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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第八章 動かざる石碑

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砥002 布告する王命


 騒動から一夜明け、朝。

 ラリマ競技場の前には大勢の人が詰めかけていた。

 報道関係の者、警備の者、野次馬。混雑は同時刻で最も忙しくなるはずの市場をも上回り、混沌と化している。


 ラリマ競技場で行われたマルタ杯本戦。

 その最中に起きた大事件は瞬く間にミネオマルタに響き渡り、警察の捜査資料にも劣らない内容の号外が各新聞社から頒布された。

 もちろん、無関係な者が独自のルートで調査した内容は正確であるはずもない。


 “暗殺者の再来か”

 “魔導士を狙った事件再び”

 “犯人は未だミネオマルタ内を逃走中”


 様々な憶測や妄想を交えたそれらは新聞社ごとに異なっており、中には悲観的なものも多い。

 マイナスに偏った情報の連続は、人々の不安を逆なでするばかりであった。

 謎多き失踪事件への恐怖も当然あるが、多くの人々のうち、事件の全貌を知りたがる者も少なくはない。一夜明けて現場へ赴く心理は、極々自然なものであろう。


 だが、それを見越してかどうかはわからないが、ラリマ競技場の前にある代理人が訪れていた。


 ザイキだ。

 しかし、ただの執政官としてのザイキではない。

 彼の平時とは異なる独特の装いは、知る者からすれば多少驚かれるものであった。


「王の言伝と決定を布告する」


 鮮やかな水色の礼装に身を包むザイキは、水国における王直属の執政官だ。彼はどこからともなく運び込まれていた演説台の上に立ち、人々に向けて言葉を発していた。

 両隣には国王直属の魔道士部隊“アルゴナイツ”らが控え、その表情を仮面に隠し、佇んでいる。


「……誰だあれ。普通の役人とは違うのか?」

「馬鹿、ありゃ王様の遣いだ。偉いんだよ」

「初めてみた……あの制服……」


 どちらもそうそう目にすることのない役職であり、他所から来た観衆の中には疑問符を浮かべている顔も混じっている。それでも王の遣いを名乗る彼らに一定以上近付こうとしないのは、彼らが独特の空気と“王”に相応しい威圧感を持っていたからかもしれない。


「まず言伝から。……“未来ある若者を狙った今回の事件は到底看過されるべきものではない。水の国およびミネオマルタはこれを早急に解決すべく、近隣領地との連携を密にして臨んでゆくものである”」


 ざわめきが広がった。

 言葉そのものは当たり障りのない当然のものであるが、水の王が季節の節目以外で何らかの意図を表明したということが、人々にとっては新鮮だったのだ。


 人々が抱いている名も知れぬ水の王の印象といえば、“寡黙かつ秘密主義”。

 名も姿も明かさないまま王の座に君臨し続けてきた水の王は、火の王と並んで謎が多い。

 以前の不定期表明で言葉を伝えたのは、三年前の暗殺事件まで遡る。

 つまりそれは、今回の事件もそれと同等と見なされているということに他ならなかった。


「“また王命により、マルタ魔道闘技大会の中止は無く、続行するものとする”」


 今度は更に大きなどよめきが広がった。

 だが人々の反応を意に介さず、ザイキは続ける。


「“遠方より大会に参加、あるいは友人・親類・学園関係者の観戦に訪れた者の追加滞在費用は王室より負担する”」


 大会が続けられる? これほどの騒ぎになっているのに?

人々の混乱は落ち着くことがないが、ザイキの言葉はひたすらに淡々としていた。


「“また、一部治安に纏わる権利を監督者として訪れているアックス、レドラル=ハワード、ジェーン=ダークらに貸与することをここに布告する”……王からの言葉は以上だ」


 羊皮紙を丸め、ザイキは役目を終える。記者は既にカメラを手に光を焚いているが、彼ら王の遣いが報道陣の質問に答えることはない。

 彼らの役目はあくまで布告。記者会見ではないのだ。

 だからその場で人々が疑問を投げかけようとも、ザイキとその傍らのアルゴナイツ達は反応を示さず、粛々と小さな馬車に乗り込むばかりであった。

 この後馬車は役場へと走り、王の布告を正式に執政官らへと届けるのだろう。


 事件の混迷は極まっている。

 だが、国は大会の続行を決定した。


 解決の目処が立っているのか?

 それとも単なる考えなしの王の蛮勇なのか?


 ただひとつ間違いないのは、まだミネオマルタを取り巻く熱気が冷めることはないということだ。



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