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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 4

そして、そんな私の心の内が、私の態度に出たのだろう…


 「…どうしたんですか? …お姉さん?…」


 と、葉尊が聞いた…


 私の夫が聞いた…


 が、


 私は、答えんかった…


 素直に、心の内を明かさんかった…


 なぜなら、この矢田は、実は、この夫を信頼していない…


 心の底から、信頼しているわけでは、ないということだ…


 まるっきり、信頼していないわけではない…


 ただ、心の底から、信頼していないということだ…


 だから、答えんかった…


 「…」


 と、なにも、言わんかった…


 が、


 さすがに、なにも、言わんのも、おかしい…


 なにも、言わなければ、夫が、おかしく感じるからだ…


 だから、


 「…葉尊…オマエが、バニラを擁護するのも、わかるさ…」


 と、言ってやった…


 「…なんといっても、バニラは、オマエのお父さんの愛人…娘のマリアは、オマエの妹だ…血が繋がった実の妹だ…」


 と、言ってやった…


 と、


 その瞬間…


 葉尊の顔が、歪んだ…


 一瞬だが、歪んだ…


 が、


 すぐに、何事もなかったように、


 「…そうです…」


 と、言った…


 いつもの表情で、言った…


 しかしながら、私は、その一瞬を見逃さんかった…


 明らかに、表情が、歪んだ瞬間を見逃さんかった…


 この葉尊…


 実は、心の中では、バニラのことを、よく思っていないことは、明らかだった…


 が、


 それは、当たり前…


 とりたてて、驚くほどのことでも、なんでもなかった…


 葉尊は、今、29歳…


 父親の葉敬は、60代前半ぐらいだろう…


 ことによると、まだ50代かも、しれん…


 その愛人が、あのバニラだ…


 23歳のバニラだ…


 29歳の葉尊より、6歳も年下のバニラだ…


 面白いはずがない…


 私が、葉尊の立場なら、面白いはずがない…


 ハッキリ言えば、嫌だ…


 いくらなんでも、父親の愛人が、息子の自分より、6歳も、若く、しかも、娘までいる…


 自分と血が繋がった娘までいる…


 これは、誰が、どう考えても、葉尊が、面白いはずがない…


 気分が、いいはずがなかった…


 当たり前だった…


 しかしながら、さすがに、この矢田も、それを口にすることは、できんかった…


 いかに、夫婦になったとはいえ、さすがに、言っては、いかんことがある…


 口にしては、いかんことがある…


 これも、その一つだと、思ったのだ…


 だから、言わんかった…


 さすがに、言わんかった…


 が、


 だからといって、なにも話さないわけには、いかんかった…


 だから、なにか、話そうと、思った…


 が、


 私が、口を開くよりも、早く、葉尊が、


 「…どうしました? …お姉さん?…」


 と、聞いてきた…


 だから、私は、


 「…いや、アムンゼンのことさ…」


 と、言った…


 話題を変えることにしたのだ…


 マリアのことを、話題にして、当たり障りのないことを、言おうとしたが、それでは、葉尊が、気分が、良くないかも、しれん…


 マリアの話題から、離れるに、限ると、判断したのだ…


 が、


 私は、目の前の葉尊が、なにか、違って見えた…


 つい、今の今まで、いた葉尊では、ないように、感じた…


 だから、


 「…オマエ…葉尊じゃないな…」


 と、言った…


 「…葉問か?…」


 私が、言うと、葉問が笑った…


 不敵に笑った…


 「…お久しぶりです…お姉さん…」


 「…久しぶりさ…」


 私は、言ってやった…


 実を、言うと、この矢田トモコ…


 この葉問との方が、葉尊といるよりも、気が合う…


 なぜか、わからんが、気が合う…


 単なる相性の問題かも、しれんが、気が合う…


 なにより、葉尊といるときよりも、緊張しない…


 二人きりでいるときは、ゆったりするというか…


 安心する…


 が、


 さすがに、それを口にすることは、できん…


 誰にも、口にすることは、できん…


 だから、これは、誰にも、言ってないから、秘密というか…


 誰も、知らない、この矢田の秘密だった…


 知られてはならない、この矢田の隠れた秘密だった…


 が、


 それを、こともあろうに、この葉問が、見破った…


 あっけなく見破った…


 「…お姉さん…なんだか、ボクといると、いつも、楽しそうですね…」


 と、言ったのだ…


 私は、内心、慌てたが、急いで、


 「…そんなことは、ないさ…」


 と、言ってやった…


 急いで、否定してやった…


 すると、葉問が、苦笑いを浮かべながら、


 「…そうですか? …ボクの勘違いですか?…」


 と、言った…


 だから、


 「…そうさ…オマエの勘違いさ…」


 と、ダメ出しした…


 この葉問と葉尊は、いわば、コインの裏と表…


 表が、葉尊…


 裏が、葉問…


 葉尊は、おとなしい…


 が、


 葉問は、真逆…おとなしくない…


 ハッキリ言えば、ヤンキー上がりだ…


 私は、正直、ヤンキーが嫌い…


 嫌い=苦手だ…


 が、


 不思議なことに、この葉問は、苦手じゃない…


 これは、実に不思議なことだ…


 しかしながら、真実…


 真実だ…


 そして、これは、出会ったときから…


 この葉問と出会ったときから、そうだった…


 初対面で、嫌いになれんかった…


 初対面で、好きになったわけではない…


 ただ、嫌いでは、なかったというのが、正しい…


 以前、ある女性の作家が、恋愛について、語ったことをネットで読んだことがある…


 その女性作家は、恋愛小説の名手だった…


 そして、今回は、恋愛小説を書くのではなく、実際に体験した恋愛のノンフィクションを書くべく、複数の女性たちに、インタビューを試みた…


 その結果は、意外なものだった…


 普通、小説やドラマや、映画だと、いわゆる、起承転結がある…


 具体的には、出会った当初は、嫌いだった相手が、なにかの出来事をきっかけに、好きになり、やがて、恋人同士になる…


 それが、定番だ…


 しかしながら、複数の女性にインタビューをした結果は、最初から、好きだったというのが、大半だったそうだ…


 これは、意外だった…


 そして、思わず、笑ってしまうのは、これを小説にしたら、編集者に、


 「…起承転結が、なくては、困ります…」


 と、言われてしまうことだったというオチまでつけて、笑わせた…


 が、


 それが、真実かも、しれんと、私は、思った…


 現実に、男女を問わず、最初、大嫌いだった人間を、大好きになったというのは、普通は、あり得ない…


 最初、嫌いになったのには、当然、理由がある…


 多くの場合は、なんとなく、嫌い…


 生理的に、無理…


 と、いうものだ…


 だから、なにが、あろうと、好きになることは、あり得ない…


 現実は、大抵、そういうものだ…


 稀に、


 最初に、


 …嫌い!…


 と、断言するのは、相手を意識するからだと、いう意見もある…


 嫌いは、好きの裏返し…


 なぜなら、意識するからだ…


 意識しないのは、興味がないという言葉が、あてはまる…


 好きでも、嫌いでもなく、興味がないという言葉があてはまる…


 嫌いということは、少なくても、意識するからだ…


 だから、嫌いが、なにかの、きっかけで、好きになる可能性はある…


 しかしながら、その可能性は、低い…


 とんでもなく、低い…


 ただし、現実は、とんでもなく低くても、ドラマや小説では、そうでなければ、面白くないから、そうする…


 嫌いだった相手を好きになる…


 そういう展開にする…


 そういうことだ…


 そして、私が、なぜ、長々と、こんなことを、説明するのかと、言うと、実は、私は、最初から、葉問が、好きに近かったということだ…


 葉尊を嫌いではない…


 ただ、葉問といる方が、安心する…


 葉問といる方が、ホッとする…


 それが、答えだった…


 この矢田の心の内だった…


 そして、そんなことを、考えながら、この葉問を見た…


 目の前の葉問を見た…


 一体、なぜ、葉問が、ここに現れたのか?


 考えた…


 答えは、ただ一つ…


 葉尊が、立ち位置が、悪くなったからだ…


 葉尊の居心地が悪くなったからだ…


 私にバニラのことを、聞かれて、居心地が悪くなったから、とっさに、葉問にバトンタッチした…


 それが、真相だろうと、思った…


 だから、私は、


 「…葉尊が、ピンチになると、葉問…オマエにとって代わるな…」


 と、言ってやった…


 わざと、言ってやった…


 すると、だ…


 「…いえ…」


 と、葉問が、笑った…


 不敵に笑った…


 まるで、この矢田を挑発するかのように、不敵に笑ったのだ…


 私は、許せんかった…


 この葉問が、許せんかった…


 だから、


 「…葉問…なんだ? …その笑いは?…」


 と、怒鳴った…


 つい、怒鳴ってしまった…


 が、


 葉問は、笑いながら、


 「…ボクが助けたのは、葉尊では、ありません…」


 と、言った…


 「…だったら、誰だ? …誰を助けたんだ?…」


 と、聞いてやった…


 すると、意外や意外…


 「…ボクが助けたのは、お姉さんです…」


 と、葉問が、言った…


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