最後の夜
涙が止まらなかった。空には星が輝いていたはずなのに。俺には見えなかった。あの…最後の夜…。
ガタンゴトンガタンゴトン。
いつもと変わらない電車をいつもと変わらない時間にいつもと変わらない顔のやつらと一緒にいつもと変わらない場所へ行く。4月に大学に入学したばかりの俺田中たけしは大学に入って数ヵ月が過ぎたがそれほど友達も出来ず、サークルにも入っていない。バイトはそこそこ。まあそこらの大学生の内の一人だ。思えば18年間のらりくらりと過ごしてきた。彼女も出来たことは無いし、部活に情熱を沸かしたこともない。唯一得意な勉強でなんとか大学に入れたがこれから将来に向けて何をしていくのか考えているわけでもない。とにかくボンヤリ生きてきた俺だった。そう…彼女と出会うまでは…。
俺と彼女…
「玉田唯」
は同じ学部の同じ学科。初めてちゃんと話をしたのは一年生の夏だった。俺は友達は少ない方だが彼女とは仲良く話す方だった。日に日に唯と話す時間が多くなり、知らず知らず俺たちは仲良くなっていった。唯は友達が多くて笑顔がかわいくてとても面倒見の良い子だった。でも時々見せる疲れた顔が俺は気になっていた。
唯のおかげで俺も少しずつ友達が増えてきてある日夜から唯の家で友達数人で遊んでいた。唯は途中で寝てしまい俺もいつのまにか唯の家でウトウトしていた。友達は次々帰っていき唯の家には俺と唯だけが残された。俺は帰ろうかと思い唯を起こそうとして唯を軽くゆすった。目と目が合い気付くと俺は唯にキスしていた。一瞬自分でも何をしたのかわからなかった。俺はいつのまにか唯にひかれて唯のことを特別な目で見るようになっていたのだ。その日の俺の無器用過ぎる告白を唯はやさしく受け止めてくれた。
こうして俺たちは付き合うようになった。明るくて人気者の唯と暗くて一人の時が多い俺。あまりに対称的な俺たちの少しおかしな生活が始まった。
付き合い初めて数ヵ月経ったが俺たちはとゆうと…毎日のようにケンカをしていた。
「なんでそんなに冷たいの!」
「冷たくした覚えは無いけど?」
「もういい!」
こんな感じで唯はいつも俺の冷たさに愛想をつかし少したって
「ごめんなさい…」
と謝ってきた。俺たちは別れそうで別れない。よくいそうでいないようなそんなカップルだった。もっとも俺は唯にいわゆるゾッコンだった。それが二人を繋ぎ止めていたのかもしれない。いろんなことがあった…。二人で行った旅行…、一緒に作った料理…、たくさんのキスとたくさんのセックス…、一緒に散歩した川沿いの道…、破った約束守れた約束…。
幸せな時間とはあっとゆう間なのだろうか。長かったのか短かったのか、出会いがあれば別れがあるのか。別れは突然唯から切り出された…。
「もう…疲れちゃった」
「疲れた?」
「もう無理みたい」
「もう好きじゃない?」
「…うん」
「そっか…」
「バイバイ」
唯は行ってしまった。俺を残して行ってしまった。
俺は諦められなくて、ある日唯を呼んだ。一緒にご飯を食べた。いろんなことを思い出した。楽しかったこと、悲しかったこと。幸せだった。大切にしたいと思った。
「送っていくよ」
「ありがとう」
俺は唯を自転車の後ろに乗せて唯の家まで送りに行った。本当は20分ほどで着く道をゆっくりゆっくり自転車をこいだ。もっと一緒にいたかったから、ずっと一緒にいたかったから。このまま時が止まれば良いと願った。だが…無情にも時間は過ぎて自転車はいつのまにか唯の家に。
「バイバイ」
振り向かなかった…。振り向いたら帰れない気がしたから…。俺は帰り道泣きながら自転車をこいだ。強くならなきゃ。強くならなきゃ。唯に負けないくらい。
それが二人の最後の夜二度と忘れない…最後の夜。
短いですがいろんなメッセージが入っています。