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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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34/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 34

「…実はな…アムンゼン…」


 「…なんですか? 矢田さん?…」


 「…私は、うっかり、店主の機嫌を損ねて、しまったかも、しれんさ…」


 「…どうして、そう思うんですか? ボクの見るところ、矢田さんは、店主の機嫌を損ねるようなことは、していませんが…」


 「…いや、したさ…」


 「…した? なにをしたんです?…」


 「…あの店主、私たち3人が、この店に入って来たとき、大人の私やオスマンではなく、子供のオマエに挨拶しただろ?…」


 「…ハイ…しました…」


 「…だから、どうして、そうしたんだと、今聞いたら、事前に、子供が、一番偉いと、聞いたからだと、店主は、答えたろ?…」


 「…ハイ…」


 「…実は、私は、もっと、違う答えを期待していたのさ…」


 「…違う答え?…」


 「…例えば、一目見て、オマエが、一番、偉いとわかったとか?…」


 「…どうして、一目見て、わかるんですか? 初対面なのに?…」


 「…オーラさ…威厳さ…私は、それを、店主が、感じたと、思ったのさ…」


 「…」


 「…でも、実際は、違った…それで、私は、ガッカリしたんだが、その私の表情を見て、あの店主が、もしかしたら、そのガッカリした表情が、ラーメンが、期待外れだと、思ったら、困ると、思ってな…」


 「…期待外れ?…」


 「…そうさ…」


 私が、言うと、アムンゼンと、オスマンが、互いに顔を見合わせた…


 それから、オスマンが、


 「…矢田さん、それは、考え過ぎじゃ…」


 と、口を開いた…


 「…考え過ぎじゃないさ…」


 私が、言うと、またも、アムンゼンとオスマンが、顔を見合わせた…


 それから、アムンゼンが、


 「…矢田さんは、つくづく日本人ですね…」


 と、感嘆した様子で、言った…


 「…それは、どういう意味だ?…」


 「…小さなことでも、気になって、極力、相手の気持ちを気遣う…それが、日本人…まさに、矢田さんは、日本人そのものです…」


 「…なんだと?…」


 「…世界中で、日本人ほど、他人の動静を気にする人種は、いませんよ…」


 アムンゼンが、断言する…


 「…それに、矢田さんが、そこまで、気にすることは、ありませんよ…」


 「…どうして、オマエにそれが、わかる?…」


 「…3人とも、ラーメンを食べました…残すこともなく、食べ終わりました…それに…」


 「…それに、なんだ?…」


 「…ボクたち3人が、ラーメンを食べる姿を、あの店主は、ずっと、見てました…ボクも、オスマンも、この味に感動しました…そして、それは、言葉にこそ、出しませんが、表情に出ているはずです…」


 「…表情に?…」


 「…そうです…」


 私は、それを、聞いて、安心した…


 心の底から、ホッとした…


 正直、誤解されるのは、嫌…


 嫌だからだ…


 これは、どんな人間も、同じ…


 同じだ…


 例えば、若い男女の間で、


 「…好き…」


 とか、


 「…嫌い…」


 は、誰にだって、ある…


 しかしながら、誰もが、


 「…好きでもない、人間に、好きだと誤解されたり…」


 真逆に、


 「…好きな人間に、嫌いだと、誤解されたら…」


 たまったものでは、ないからだ…


 そして、そんなことは、ありえないと、思うかも、しれないが、現実は、違う…


 案外、身近にありえるものだからだ…


 私の身近でも、かつての会社の同僚の男が、偶然、街中で、同じ会社の同僚の女を見かけて、その同僚が、恋人と、歩いているのを、目撃したことがあるそうだ…


 会社では、付き合っているひとは、いないと、公言していたにも、関わらず、実際は、付き合っている人間が、いたわけだ(笑)…


 まさか、それを、本人に伝えるわけにも、いかず、会社では、誰にも言わないで、黙っていたが、やはり、気になる…


 それで、チラチラと、つい、その同僚を見ていたら、


 「…あの男は、あの同僚を好きなんじゃ…」


 と、根も葉もない噂が、流れて、困ったと、聞いたことがある(爆笑)…


 つまりは、誤解…


 周囲が、勝手に誤解したわけだ…


 そして、そんな例は、枚強にいとまがない…


 誰でも、身近に、見たり、聞いたりしたことがある、事例だからだ…


 要するに、自分が、考えていたことと、違う展開になる…


 自分の思っても、見ない展開になる…


 これは、意外に、誰にでも、あるものだからだ…


 そして、それは、おそらく、このアムンゼンも、同じ…


 アラブの至宝も、同じだと、思った…


 おそらく、リンのことを、調べていて、予想もしないことを、発見したに違いなかった…


 私は、そう、見た…


 私は、そう、睨んだ…


 だから、私は、アムンゼンを睨みながら、


 「…アムンゼン…オマエ、リンのなにを知った?…」


 と、聞いた…


 私の細い目をさらに細めて、聞いた…


 いわば、尋問したのだ…


 すると、どうだ?


 アムンゼンが、動揺した…


 アラブの至宝が、動揺した…


 アラブの至宝は、動揺したまま、


 「…実は、矢田さん…」


 と、切り出した…


 「…なんだ?…」


 私は、いつのまにか、腕を組んで、アムンゼンの話を聞いてやった…


 威厳を出すためだ…


 「…リンについて、調べているうちに、よからぬ情報が、入りました…」


 「…よからぬ情報? …なんだ? …それは?…」


 「…リンは、C国のスパイだと、言うのです…」


 「…なんだと?…」


 私は、思わず、唸った…


 同時に、


 …それは、もしや、あり得るかも、しれん…


 と、思った…


 リンは、台湾のチアガール…


 球団に属するチアガールに過ぎないが、台湾中に知られている…


 つまり、本人が、自分のことを、どう思おうと、台湾で、一定の影響力があると、いうことだ…


 そして、それは、今の時代は、昔の比ではない…


 なぜなら、ネットが発達しているからだ…


 ネットが発達する以前の時代とは、雲泥に違う…


 わかりやすい例で言えば、SNSを駆使すれば、政治にすら、影響を与えることが、できる…


 台湾で、圧倒的に人気のあるリンが、


 「…今度の選挙は、誰誰を応援しよう!…」


 と、書き込めば、その通りにする者が、必ず一定数存在するからだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 同時に、気付いた…


 その情報源は、どこかと、気付いたのだ…


 私は、つい、


 「…サウジアラビアの情報局が、情報源か?…」


 と、聞いた…


 つい、聞いてしまった…


 つい、口にして、しまった…


 私の問いに、アムンゼンは、一瞬、ビクッと、カラダを揺らしたが、


 「…その通りです…矢田さん…」


 と、認めた…


 あっさりと、認めた…


 私は、


 「…そうか…」


 と、だけ、言った…


 腕を組みながら、相槌を、打った…


 威厳を出すためだ…


 少しでも、自分を偉く見せるためだ…


 なにしろ、この矢田には、威厳がない…


 まるで、ない(笑)…


 だから、腕を組み、威厳を出した…


 目の前のアラブの至宝が、相談しやすいように、するためだ…


 アラブの至宝が、相談するに足る人物になろうと、自分自身を演出したのだ…


 私は、


 「…やはり、そうか…」


 と、繰り返した…


 何度も言うように、威厳を出すためだ…


 なにもわからない、この矢田が、さも、わかったように、言うためだ…


 そのために、腕を組む、必要があったわけだ…


 腕を組んで、威厳を出す必要があったわけだ…


 そして、私が、一生懸命、威厳を出していると、


 「…それは、本当ですか? …オジサン?…」


 と、隣のオスマンが、焦った様子で、アムンゼンに聞いた…


 すると、


 「…本当だ…」


 と、アムンゼンが、不機嫌に一言。


 「…いつも、近くにいる、オマエが、気付かないで、どうする?…」


 と、オスマンを一喝した…


 「…だから、いつまでも、オマエは、一人前になれないんだ…」


 アムンゼンが、愚痴る…


 「…ホントは、ボクは、オマエに…」


 と、アムンゼンが、続けるから、


 「…まあ、いいじゃないか?…」


 と、私は、言った…


 「…なにが、いいんですか? …矢田さん?…」


 「…オマエ…ラーメン屋で、そんなに、オスマンを叱るな…周りが、見ているゾ…」


 私が、言うと、アムンゼンが、慌てて、周囲を見回した…


 すると、当然、店主を筆頭として、店の従業員全員が、私たちを見ていた…


 私たち3人を見ていた…


 なにしろ、貸し切りだ…


 店の客は、私たち3人だけ…


 しかも、


 しかも、だ…


 貸し切りにする前に、日本の外務省のお偉いさんが、この店にやって来たという…


 外務大臣が、わざわざやって来て、この店を貸し切りにしてくれと、懇願したという(笑)…


 当然ながら、そんなことがあれば、一体、どんな客が、やって来るか? 誰でも、気になるに決まっている…


 だから、店中の人間の視線が、私たち3人に注がれていた…


 一挙手一投足をすべて、見られていた…


 まるで、芸能人や、大物政治家になったみたいだった…


 いわゆる、注目の的だったからだ…


 すると、アムンゼンが、


 「…これは、マズい…」


 と、突然、口にした…


 「…どうして、マズいんだ?…」


 「…ボクの正体が、バレたら、マズい…」


 「…オマエの正体? …そんなに簡単にバレるわけないだろ?…」


 「…いいえ、そんなことは、ありません…今は、誰でも、スマホで、動画をネットにアップできる時代です…ボクやオスマンが、写った動画をネットのアップでもされて、その動画を見たサウジの関係者が、騒ぎ出しでも、したら、困ります…」


 「…オマエ、それは、考え過ぎじゃ…」


 「…いえ、考え過ぎじゃありません…この日本でも、壁に耳あり障子に目ありということわざがあるでしょ? 誰が、どこで、目を光らせ、耳をそばだてているか、わかりません…」


 「…」


 「…それに、ボクの正体は、ともかく、このオスマンの顔は、それなりに知られています…」


 「…なんだと、知られている?…」


 「…オスマンは、王族の中でも、一二を争う、イケメンです…だから、サウジアラビアでも、それなりに知られています…それが、表に出るのは、マズい…」


 「…だったら、どうする?…」


 「…今すぐ、この店を出ましょう…ラーメンもすでに、食べ終わっています…」


 アムンゼンは、言うと、さっさと立ち上がった…


 私も、それに倣って、立ち上がった…


 たしかに、アムンゼンの言うことも、わかる…


 わかるのだ…


 スマホで、私たち3人が、仲良くラーメンをすすっている動画を、ネットにアップされたら、たまったものでは、ないからだ…


 だから、それに、気付いた私たち3人は、慌てて、店を出ることにした…


 そして、私が、会計を済まそうとすると、店の主人が、


 「…すでに、外務省の方から、お代は、頂いています…」


 と、返された…


 「…なんだと?…」


 「…まさか、海外のお客様にお金を頂くわけには、いかないからでしょう…」


 店主が、説明する…


 …そうか?…


 …日本の外務省も、なかなか、やるものだ…


 私は、感嘆した…


 ラーメン代、3杯分、タダになったと、思った…


 矢田トモコ、35歳…


 今日は、少しばかり、得をした気分だった…


 実に、いい気分だった(笑)…


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