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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編  作者: トモサン


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22/84

35歳のシンデレラ アムンゼンの初恋編 22

私の闘志に火が付いた…


 この矢田の闘志に一度、火が付いた以上、もはや、誰も、この矢田を止めることは、できん…


 できんのだ…


 だから、私は、言ってやった…


 「…アムンゼン…もう、オマエとは、絶交さ…」


 と、言ってやった…


 「…絶交?…」


 「…そうさ…オマエをリンに会わせるために、マリアを連れて行こうとした…その気遣いに感謝せず、この矢田を一方的に非難するようなヤツとは、絶交さ…付き合ってあげんさ…」


 「…だったら、リンは…」


 「…知らんさ…自分で、サウジアラビアの外交ルートを駆使してでも、リンに会えば、いいさ…」


 私は、怒鳴った…


 怒鳴りまくった…


 すると、だ…


 アムンゼンが、沈黙した…


 「…」


 と、沈黙した…


 不気味な沈黙だった…


 が、


 私は、撤回せんかった…


 意地でも、撤回せんかった…


 すると、だ…


 電話の向こう側から、


 「…いいんですか、矢田さん…ボクを怒らせて…」


 と、アムンゼンが、私を脅した…


 この矢田トモコ様を脅したのだ…


 「…いいんですか? 矢田さん、ボクを本気で怒らせて?…」


 「…なんだと?…」


 「…ボクを本気で怒らせれば、サウジアラビア国内で、クールの製品は、金輪際、扱わせません…いえ、サウジアラビアのみならず、アラブ世界で、クールの製品は、排除します…」


 「…なんだと?…」


 「…それで、いいんですか? 矢田さん?…」


 アムンゼンが、脅した…


 3歳にしか、見えんガキが、この矢田トモコ様を脅した…


 私は、許せん…


 許せんかったのだ…


 だから、思わず、


 「…やってみれば、いいさ…」


 と、怒鳴った…


 「…この矢田トモコ様が、オマエの脅しに屈すると思ったら、大きな間違いさ…世界は、オマエを中心に回っていると、思ったら、大きな間違いさ…」


 私は、言ってやった…


アラブの至宝を叱ってやった…


 「…どうせ、オマエは、その歳まで、なんでも自分の思い通りになると、思って、生きてきたに違いないさ…でも、オマエのその、思い込みを、この矢田が、正してやるさ…自分の思い通りになると、思っても、できないことが、この世の中には、あると、教えてやるさ…」


 私は、怒鳴った…


 大声で、怒鳴った…


 すると、だ…


 いきなり、プツンで、電話が切れた…


 プツンと電話が切れたのだ…


 …これは、まさか、宣戦布告?…


 …もしかしたら、この矢田に対する宣戦布告か?…


 と、悩んだ…


 悩んだのだ…


 だから、言ってから、しまった、言い過ぎたと、思った…


 これも、いつものこと…


 いつものことだったのだ(涙)…


 だが、さすがに、今から電話をかけて、撤回するわけには、いかん…


 いかんかった…


 それでは、この矢田トモコ様のプライドは、ズタズタ…


 ズタズタだ…


 だから、できんかった…


 が、


 正直、あのアムンゼンを怒らせたのは、マズかった…


 アラブの至宝を怒らせたのは、マズかった…


 しかし、どうするか?


 正直、わからんかった…


 わからんかったのだ(涙)…


 

 結局、この日は、外出もせず、ずって、家にこもって、考え込んでいた…


 文字通り、悩んでいた…


 悩み抜いていた…


 だから、夫の葉尊が、家に帰って来たときも、玄関に、迎えに出た、私を見て、


 「…お姉さん…どうしました?…」


 と、葉尊が、開口一番、聞いた…


 「…どうしたって、なにがさ?…」


 「…お姉さんの顔です…目が真っ赤ですよ…」


 「…そうか?…」


 「…そうかじゃ、ありませんよ…おまけに、目が腫れぼったくなっていますよ…」


 「…そうか?…」


 「…お姉さん…一体、どうしたんですか?…まるで、幽霊か、なにかのようになって…抜け殻みたいですよ…」


 「…そうか?…」


 「…まずは、鏡で、自分の顔を見て下さい…」


 「…そうか?…」


 私は、言いながら、夫の葉尊の言う通り、鏡の前で、自分の顔を見た…


 すると、鏡の中に、私の顔が映った…


 いつもの、童顔の顔が、写った…


 しかしながら、その顔は、いつもにも増して、目が細かった…


 ずっと、泣いていたからだ…


 どうして、いいか、わからず、泣いていたからだ…


 だから、余計に目が腫れぼったくなって、いつもにも増して、目が細くなった…


 おまけに、目も真っ赤だった…


 ずっと、泣いていたからだ…


 これでは、夫の葉尊が、不審がるのも、当然だった…


 私は、思った…


 思ったのだ…


 私は、自分の顔を鏡で確かめてから、再び、夫の葉尊の元に、戻った…


 「…一体、どうしたんですか? …お姉さん?…」


 葉尊が聞いた…


 当たり前だった…


 が、


 私は、すぐには、答えんかった…


 すぐには、答えれんかったのだ…


 ただ、


 「…すまんかったさ…」


 と、葉尊に詫びた…


 「…迷惑をかけて、すまんかったさ…」


 と、詫びた…


 「…一体、どうしたんですか? お姉さん?…」


 私は、すぐには、答えんかった…


 いや、


 答えれんかった…


 だから、私は、泣きながら、


 「…離婚してくれさ…」


 と、言った…


 言わざるを得んかった…


 「…離婚? …どうして、いきなり、そんなことを?…」


 「…今日、アムンゼンを怒らせたのさ…」


 「…殿下を?…」


 「…そうさ…」


 「…殿下を怒らせた?…」


 「…そしたら、あのアムンゼン…クールの製品をアラブ世界から、駆逐すると、言って…」


 「…エッ?…」


 葉尊が、思わず、声を発した…


 当たり前だ…


 あのアラブの至宝を怒らせたのだ…


 「…そんな…」


 葉尊が、絶句した…


 文字通り、絶句した…


 いわば、手のひら返し…


 アムンゼンのおかげで、クールの製品が、それまでとは、比較にならないほど、爆発的に、アラブ世界で、売れたのに、アムンゼンの機嫌を損ねたから、今度は、一転して、買うなと、アラブ世界に号令したのだ…


 まさに、権力者のやることだ…


 権力者=独裁者のやることだ…


 私は、思った…


 思ったのだ…


 「…でも、いくらなんでも、そんなことは…」


 葉尊が、言う…


 「…だが、たしかに、私に言ったのさ…」


 「…ですが、それは、売り言葉に買い言葉…その場の勢いで、言っただけなんじゃ…」


 「…それは、わからんさ…でも…」


 「…でも、なんですか?…」


 「…私が、アムンゼンを怒らせたのは、事実さ…」


 「…」


 「…だから、これ以上、葉尊…オマエといると、葉尊…オマエやクールに迷惑が、かかると、思ってな…」


 「…」


 「…だから、離婚してくれさ…」


 私が、泣きながら、言うと、葉尊が、考え込んだ…


 私の夫が、考え込んだ…


 玄関に、座って、黙り込んだ…


 そして、しばらく、そのままの姿勢で、考え込んだ…


 一心不乱に考え込んだ…


 それから、立ち上がって、私を振り向いた…


 そして、私を見ながら、


 「…しばらくは、様子見が、いいと、思います…」


 と、まるで、ゆっくりと、子供に言い聞かせるように、言った…


 この矢田に言った…


 「…どうしてだ?…」


 「…それは、殿下が本当に、アラブ世界から、クールの製品を排除しようとするか、わからないからです…」


 「…でも、アムンゼンが…」


 「…お姉さんに対して、そう宣言したと、言いたいのでしょ?…」


 「…そうさ…」


 「…でも、それは、売り言葉に買い言葉…ケンカをすれば、誰でも、やりかねないことです…」


 「…それは、そうかも、しれんが…」


 「…ここは、いったんは、様子をみましょう…」


 「…」


 「…そして、一週間や二週間経って、なにもなければ、殿下も考えを変えたんだと、思います…」


 「…それなら、いいが…」


 「…そんなことより、早く、夕食にしましょう…お姉さんは、料理が得意だから、今夜は、どんな料理を食べさせてくれるのかな?…」


 葉尊は、笑いながら、言った…


 私に気を遣っているのは、明らかだった…


 明らかだったのだ…


 私は、それが、わかると、余計に涙が出てきた…


 この矢田トモコの細い目から、涙が、とめどなくあふれ出した…


 まるで、洪水で、ダムが、決壊したみたいだった…


 そんな私を見て、葉尊が、


 「…お姉さん…起きてしまったことは、仕方がありません…後は、ただ、とりあえずは、待つことです…」


 「…待つこと?…」


 「…そうです…殿下が、これから、どう出るか? 待つことです…」


 葉尊が、言った…


 まるで、小さな子供を諭すように、優しく言った…


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