お化け少女と契約(エンゲージ)
これは冒頭だけ考えた物語です
もしも読者さんが多かったり、続編を望まれる声がある場合は本格的に連載計画を立てていきます
またホラーの苦手な方、オバケと書いてはありますが、ホラー要素はほとんどないのでご安心ください
夜の11時、一人暮らしをしている俺がトイレを終え、リビングに戻ろうとドアを開けた瞬間の事だった
「…………」
俺は思わず硬直してしまった。目の前にいるのは女の子だ。青いショートの髪に白いワンピース、そしてその小柄な体系……明らかに俺の知り合いではない。では何故ここにいるのだろうか、俺は頭をフル回転させて考え込む。その時だった
「う、うらめしやぁ」
控えめと言うよりは怯えた声で女の子が言った。手をまるで幽霊のように構えている。モノマネだろうか。しかし瞳に涙を浮かべ、眉はハの字になっている。やはり怯えているようにしか見えない
「えっと……なに?」
「えっ、だ、だから……う、うらめしやぁ……です」
再チャレンジするも、やはり意味が分からない。この子は何故「うらめしぁ」なんて言っているのだろうか?そもそもなんでここにいるのだろうか?疑問が次々湧き出てくる。とりあえずこの疑問を解決するしかない
「うらめしやぁって言われても……俺はどうすればいい?」
「……あれ?もしかして怖くないんですか?」
「……あぁ。どちらかと言うと、キミの方が怯えてるし……」
正直な感想を言う。この子はどうやら怖がらせようとしていたらしい。が、全く怖くない。むしろこちらが心配してしまうほどこの子の方が俺を怖がっているように見える。すると女の子は眉を逆ハの字に変え、言った
「お、怯えてなんていないのですよ!!だって私オバケですから!!」
彼女の声に俺の思考が一瞬鈍る。おばけ……オバケ……。確かにこの子はそう言った。しかしどう見てもオバケには見えない。普通の女の子にしか見えない
「えっと……オバケ?」
「はい、そうですよ。オバケですっ!!…………あっ」
自信満々だった顔が段々青ざめていき、同時に俯いていく。これはなんだろうか、オバケへの覚醒の予兆だろうか。訳の分らない事態に俺の脳が慌てて対応しようと試みる。するとそんな騒がしい脳内とは間逆に、女の子は静かに呟いた
「言っちゃいました……」
「えっ……?」
「言っちゃいました。私……オバケって……言っちゃいました」
「どうしよう」と言わんばかりの落ち込み顔で女の子は俺を見る。もちろん俺は事態を把握出来ていない。そのイレギュラーな事態に頭を回転させ、理解することも諦めた
「どうした……?」
「ダメなんです。私がオバケってバレちゃったら……バレちゃったら……」
「おい、ちょっと、大丈……って、うおっ、なんだこれ!?」
駆け寄ろうとした瞬間、右手に熱を感じ慌てて視線を向ける。すると手の甲に何らかの痣が浮かび上がっており、小さく輝いている。それから触ってみようとした瞬間、光は収まり痣だけが残ってしまった
「なんだ……これ?」
「……それは『エンゲージ・クレスト』って言うんです」
「エン……クレスト?」
「『エンゲージ・クレスト』、契約紋章って意味です。その名前の通り、契約をした時に浮かび上がる紋章なんです」
「契約紋章って……。あの、よく分からないから説明してもらっていいかな?」
「うぅ……はい」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ありがとう……ございます」
差し出されたお茶を手に女の子が言った。俯きつつも喉は乾いていたらしく、ゆっくりとコップに口を近づ喉を鳴らす。どうやら気に入ってもらえたらしく、彼女は一気にそれを飲みほし、テーブルの上に置いた
「それじゃあ、説明をしてもらっていいかな?」
なるべく怖がらせないように気をつける。本心では沢山聞きたいことがあるものの、この様子だときっと更に怯えてしまう。そう思っての配慮だ。すると女の子は小さく頷き話しを始めた
「まず知ってほしいんですけど、私達『オバケ』というのは、何らかの理由であの世に行けなかった魂が現代に残って、形を持った存在のことを言うんです」
「何らかって……例えば?」
「「やり残したことがある」って言うのが一般的ですね。オバケのうち、9割の人はこれが理由です。でも稀に、ごく稀にそうでないオバケもいます」
「そのごく稀な理由って?」
自然な質問だったはずだが、それを聞いた彼女は更に顔を俯かせた。その理由はあまり良い理由ではないらしい。しかしそれでも彼女は答えてくれた
「あの世に行く為の試験に不合格だった人です」
「試験に不合格……?」
「はい、詳しいことはお話し出来ませんけど、あの世に行く為の試験があるんです。それに不合格だった人は現世にオバケとして残ることになります」
話の流れ、彼女の表情からどうやらこの子は試験に不合格だったらしい。だからこうして現代にオバケとして身を残しているのだろう
「オバケとしてか……。残ってどうするの?」
「よくぞ聞いてくださいました、それが重要なんですよ」
急に顔を挙げ、両手を握りしめて胸に当て、必死な表情で俺に顔を突っ込んでくる。口と口が触れてしまいそうな距離に不覚にもドキドキしてしまった。しかしそんな俺の心理状態も知らぬであろう女の子は気にしていない。話しに興奮しているようだ
「現世に残ったオバケにはですね、ある試練が出されるんです」
「し、試練って……どんな?」
「それはですね……「人を怖がらせること」なんですっ!!」
「怖がらせる……?」
「はい」
落ち着いたのだろうか、俺から少し離れ、女の子が元の位置に戻って座った
「オバケは「この人だっ!!」って決めた人間さんを選んで怖がらせるんです。それをまだ公表されていない期限内にどれだけ出来るか、それが試練なんです」
「なるほど、つまりキミ達オバケが俺達人間を沢山怖がらせれば良いってわけだ」
「はい。ただその中に注意事項がいくつかありまして……。その1つが「自分がオバケだと見抜いた相手とは契約を結ぶこと」なんです」
「契約?契約を結んでどうするの?」
「一緒に協力して人を怖がらせるんです。いわば、パートナーになってもらう、ということです」
彼女のこの一言を最後に数秒間の沈黙が訪れる。何故だろうか、俺の頭の中ではつい数分前の出来事が連想されている。この子が俺の前に現れて、怖がらせようとして、それから、それから……
「……確かキミ、俺にオバケだって自白したよね?」
「うぅ…………はい」
しょんぼりしながら頷いた。どうやら俺の勘違いでは無かったようだ。そうなると今度は契約の話しが頭に浮かんだ。契約はオバケだとバレた相手とする。そして彼女がオバケだと俺にバレた。そうなると答えは1つしかない
「つまり俺はキミと契約を交わした……と」
「はい、そういうことになります」
女の子は小さく「コクン」と頷いた
「本当は人間さんの様子を伺ってから、選んだ人間さんに正体を見破ってもらって、契約するものなんです。でも私、ついオバケだって自分で言っちゃって……」
「……天然のオバケ、ってことか」
彼女のその面白さに堪え切れず、少々だが笑いを零してしまう。すると、それに気付いたのだろうか。ハの字になった眉を見せながら、今にも泣きそうな顔で女の子が俺を見てくる
「うぅ……笑わなくたっていいじゃないですかぁ」
「あぁ、ごめん。でも、自分で自白しちゃうって……なんだか可愛いなって思ったんだよ」
思わず口に出してしまった素直な感想。それを聞いた彼女の顔は改めて赤くなり、やがて慌てた様子へと変化する。その証拠に口をパクパクと動かしてはいるが、言葉になっていない
「か、かわ、可愛いって……。もう、褒めれば良いって思ってませんか?いくら私でも怒っちゃいますよぉ……?」
赤くなりながらも必死に怖そうな表情を作っている。しかし、正直これもまた可愛い。残念ながら怖いとは程遠い。セリフと顔が完璧に合っていなかった。どちらかと言えば、少し嬉しそうに見える。すると話しが脱線しているのに気付いたのだろうか、コホンッと小さく咳払いをした
「と、とにかく、あなたは私と契約を交わしてしまったんです。それで……その……1度パートナーが決まれば、それ以降変更することは出来ません。つまり、私のパートナーはあなただけ……ということになるんです」
「……なるほど」
「そ、それでお願いなのですが……その……私に協力……してもらえないですか?無理なお願いというのは分かっています。でもなるべく迷惑をかけないように努力しますから、何でも言うこと聞きますから、だから……」
不安そうに女の子が俺を見た。瞳に涙を浮かべ、両手を握りしめている。俺には読心術なんて技術は無い。しかし彼女がとても必死だということ、それだけは分かった。何かに一生懸命なその表情は例えオバケになっても変わらない。そう思い知らされた。だから答えは1つしかない
「いいよ」
「ふぇ……?」
少々、いや、かなりお人よしだとは思う。普通なら断るだろうとも思う。だけど、こんなに一生懸命な子を放っておけない
「俺はキミのパートナーだ。協力する。だから迷惑をかけても良い。俺の為に何かしなくてもいい。自由にして良い」
「良いん……ですか?」
「あぁ、それに此処には俺も1人暮らしだったんだ。少しでも賑やかな方が良いかなって」
「賑やか……ですか?」
「あぁ、だってキミ、自白しちゃうほど天然だしさ」
「も、もう、それは終わった事じゃないですかぁ」
女の子が俺に近づき、ポカポカと胸を叩いてくる。身長が小さいからか、頭が胸の位置にあった
「……そう言えばまだ自己紹介がまだだったな。俺は春人って言うんだ」
「は……る……と……。ハルですねっ!!」
「あぁ、そう呼んでもらっていいよ。キミは?」
「私は弥生、弥生って言います」
「弥生か……。それじゃあ弥生、これからよろしくな」
「はい、よろしくです、ハル!!」
弥生がにっこりとほほ笑んだ。ここから、俺達の新しい生活が、始まったんだ
以上で冒頭が終了です。
もし「面白かった」や「続編が見たい」と言った温かい意見をもらえれば、前書きの通り連載計画を立てていこうと思います