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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第八章 動かざる石碑

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砥010 呼び戻す号令


 そうだな。雰囲気は良いとは言えないだろう。

 どんよりしてる。普通に暗い。ブライオンの事件がはっきりと尾を引いてる様子だ。


 もちろん彼らも若者なりの勢いというか、激情なりを持ち合わせている。

 自分でも何か動きたい。どうにか学友を助けたい。そんな前向きな会話も時々は聞こえてくる。

 それでも“じゃあどうすればいいだろう”ってな具合になるわけで、まあ、みんな誰もがやり場のない気持ちを抱えているわけだ。


 酒も入っているせいか、ほとんどの話は堂々巡りだ。

 鬱憤を喉元まで吐きそうになったり、飲み込んだり。そんな短いやり取りを繰り返して、慣れない酒量のせいか潰れていく。

 普段はそんなに飲まない人ばかりなんだろうな。荒れっぷりを遠目に見てて、そう感じる。




『絢華団……となればやはり、レッドカードがなければ厳しいのですか』

『ええ。しかし俺なんぞは長年傭兵としての実績もありますので、それで審査が通った面もありますから。メイボルドさんが今から取得されようとしても、難しいかもわかりませんな』


 ライカンはさっきから四角い頭の老機人と話している。

 ギルドについて説明してやっているようだ。


『なるほど……そのような取り方も。ありがとうございます、ポールウッドさん。とても参考になるお話でした』

『いえいえ。お安い御用です。まあ、昔のギルドがゴチャゴチャした時代の話でもあるので、今どこまで通用するのかは未知数ですが』

『ふむ……こうしてはおれません。時間は有限ですからね。早速、手続きに行ってこようかと思います』


 全機人のメイボルドさんはこの大会期間中に少しでも街のためになりたいと、傭兵になるつもりらしい。

 横から聞いた話によると彼の故郷には傭兵ギルドだとかそういった便利な組織の支部がなかったらしく、このミネオマルタで見聞きするものはどれも新鮮なものばかりなのだとか。

 声からして随分な歳だろう。それでもまだ新しいものを覚えようとしているし、若者以上の熱意もある。メイボルドさんとはほとんど言葉を交わしてはいないけれど、すごい人だなと思った。


『おっと、失礼』

『ああ、どうもすみません』


 メイボルドさんと入れ替わるように、新たな客がやってきたらしい。

 男の声だ。今度は誰だろうなと振り向いてみた。


『失礼。ああ、お騒がせするつもりはない。お客様方はどうか気にせずそのままで』


 円筒頭の機人警官(メイディンコック)がそこにいた。

 いきなり警官の登場である。腹に一物あろうとなかろうと、パブに現れた非日常的な人物の姿は、酔っ払った若者たちをしんと静まり返らせるのに十分な威容があった。


『さて……』


 何事だろうか。ここに誰か……指名手配でもされてる極悪人でもいるってのか。

 いやでもそんなことはない。ここにいるのはほとんどが魔道士だし、知ってる人同士も多い。怪しい奴がいたらすぐにわかるはずだ。


 警官はじっとりと黄色い眼光を振りまき、パブの中を見回している。

 目当ての人物がいるのかもしれない。それは自分じゃないとわかっていても、落ち着かない視線だった。


『ここに“ロッカ=ウィルコークス”という女子学徒がいると聞いて来たのですが』


 わ、私だった、だと……。


「ロッカと呼ばれている人なら……」

「それは……まあ」


 店内のみんなの視線が私に集中する。

 “一体お前は何をやらかしたんだ”と言わんばかりの猜疑の眼差しだ。

 でもそんな目で見られたって困る。私は何もやってないぞ。多分……うん、多分やってない。


 ら、ライカンは信じてくれるよな?


『何があったんだろうな? ロッカ』

「私もわからない……どうしよう、なにかやっちゃったのかな」

『いや、それは早計だろう。気にしすぎじゃないか』


 より静まり返った店内を、機人警官が遠慮なしにカツカツと歩んでくる。


『ロッカ=ウィルコークスさんですね』

「は、はい……」


 お、おっかねえ……。


『お楽しみのところすみませんが、捜査に進展がありました。参考人として、至急我々に同行していただきます』

「……逮捕されますか?」

『は?』


 私が恐る恐る尋ねると、警官は眼光を瞬かせた。


『ああ。ははは、逮捕などしませんよ。参考人として来ていただくだけです。驚かせてしまいましたか? だとしたら申し訳ありません』


 うわあ、怖かった! 逮捕じゃなかったか! 良かったぁ!


『ほら言っただろ? ロッカ。警官だからと、そうビクビクすることはないぞ』

「いや……でもなんか警官って、ちょっと苦手でさあ……」


 デムハムドでもそうだったし、ミネオマルタに来てからもそうだ。あまり警官には良い思い出がない。

 後ろ暗いところなんてないけど、何をネチネチ言われるかわかったもんでもないしさ……。


『外には馬車を待たせてあります。そちらの方は絢華団より雇用された護衛でしたね?』

『いかにも。俺も同行するぞ?』

『もちろんお願いします。……ああ、できれば急いでいただきたい。この店の支払いは結構ですから。……店主?』

「はい、こちらです。……請求はどちらに?」

『二人分の支払いはまた後日、こちらに伺わせていただきます』

「ええ、よろしくおねがいします」


 どうやら酒の代金も免除されるようだ。

 これも国からの援助ってやつなんだろうか。だとしたらありがたい話だ。


『やったな、ロッカ』

「うん。儲けちゃった」


 そんなに飲んでなかったけど、私達はケチだからな。ちょっとお金が浮いただけで上機嫌になってしまう。

 ライカンと小さく拳を突き合わせ、私達は意気揚々と店を出るのだった。


『では、ラリマ競技場へ向かいます。準備はよろしいですね?』


 そして行き先はまたしても競技場だ。


 ……私の大会はもう終わっているけれど、まだまだこの建物からは離れられそうにない。


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