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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第二章 貫く鉄錐

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擦014 一服する導師

 中央棟五階の会議室に、導師達が集まっていた。

 机の上に並ぶのは、二つの紅茶と二つのコーヒー。

 集まったのは属性科と特異科の導師、四人である。

 ただし特異科を担当する導師はマコ=セドミスト一人のため、うち三名は属性科の担当導師である。

 彼らが理学研究をそっちのけで会議室に集まったのには、並々ならぬ訳がある。

 議題はもちろん、ナタリーとロッカの闘技演習の件についてであった。


「まさか、こんな時期に上級保護指定の闘技演習が行われようとは」


 上級保護の闘技演習に流血は避けられない。

 時として死者すら出る危険なルール下での演習は、通常は複数の導師立ち会いのもと、協議を重ねた上で張り出しが行われる。

 命に関わる問題が起こりえるのだから当然である。

 が、今回の一件では、導師達が張り出しに意義を唱えることはなかった。

 問題児が怪我をして大人しくなるか、問題児候補の特異科学徒が怪我をして大人しくなるか。

 結果がどちらにせよ、構わない方向に転がるだろうと考えているためだ。


「しかし、明日の上級保護演習を心待ちにする学徒の粗野な盛り上がりは、学園の風紀を乱しています」

「確かに色めき立っていますね。二日前のナタリー=ベラドネス参加の闘技演習では、観覧席が埋まりましたし」

「この問題、ゾディアトス殿が来るまで尾を引かなければ良いのですが」


 属性科の導師の関心は、既に闘技場にはない。

 血を流す闘技場が及ぼす、周囲への影響ばかりを懸念していた。


「あの……その……そういう言い方は……」


 彼らの“問題児一人や二人の存在など問題ではない”という姿勢は、マコ導師にとって相容れないものであった。

 が、それを彼が言えるはずもない。

 マコ導師とはそんな男だった。


「なに、安心してください、セドミスト導師。闘技演習は原則として、初級であれ上級であれ、学徒が合意の上であれば自由に行えるもの。ロッカ=ウィルコークスに罰則などは適用されませんよ」

「セドミスト導師は学徒想いですからな」

「ははは」

「あの……うう……」


 特異科唯一の導師として呼ばれたはいいものの、マコ導師は発言権も発言力も皆無であった。

 彼を弄ぶ間にカップを一口飲んで、再び話題は戻される。


「セドミスト導師にとっては災難でしょうが、ウィルコークス君の大怪我は避けられませんね」

「まあ、同意の上での参加であれば止めようもないので、仕方ないのですが……この一件を経てナタリーが増長し、再び素行の悪い振る舞いをされるのは困りものです」

「早速、サナドル家の御令嬢にまで手をかけましたからね」

「両親にまで伝わらなければいいのですが……来年は噴水の整備費を多く取られるやもしれません」

「鉄属性のならず者達にも、困ったものですな」


 ナタリーを筆頭とした鉄属性専攻の学徒には、三年生に限らず、周囲とトラブルを起こす荒っぽい学徒が多かった。

 というよりは、水面下での静かな競争の内に収まっていないと表現するのが正しいだろう。

 属性科の誰しもが周囲への敵愾心を忍ばせているのだが、鉄属性の一部学徒はそれを隠そうともしないのである。

 華の属性科の表立った風紀の悪さは、学園としても頭を悩ませる問題のひとつである。


「あのナタリーを負かす者が現れれば、少しは大人しくもなるのでしょうがねぇ……」


 コーヒーを一口飲んだ導師の一人が、ぼそりと呟いた。


「いたではありませんか。半年ほど前、中級の闘技演習で、難なく彼女を倒してみせた者が」


 男の一言で、導師一同は雲でも眺めるように押し黙った。

 誰もがカップに口をつけ、率先して喉を潤し始める。


「……あの敗北は、逆効果でしたがね」

「ええ、火に油ならぬ、鉄にオイルでしたね」

「そもそもあの男が闘技演習で勝利しなければ、ナタリーも今ほどは牙を剥いていなかったのでしょうなぁ」


 属性科の導師が遠い目をする中で、マコ導師だけが俯いていた。

 結局、彼らはお茶を飲み、愚痴をこぼすだけで終わってしまったのだった。

 実際のところ、ほとんどそれが目的でもあったのだが。


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