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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第八章 動かざる石碑

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砥008 語り聞かせる体験談


 パブにいる魔道士の面々は、様々だ。

 中には私も思い出せないか、見たことのない人も多い。

 それでも彼らは私のことを知っているようで、過去に何度か会った知り合いみたいな態度で接してくる。


「よく来てくれました、“クランブル・ロッカ”。あなたの闘い、見ていてとても楽しいです。最後の試合も健闘されてましたね」

「あ、ども」


 見知らぬ女性と握手したり。


「岩の特異性は初めて見たよ。しかも芯が無くて、壊れても消えないなんて……」

「あ! それ私も思った。一体どうなってるの?」

「見せて欲しいわね……消滅は水と同じくらい? 氷に匹敵するとしたら投擲が強くなりそう……」


 話しかけられたと思ったら、私の魔術について身内で勝手に話し合いを始めたり。


「ロッカさんはワイン飲む? それとも赤ビール?」

「ああいや、私は……まだいいかな」


 お酒を勧められたり。まあとにかく人数が多いもんだから、目が回る。

 人が多いだけの場所とは違い、皆が皆私にちょっかいをかけてくる。一人一人に対応するのもなかなかしんどかった。


「まあまあ、“クランブル・ロッカ”が戸惑ってるじゃないか。そんな一度に話しかけるもんじゃねえよぉ」


 助け舟を差し出してくれたのは、程よく酔っ払ったガルハートである。

 しかし元はと言えばこいつに誘われてやってきたのだから、そのくらいのケアは当然だとも思う。結局のところ私はどうすればいいんだよ。


「皆、色々と気になってるのさ。お前さんの闘い方ぶりにしても、語りたくなるしよ。純粋に魔道士として、岩魔術ってやつに興味を抱いてる奴も多い。“(みぞれ)”さんも、そっちのクチだろ?」


 話を振られた“霙のシュェ”は、どこか気まずそうに頬をかいている。


「ええ、まあ、そうですけど……けど、ツルハシのメイスも気になってますね……」

「これ? アンドルギン」

「いや、そんな名前なんて言われてもわかりませんし……」


 奇杖職人エルナの最高傑作だぞ。知らないのか?

 何十何本あるうちで一番出来のいいやつなんだぞこれは。


「いや、もういいですって。ジロジロ見て悪かったですから。……はあ、試合は見てました。私もメイスを使っていたので、気になっていて」

「ああ。そういえばシュェもメイスを二本持ってたりしたね」

「……見てたんですか?」

「もちろん」


 ナタリーとの試合だったしよく覚えている。まあ、内容は一方的なものだったが……。


「……恥ずかしいところ見られましたね。精進しなくちゃ」


 そう言って、シュェは手元のワインを一気にぐいっと呷った。が、むせている。元々そんなに酒に強いタイプではないのかもしれない。

 そもそも背がちみっこいので、成人しているかどうかも怪しいのだが……。


 さて、シュェはともかく、私と縁のある人たちとも思いがけず再会できた。

 この機会を逃しておく手はないだろう。ということで、私は窓際で一人寂しく飲んでいるリュミネに近づいた。


 予選の最終で当たった影属性術使い、“日陰者のリュミネ”。

 目に見えない独特の魔術は、慣れない私を大いに苦しめてくれたものだ。


「や。リュミネもここに来てたんだね」

「はあ」


 リュミネは私に振り向くと、気のない返事で返した。手には干しぶどうを持っている。


「ああ、“クランベリー・ロッカ”」

「誰だよ。クランブルだ。つーか今気付いたのかよ」

「お久しぶりです。本戦は見ました。凄かったですね」

「凄かった……かな。まあ確かに、最後のあれはな……」

「入場時の楽隊が華やかで」

「そっち……?」

「冗談です」


 真顔で冗談言うのやめてくれ。相変わらず掴みどころの見えてこない人だな……。


「貴女が、ええと。“整備人のベロウズ”に敗北した後、行方不明になり。そしてかなり後になって戻ってきたと聞きました」

「……やっぱリュミネも知ってるんだ」

「大事件ですからね。ですが、詳しくは知りません。どこで何をされていたのですか?」

「どこで、何をって……うわ」


 振り向くと、他の魔道士たちが興味津々にこちらに顔を向けていた。


『はは。同じ魔道士としては、さすがに気になるんだろうよ、ロッカ。話してやってもいいんじゃない?か』

「まあ、うん……」


 ライカンにそう言われたら、まあ確かにその通りだと思った。

 隠し立てするようなことではない。むしろ同じ魔道士たちに、私が被ったトラブルについて共有してやりたい。

 酒の席だ。愚痴がてら話すとしよう。


「……わかったよ。複雑っていうか、難しくて私も正しくわかってない部分も多いんだけど、最初から話すね」

「おっ、いいのか聞いちゃっても。すげえ気になる」

「新聞じゃ限界あるからな。助かるよ。教えてくれ」


 いつのまにか窓際に沢山の人が集まり、大変なことになっている。

 落ち着かないけど……まあ良しだ。こういう注目のされ方、そんなに悪い気はしないしね。




 私は時系列順に、できる限り細かく話した。

 試合の後、壇上で光を見たこと。変な空間に転移していたこと。そこで穴を掘ったり、人を張っ倒したりしたこと。

 最終的に……スキラー・ブライオンの手引きでどうにか脱出できたこと。

 途中途中で質問とかも飛んできたけど、それを捌いたり捌かなかったりしてどうにか最後まで説明できた。

 こういう時、クラインのような教えるのが上手いタイプが羨ましくなる。彼ならきっと、今の半分の時間でしっかりと説明できてしまうんだろうな。


「はあ、スキラー・ブライオンによる拉致、か……」

「新聞にはあった。情報も回ってるけど……魔術で異空間を創るなんて、とんでもないな」


 話し終えた後は、まるで酒が入っていないかのような神妙な雰囲気になっていた。

 お互いに説を交わしたり、不明瞭なことを聞いたり……端からみると非常に頭が良さそうに見える。

 でもそれも無理もない。まだ未解決の事件なのだ。それに、犯人は魔道士を狙っている。酔っ払ったままじゃいられねえよな。


『失礼、リュミネ嬢。お聞きしたことがあるのですが、よろしいでしょうか』

「はあ、いいですけど」


 リュミネに声をかけたのは四角い頭の全機人。しわがれた声からして、随分と歳のいった男性のようだ。


『異空間を生み出す影魔術の存在は知っています。ですが、それは非常に高難度であることは有名ですね。……今の“クランブル・ロッカ”の状況説明からして、ブライオンという人物は外部から数十人の人間を異空間に閉じ込めている。そのようなこと、果たして可能なのでしょうか』

「普通に考えれば無理ですね。異空間に物を保持しておくことはできますけど」

「えっ、できるの」


 衝撃のあまり思わず割り込んでしまった。


「できますよ。とはいえ、事前に準備を整えた場所、物、距離など……制限は多いです。何より、私が今手に持っているグラスのように、魔力と馴染みの無い白物質などは相性最悪です。実用的なものといえば、せいぜい自前の杖を手元に出現させるような使い方じゃないでしょうか」

『ふむ、なるほど。人を異空間に招くのは難しい?』

「禁術の類だったらあるかもしれませんけどね。私は模範的なので知らないです」


 さいでか。

 ……うーん。捜査本部でも色々と話されてはいたけど、やっぱりスキラー・ブライオンの超人的な部分ばかりが浮かび上がってくるな。

 話せば話すほど、相手の異質さが目立ってくる。


「まだうちの学園の魔道士も帰ってきてないやつがいる……大変だよ」

「うちのクラスの子もそうだわ。お金は出してくれるから滞在は困らないけど、だけどとてもじゃないけど……大会が終わったとしても、そのままあの子を置いてミトポワナに帰るなんて……」


 事件の傷跡は広く大きい。

 パブで面白おかしく賑やかに飲んでいても、私達がこの現実から逃れきることは難しかった。


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