電させるでもいくらでもやりようはあるだろう?」


 おおー……なるほど。色々できるじゃん。一つだけじゃないんだ。


「炎なら言うまでもない。相手の姿が見えないから直接狙うことはできないが、集中すれば多少は障害物を迂回できるんじゃないか? 何発か試せば多分当たる……と、思う」

「はー……魔術ってすごいな」

「……僕を倒して本戦出た奴が今更何言ってるんだよ……」


 ダルナドフは落ち込んだ。

 けどしょーがねーだろ私まだ学園通って一年なんだから。


「……けど。相手は敵とはいえ、魔獣でも魔族でもないわ。火属性魔術を使って火傷を負わせるのは、どうなの……」

「う」


 確かにそうだ。

 相手が人間だったら火の熱さに降伏していたかもしれないし、魔獣だったら倒せば終わりかもしれない。けどここにいる魔道士は降伏なんてしないし、動けなくなるまで全力で戦おうとしてくる。火傷だってそう簡単に治るものでもない。

 火属性とは相性が悪かった。


「つまり、投石するか……環境から攻めるなら水属性ってことかな。他でやるなら僕の風を迂回させればいけなくもないけど……いや無理か。さすがに見えないのは辛いな」

「投石はそれほど信用できるのかい……? そもそも勢いよく相手の射線に入るのも無謀じゃないか?」

「……そうだね。僕としては間近で何度も見ているからロッカの投石は信頼できるけど、相手の術の発生速度と比べると少し不安が残るな。ロッカ、相手の使ってきた魔術はどうだった? 身体強化で防げそうかい?」

「いや」


 私は首を横に振った。まあ、少しはいけるかもしれないけど。


「あの炎はすごい熱気だったし、身体強化も一瞬で剥がされるんじゃないかな。オイルジャケットは結構耐火性あるけど、露出した肌の部分は守りきれる気がしない。石投げも横に動きながら正確に当てるのは難しいし、炎に阻まれたら難しそうな気もしてる。何回かやれば大丈夫かもしれないけど……」


 遠くからだったらいくらでも投げ込んでやれるけど、自分が素早く動きながらだとさすがに自信がない。

 ジャケットのボタンを全部閉めれば耐火性って意味ではより万全さも増すだろうけど、この服前閉めるとすげー固くて動きにくいんだよな。


「……体力の消耗や、魔力の消耗は抑えたいところね……。ロッカさんの石投げは、悪くないけど……でも危険だし、強化の魔力を失うと後が怖いかも……」

「そうだね。もちろん、ロッカ以外のメンバーの消耗だって抑えたい。ダルナドフの言った環境をしっかり構築して攻めるのは確実だけど、結構魔力を使うよね? この部屋と同じだけの広さの場所に相手魔道士がいるとして、そこを水で満たすだけでも結構苦労しそうだ」

「それは……否定はしない。でも他に、無難な手はないだろう?」


 一同が黙る。

 ……どうにかする手段はある。色々とある。

 けどこれから先を見据えた時、どうしても考えてしまうのが“消耗”だ。

 先のことは無縁じゃない。現実問題としてぶちあたる可能性が高いだけに、私達は頭を悩ませるのだった。


「部屋の奥にいる相手に安全に、直接水を当てることができれば楽なんだけど……」


 モヘニアも頬をおさえて悩んでいる。

 安全かつ確実に、力をセーブして魔術を当てたいだなんて贅沢な悩みだと一瞬思ってしまったけど。


「あ、できるじゃん」

「え?」


 私の考えたこれだったら、別に苦労はしないんじゃないか?

 そう思えば、一気に悩んでいるのがバカバカしくなってしまった。


「ロッカ、何か考えでもあるのかい?」

「あーうん。考えっていうか、作戦っていうか……多分うまくいくと思うんだけど」


 これっぽっちもやったことはない作戦だけど、やれない気は全くしない。

 私もそんなに考え事が得意というわけじゃないけど、それは“普通にできるだろ”って思えてしまうようなものだった。


「とりあえず、この部屋を移動しようよ。ていうか、移動してる間に多分みんなもわかると思う」


 私がそう言っても三人はまだピンときていない様子だったが、多分すぐにわかるだろう。




 そういうことで、私達は今いる場所から更に一つ上がった階へとやってきた。

 この構造物は階層ごとに同じ部屋割になっているので、一階分上がっても廊下や部屋の様子が変わった風には見られない。


 それはつまり、ひとつの部屋の真上や真下は、まるきり同じ形の部屋があるわけで。


「あーそういうことか。ははは」


 私が一つ上の階の部屋の奥に行くと、ヒューゴは笑った。

 そうだよな。笑うよな。だってすごい簡単だもん。


「なあ。どういうことだい? この部屋には外につながる窓なんて無いぞ」

「……あ、もしかして」


 モヘニアも気づいたようだ。まあ気付くよな。


「わざわざ敵から遠い部屋の入口なんて使う必要がないってことだよ」


 ダルナドフはまだちょっと固い考えから抜け出せていなかったが、私がアンドルギンを手に持てばすぐに理解して、ぎょっとした顔をしてみせた。


「は……ははは! そうか! そういえば君はそんな魔道士だったな! いや、一度僕もそれにやられたっていうのに、忘れていたとは!」

「そ。相手の居場所は完全にわかってるんだ。だったら横からいかずに、真上から攻め込んでやれば良い」


 構造物はそれなりの厚みの壁や床をもっているが、なあに。

 アンドルギンにかかればここのヤワな煉瓦なんて、何メートルの厚さがあってもへっちゃらだ。


「一応聞くけどさ、モヘニア」

「んっ?」

「小さい穴から水を垂らして、その水を伝って雷魔術とかで感電させるのって……簡単?」


 私が訊ねると、モヘニアは口元を控えめに隠しながら笑った。


「……ふふ、簡単よ。階段を上り下りすることよりも、ずっとね」



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