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打ち砕くロッカ   作者: ジェームズ・リッチマン
第一章 震える石英

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嘴014 先行する斥候

 長い杖なんて私には似合わないと思っていた。

 邪魔だし、手が塞がるし、何より性に合わないのだと。


 けど、いざ気に入ったものをその手に握ってみると、心境は真逆に変化してしまった。

 メイスって良いな。“愛杖”なんて言葉は学園でよく聞くけれど、アンドルギンを手にしてようやく初めて理解できた。

 気に入った杖って、日頃から持っていたくなるものだ。


「ふふん」


 アンドルギンを手に、肩に預けて颯爽と歩く。

 他の杖にはないような、とことん追求された機能美を備えたアンドルギンは、自然と周囲の人目を惹く。

 水の国にやって来てから、あまり人の目線に良い思いを抱かなかった私だけれど、やはりこういう、羨望の眼差しというのは悪くないものだ。

 なんていうか、堂々と魔道士を名乗れるっていうか、私らしいしっくりくる物を手に入れたというか。


 とにかく、なんだ……。

 アンドルギンが格好いい。

 これを持って歩いているだけで、自然と誇らしくなるっていうか、頬が緩むっていうか……なんだか自分に自信が湧いてくるような気持ちになる。




「ロッカが楽しそうで何よりだよ」


 講義室に入ると、まずはヒューゴが真っ先にそんな言葉を贈ってきた。


「ロッカが良いなら、あたしも良いと思うじぇ」


 次にボウマに優しく肩を叩かれた。


『ロッカ、愛は自由だ』


 ライカンが親指立ててなんか言ってくる。


「ロッカが幸せなら、私はその気持ちを尊重するし、応援もするわよ」


 ソーニャ、それ何の話?


「……」


 そして唯一、クラインだけが無言で本を読んでいるのであった。


 ……いや、どうしてみんなの眼差しがちょっとぬるくなってんの?

 ソーニャに至ってはちょっと思い詰めてるような顔してるし……。


「まぁ、別にいいけどさ……」


 色々と思う所はあったけど、細かい事をずっと気にしていられるほどの余裕はない。

 マコ導師が来るまでの間、ほんの少しでも長くクラインから貸してもらった指導書を読み込んでいかないとな。

 マルタ杯で活躍しないと、アンドルギンだって可哀想だ。




 講義中はマコ導師からチラチラと私を伺うような目線が多かった気がしなくもないけど、それを除けばいつも通りのわかりやすい講義だった。

 風魔術が起こす風の、それに含まれる魔力量、魔術的な風圧など。ちょっと難しい所に踏み込んだ話も多かったけど、なんとなく実践的で興味深い内容である。

 特に前の席のヒューゴなどは自分の得意な属性であるためか、いつも以上に熱心になって聴いていたように見える。

 他に真面目な人がいると不思議と自分の集中力も増すもので、なんとなく時間が過ぎるのは早かった。


 気がつけばあっという間に講義は終了し、昼休みである。




「ウィルコークス君、本を持ったままで良い。移動するぞ」

「え?」


 言葉を掛けられる前に、何かしらのアクションがあったわけではない。

 私はクラインから、ただ唐突にそう言われた。


 どこに? と聞く暇もなく、クラインは猫背のままつかつかと歩き、廊下へ飛び出してゆく。

 特に予定を示し合わせてもいないし、私は“うん”とも言っていないのに。


「……まぁ、一応ついていったほうが良いんじゃないの?」

「……かもしれない」


 毎度毎度、どこか歯抜けしたところがある奴だ。

 だが仕方ない。クラインに抜けている所があるなら、他の誰かが補ってやるしかないのだ。


「じゃね、とりあえず行ってくる」

「ええ。また明日ねー」


 私はソーニャに促された通り、訳はわからなくともクラインの後を追いかけた。




「ねえクライン、どこ行くの」

「第三棟の十階だ」


 私が廊下でクラインの背に追いつき尋ねると、実に簡潔な答えが帰ってきた。

 第三棟の十階。十階といえば……。


「あっ、闘技演習場?」

「それ以外に何があるというのか」


 いや、闘技演習場があるよねっていうだけで……もういい。きりがねえ。


「観戦するの?」

「ああ。闘技演習を見学し、直に動きを見てもらう」

「ふーん……でも、第二棟にもあるじゃん。属性科が集まるのもそこだし、そっちでも良いんじゃないの」

「だからこそ第三棟に向かうのだよ」


 ん、どういうこと?


「君は今まで第二棟の……つまり、属性科の闘技演習しか目にしていない。それはつまり、まだ君は独性科の魔術というものに全く無知であるということだろう」


 クラインが急に立ち止まり、やけに機敏な動きでこちらに振り向いた。

 突然のことだったので、あわやクラインと正面衝突しそうになってしまったが、スレスレのところでどうにか私も立ち止まる。


「君には独性科の闘いというものを見てもらう。マルタ杯では、おそらく独性科の面々とも戦うことになるのだろうからな」

「……独性科」


 独性科。聞いたことはあるけどよく知らない学科である。

 確か、体系化された属性術とは全く違う、独特な魔術を扱う学科で……とか。


 よくそんな話は聞くけれど、言われてみれば確かに、独性術というものを実際に目にしたことは無かったかもしれない。


「独性術に関しては、さすがのオレでも解説は難しいかもしれん。観戦中は出来る限り、君の目で見て、覚えるようにしろ」

「覚えるように……」

「ああ。そこにいる連中こそ、君がマルタ杯で戦うことになる相手かもしれないのだからな」


 ……なるほど。つまりは、敵情視察ってわけだな。


「なんだ、そんなことならあらかじめ言ってよ。すぐに準備してついていったのに」

「さっき言っただろ」

「……言ったけどそういうことじゃ……ああ、まあ良いや」

「急ぐぞ。昼は混む」

「はいはい」


 独性術を扱う学科、独性科。

 マルタ杯では私が今まで闘ってきたような属性科だけではなく、他の所からも相手が出張ってくる。


 ……未知の強敵が目の前に立ち塞がるかもしれないなら、事前にある程度の力を把握しておくのは賢い選択だ。

 どんな魔術を使うのかは知らないし全然予想もできないけど、クラインと一緒にじっくり観察してやることにしよう。




 第三棟の闘技演習場に来たのは、そういえば初めてのことだったか。

 リゲル導師が第三棟で光魔術の大講義を行っていたという話は知っていたものの、実際に足を運ぶのはこれが最初だ。


 けど、これといって驚きはない。通路も階段も、そのほとんどが第二棟のものと一緒なのだから。

 逆に、ここまで内装をピッタリ揃えられる事が凄いと思う。高そうな煌灯、こっち側でも第二棟と同じ数だけあるんだろうな……。


「試合の最中らしいな」

「だね」


 観覧席へ続く階段を歩いてゆくと、演習場に出る前から聞き慣れた歓声が聞こえてくる。

 時折賑やかな爆発音が聞こえてくるので、今は闘いの真っ最中なのだろう。


「……おー」


 石階段を登りきり、明るい大広間に出たその瞬間、演習場の空中に青い雷が迸った。

 直後に、というよりはほとんど同時に、驚くほどの衝撃音が鳴り響く。

 どうやら爆発音の正体は、あの雷だったようだ。


 壇上に立つのは、対戦中の二人の魔道士。

 白い石壇の戦場は所々が派手に砕け、魔術的な生成物であろう銀色の金属の欠片も散見できた。

 これだけならば、そう珍しくもない魔術戦の光景である。しかし両者は、私が普段から見慣れている魔道士とは違う、変わった杖を装備していた。




「どうした魔道士! こんな技じゃあ俺は止まらないぜ!」


 刃渡り1メートルを優に超えているであろう両刃の剣を振り回し、壇上の砂塵を振り払う。

 金髪の大男は、心底楽しそうに吠えていた。


 手には両手剣。身に纏うは革製の鎧。

 壇上の中央に堂々と陣取っていたのは、明らかに“来る所を間違えた男”の勇姿であった。


 ……いや、アンドルギンを持ってる私が言うのもなんだけど、あれは絶対におかしいだろう。

 だって手にしてるのがまんま剣だし。革っぽいけど、ローブとかじゃなくて鎧着込んでるし……いや、でもそう考えると私も全然魔道士の作法を守ってない気もするけど……。


「見ない顔だな」


 隣のクラインもそう零す。

 闘技演習大好きなこいつがそう言うくらいなのだ。もしかするとあの男は本当に、どこか別の場所からここへ迷い込んできた剣士さんなのかもしれない。


 一方、その剣士と向かい合っているのは、ちゃんとローブを着込んだ魔道士然とした風体の男だ。

 古めかしい灰色のフードを深くまで被り込み、袖の部分は縛って動きやすくしたような、まぁまぁよく見る厚ぼったい装備である。


「いやぁ、面倒な相手と当たっちまったな……実戦数だけを見て挑んだのは、ちと失敗だったかねぇ……」


 しかし、そっちの方の男の手に握られているものは、一般的な杖ではない。

 こっちはまさかの、ダガーの二刀流である。服装だけなら魔道士に見えたのに、持っているものは近接用の刃物ときた。

 それが二本で両手を埋めているのだから、私からすれば全くもって意味がわからない状況と言えた。


 両手剣を正眼に構えた金髪の男と、双剣を構えるフードの男。

 ……魔道士、のはずなんだけど?


「メイスという戦棍の杖があるならば、刃物の杖があっても何ら不思議ではないだろう」


 私が首を傾げているのを見たのか、クラインが呆れたように呟いた。


「え? ……あ、もしかしてあれって」

「杖だ。両手にメイガスダガーを握っている男は“闇討ちのサリデ”」

「闇討ちって、なんか酷い二つ名だな……」

「見ていればわかる」


 正面から向い合って闘いを始める時点で、闇討ちも不意打ちもないとは思うんだけど……クラインがそう言うなら、黙って見ていた方が良いのだろう。

 昼時のためか、かなり多くの観客が見守る演習場の中央に、意識を集中させることにした。




 向かい合う両者。手には刃物。

 その光景はどちらかが距離を詰めない限りには闘いが始まらないかのように思えるものであり、十メートル以上取られた間合いは、一見すると闘いの意志が希薄であるようにも見えてしまうだろう。


「“ザン()”」


 だが一方の男、サリデは、そのダガーを遠間にて振り払う。

 一見無意味な空振りに見えるその一閃。しかし振られたダガーの軌跡からは、不吉にもギラギラと輝く何かが射出されていた。


 それは、とても細長い……まるで糸のような、鋭い“鉄魔術”。

 サリデはダガーの振りと同時に、鋭い斬撃を放ってみせたのだ。


「小手調べはもういいってえの!」


 飛来する斬撃は、とても速かった。

 しかし私にも見切れるくらいだ。正面から身構える剣士の男が対策を怠るはずもない。

 長細い鉄魔術の斬撃は、剣士の豪快な一振りによってあえなく断ち切られ、消滅した。


「どうしたァ! 本気でかかってこいやぁッ!」

「これでも本気なんだけどねぇ……」


 壇上の真ん中に居座る剣士は私の耳にも聞こえるほどの大声量で挑発し、両手剣を頭上で振り回す。

 同時に、会場内の歓声も大きな動きを求めるように即物的な熱狂を見せる。


「……そういう空気っすか。そうっすか」


 こうなると居心地が悪いのはサリデの方だ。

 彼は頑丈そうなブーツのつま先で何度か石を蹴っ飛ばしたあと、何やら大きく肩で息をついて、そしてすぐに両手のダガーを構えた。


「じゃあやりますか」


 その構えに遊びや揺らぎはない。

 張り詰めたような気迫が、遠くからでもこちらへ伝わってくるかのようだった。




「“ザン()”、“セン()”、“()”ッ!」


 一瞬、目にも留まらぬ速さでサリデの身体がブレる。

 かと思えば、直後には三つの斬撃が飛んでいた。

 袈裟斬り、横薙ぎ、振り下ろし。

 それらの動作が一瞬のうちに行われ、ほとんど時間差の無い連続の刃を生み出したのだ。


「うお、これは……! 面白ぇなっ!」


 剣士に迫り来る三閃の魔術。

 彼もさすがに三つ同時は辛いのか、素早く後退しながら剣を振るう。

 それでも確実に一発ずつ振り払って打ち消しているあたり、彼の剣技には凄まじい熟練度を感じさせる。


「“ザン()”!」

「おっと!?」


 だが、サリデは攻め手を緩めない。

 相手が防いだならば、それと同じ数だけ魔術を追加するかのように、走って接近を試みながらも魔術を放っている。

 走りながらダガーを振るい、魔術攻撃を行う。その姿は恐ろしいながらも、どこか格好良い。


「うおおっ……! “ガロ・ヴェルダ(地雷剣)”!」

「!」


 対する剣士が放ったのは、重厚な両手剣の振り下ろしと、それに伴う眩いほどの雷撃。

 向かい来る鉄閃の一本を切り裂くと同時に、両手剣から放たれた雷撃がサリデを襲う。

 剣士は防御とほとんど同時に、反撃へと転じたのである。


 ――動きが機敏だ。


 これまで私が見てきた闘技演習とは全く違う、身体能力を大きくねじ込んだような鋭い魔術戦。

 大魔術の応酬を繰り返す第二棟の闘いも凄かったけど、ここの闘いは……。


「“レン()”!」


 迸る雷光に向かって走っていたサリデが、二本のダガーを高く掲げ、そして同時に振り下ろす。

 するとサリデの正面に蛇腹の鉄カーテンが出現し、それは凄まじい速度で足元まで展開し、雷を防ぐ壁となった。


 鉄魔術の壁としては薄すぎる防御だが、雷の侵攻を防ぐには十分だったらしい。


「危ない危ないっ、当たったら痺れちまいそうだ!」


 簡易防御壁の崩壊を待たず、その脇を抜けるようにしてサリデの接近が再開される。

 やはりその決断から攻撃への切り返しまでの時間は、非常に短い。


「“セン()”!」

「っと!」


 接近。魔術。そして接近。

 サリデの猛攻は少しも緩まず、徐々に剣士を追い詰めてゆく。


 サリデの放つ、細い斬撃の鉄魔術がどれほどの威力を持っているのかは不明だ。

 しかし、明確に襲ってくる魔術に大して一切の防御や回避しないというのは有り得ない。

 ちまちまと素早く放たれるあの斬撃は、剣士にとって非常に厄介なものだろう。


「おっとぉ、“レン()”!」


 そして、斬撃と同じくらい高速で展開される、蛇腹状の防御魔術。

 人一人分を容易く覆い隠すこの壁は、二本のダガーを同時に振り下ろすだけで簡単に展開されてしまう。

 私のようにいちいち地面に杖の先石を付ける必要はないし、ここからでは遠くてよく聞こえないが、発動に際する詠唱も一瞬で済ませているように見える。


 剣士が振るう長剣から放たれる雷の魔術も決して遅いわけではないのだが、一瞬で築かれてしまう防御壁を前にしては、ほとんど無力な反撃だった。


「俺に近づかれるまでに“レン()”を四回も使わせた。あんた、まぁまぁやるね」

「ちくしょっ、なんて厄介な……!」

「けど俺にはちょっと通じんな。ま、文句はこれから“近くで”聞いてやるよ」

「……!」


 そしてついに、接近を繰り返すサリデが剣士の懐にまで到達した。

 二人の間合いはもはや剣でもダガーでも届きかねないほど肉薄しており、それは魔道士としては有り得ない距離である。

 しかし……。


「迅雷の騎士に近づいて無傷で退けると思うなよ!」

「なあに、俺が勝てば良いだけさ!」


 二人が握っているのは、鋭利な刃物。

 お互いにそれらから魔術を発動していることから、杖を兼ねたものではあるようだが……その真価は、近づいた時にこそ発揮されるのだ。


「“ガロ・ヴェルダ(地雷剣)”!」

「“レン()”! 甘いねぇ騎士野郎!」

「ぐっ!?」


 雷を纏った剣が振られ、生み出された鉄壁がそれを防ぎ、物影から飛び出したサリデのダガーが剣士を強襲する。

 だがあと少し所で咄嗟の防御に回った剣によって防がれ、再び同じようなめまぐるしい攻防が続く。


 刃にあたっても負け。魔術に当たっても負け。

 振るわれる刀剣が火花を散らし、飛来する鉄閃が断ち切られ、大きな雷は壁によって阻まれる。

 零距離で行われる遠近兼ね備えた闘いは凄まじい迫力で、観戦する私達に瞬きをする暇を与えてくれない。


 こんなに速さを感じさせる闘技演習を見るのは、初めてだ。


「“闇討ちのサリデ”は近接魔術に特化した魔道士だ。出の速い防御魔術を接敵した状態で発動し、その陰から現れて敵を刺す。奴独自の投擲鉄魔術も織り交ぜられると、なかなか厄介だろうな」


 隣でクラインが淡々と解説するように、特にサリデの動きがとんでもない。

 彼は敵に近づいた状態で何度も何度も防御魔術を貼り直し、それをまるで盾のように扱いながら、ダガーでトドメを刺そうとしてくる。

 動きの読めない左右への素早いステップと、一気に正面へ迫る刺突の踏み込み。

 あれで身体強化を使っていないというのだから、信じられない。


 サリデの猛攻は繰り返され、剣士の方は防戦一方。

 やがてなし崩し的に決着を迎えるか、と思いきや……。


「そこだッ!」

「げ!?」


 あって無いようなサリデの隙を見抜いたとでもいうのか、剣士の振り上げた一撃が、一本のダガーを高く弾き上げた。

 己の手からスッポ抜けたダガーを見上げ、サリデの動きはピタリと停止している。


 ダガーを、つまり杖の一つを失った。

 それは魔道士にとって、致命的な失態。


「よっしゃ、一本ッ!」


 その隙を相手が見逃すはずもなく、金髪男の長剣は無慈悲なくらい躊躇なく振り下ろされ……それはサリデの首元でピタリと停止した。


「うわ……あーあ、やっぱ勝てなかった。無理無理、駄目だ。やっぱこうなると思ってたんだよ」


 剣の寸止めで戦意を失ったのか、サリデはもう片方の手に握っていたダガーをぽろりと壇上に落として、敗北を認めるようにふらふらと両手を挙げる。


「じゃ、俺の勝ちだな?」

「そりゃもう完全に。寸止めありがとう、わざわざダガーを拾いに来る手間が省けて助かる」

「ははっ、気にすんな! 久々に良い勝負だったぜ、またやろうな!」

「いや、そいつは勘弁だ。俺ぁ黒星はゴメンだぜ」


 金髪の男はニカリと人懐っこい笑みを浮かべると、相手に向けていた剣先を背負った鞘に納めた。


「勝者、“切り込みのガルハート”!」


 それが合図となったのだろう。

 勝敗を決した男の名が導師席より響き渡り、演習場は観衆からの惜しみない喝采で埋め尽くされた。


 ……初めて眼にした独性科の闘技演習。

 それは派手な魔術の撃ち合いではなく、もっと別の……なんというか不思議な、心が躍るような闘いだった。


「どうだ、ウィルコークス君」

「……凄かった。属性科の闘いとは違うけど、なんか凄い」

「ふむ。まあ、それだけでもわかれば十分だな」


 鳴り止まぬ喝采と、壇上で観衆に手を振る金髪の男。

 ガルハート。“切り込みのガルハート”。


 ……この棟にも、まだまだ強い人は沢山いるんだな。

 ちょっと野蛮かもしれないけど……血が滾ってきやがった。





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