表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

歴戦のパーティーがロリショタに!?

『可愛いって言ったらぶん殴るぞ・弐』

作者: ひい
掲載日:2026/07/04

〇〇〇『可愛いって言ったらぶん殴るぞ』〜歴戦のパーティーがロリショタに!?〜

https://ncode.syosetu.com/n5747lr/

の続編となる短編です。

「断る」


冒険者ギルドの応接室で、疾風のリオンは即答した。煙草に火すらつけていない。つける価値もない話だと、態度で語っていた。


「まだ何も言っていないんだが」


「あのダンジョンの話だろ。顔に書いてある」


ギルドマスターは苦笑した。図星だった。


「察しがいいな。——そうだ。『若返りのダンジョン』の件だ」


「断りますわ」


暖炉の前のエリシアが、こちらは杖を抱きしめるようにして言った。氷華のエリシア、宮廷魔導師。あの事件以来、外出時には変装を欠かさない女である。


「わたくしはもう二度と、あの、あの……ちっちゃいのには、なりませんわよ!!」


「落ち着け。まだ依頼内容も——」


「俺も断る」


窓際のガルドが腕を組んだまま言った。鋼鉄のガルド。歴戦の傭兵団長は、酒場で例の映像を流されるたびに机を叩き割っている男だ。修理代はもう金貨三枚を超えた。


「あそこにはもう近づかん。絶対にだ」


「私は、別にいいですけど……」


アリエルだけが小さく手を挙げた。三人がじろりと睨む。聖女は慌てて手を下ろした。


ギルドマスターは溜息をつき、一枚の紙を机に置いた。


「行方不明者、二十三名」


室内の空気が変わった。


「例の映像のせいで、あのダンジョンは有名になりすぎた。『若返れる』とな。ギルドは立入禁止にしたが、好事家どもは柵を乗り越えて潜っていく。そして——誰も戻らん」


「……死んだのか」ガルドが低く尋ねた。


「分からん。だが定期的に送り込んでいる使い魔の報告では、最深部に生存反応がある。二十三、きっちりな」


「生きてるのに、出てこない?」リオンが眉をひそめた。


「そうだ。国は来月、入口を埋めて完全封鎖することを決めた。つまり、これが最後の救出任務だ。そして経験者は——お前たちしかいない」


「断りますわ」エリシアが繰り返した。


「報酬は金貨三千枚」


「断りますわ」


「加えて——例の映像の原本を破棄する」


エリシアの杖が、がたりと音を立てた。


「……全部、ですの?」


「全部だ。各ギルドへの配布分も回収する。『ちっちゃくなった伝説の冒険者たち』は、この世から消える」


長い、長い沈黙。


リオンが煙草を咥え、火をつけた。


「……乗った」



出発は三日後と決まった。


前回と違うのは、その三日間を「準備」に費やしたことだ。


「いいか、前回の敗因は装備だ」


ギルドの倉庫で、ガルドが仁王立ちして言った。彼の前には、鍛冶屋に特注した装備一式が並んでいる。


子供サイズの鎧。子供サイズの剣。子供サイズの盾。


「七歳児の体格に合わせて作らせた。軽量、かつ着脱はベルト二本。子供の指でも外せる」


「用意周到ですこと」エリシアが皮肉っぽく言う。「ご自分のちっちゃい体のサイズを、鍛冶屋に説明なさったんですの? 『俺は七歳になるとこれくらいでな』と?」


「……言わせるな」


ガルドの耳が赤い。鍛冶屋には一生分の口止め料を払ったという。


エリシアはエリシアで、対策を済ませていた。


「詠唱を、全部改造しましたわ」


彼女が取り出したのは、羊皮紙の束。びっしりと書き込まれた呪文の、あちこちに赤線が引かれている。


「舌足らずでも発動するよう、サ行とラ行を排除した短縮詠唱ですわ。『氷結の盾』は『こおりのかべ』に。『爆炎球』は『ぼんっ』に」


「ぼんっ」リオンが真顔で復唱した。


「笑ったらぶん殴りますわよ」


「笑ってねぇよ。……ぼんっ」


「殴りますわよ!!」


アリエルは三日間、滑舌の訓練をしていた。


「たすけて、ください。たすけて、ください……」


神殿の祈祷室から、延々と繰り返す声が漏れていたという。同僚の神殿騎士たちは「新手の苦行か」と震え上がった。


リオンは——何もしていないように見えた。


「お前は対策なしか」ガルドが尋ねると、盗賊は肩をすくめた。


「ガキの体は、もう分かってる。膂力はねぇ、リーチもねぇ、声は可愛い。なら戦い方を変えるだけだ。……それより、俺は別のことを調べてた」


「別のこと?」


「二十三人が『生きてるのに出てこない』理由だ」


リオンは声を落とした。


「俺たちは戻れた。同じ魔法陣を踏んでな。なのに後から潜った連中は戻れてない。……何かが違うんだよ、俺たちと連中は」


「何が違うんですの?」


「さあな」リオンは煙草を揉み消した。「だが、行けば分かる」



ダンジョンの入口には、立入禁止の柵が張られていた。


柵のあちこちが壊されている。乗り越えた者たちの痕跡だった。


「……相変わらず、辛気くせぇ穴だ」


リオンを先頭に、四人は通路を進んだ。やがて、床一面の魔法陣が見えてくる。淡く明滅する、幾何学模様。


四人は魔法陣の手前で立ち止まり、視線を交わした。


「……確認するぞ」ガルドが言った。「この先で、俺たちはまた、ああなる」


「なりますわね」


「なりましゅ……なります」


「なる」


「よし」ガルドは頷いた。「今回は誰も泣くな。誰も転ぶな。誰も『可愛い』と言うな。プロとして行くぞ」


四人は同時に、魔法陣を踏んだ。


ズガァァァンッ!!



光が収まる。


七歳のガルドが、そこに立っていた。


特注の子供鎧が、寸分の狂いなく体に馴染んでいる。子供サイズの剣を抜き、二、三度振る。軽い。振れる。


「……完璧だ」


七歳児が渋い声——を出そうとした高い声で言った。


隣では六歳のエリシアが、短くなった予備の杖を構えていた。ローブも子供サイズ。裾を踏む要素がない。


「ふふ、ふふふ……今回のわたくしは、一味違いますわよ」


幼女が傲然と胸を張る。様になっている。いや、なっていない。可愛い。だが誰も言わない。言ったら殴られるからだ。


「みなさん、いきましょう」


五歳のアリエルが、子供サイズの聖槍を構えて言った。舌が、回っている。三日間の苦行の成果だった。


「……よし、行くぞ」


八歳のリオンが先頭に立つ。


四人の子供が、隊列を組んで通路を進む。その足取りに、前回の悲壮感はない。


——直後、暗がりからスライムが現れた。


因縁の相手である。


「ガルド」


「おう」


七歳児が踏み込んだ。子供サイズの剣が一閃。スライムの核を正確に両断する。


ぐちゅり、と音を立てて、スライムは崩れた。


「……前回の借りは返したぞ」


七歳児が、剣についた粘液を払って呟いた。ちょっと格好いい。姿は完全に「剣士ごっこをする近所の子供」だが、動きは歴戦のそれだった。


ゴブリンの群れが出た。


「ぼんっ」


エリシアの短縮詠唱が炸裂し、爆炎がゴブリンを吹き飛ばした。


「ふふふ! 見ましたか! 『ぼんっ』ですわ! 完璧な『ぼんっ』でしたわ!」


幼女が飛び跳ねて喜んでいる。可愛い。誰も言わない。


コウモリの群れが出た。


「せいなるひかりよ!」


アリエルの聖光が通路を満たし、コウモリは散り散りに逃げた。噛まずに言えた。五歳児が小さくガッツポーズをした。可愛い。誰も、言わない。歯を食いしばって、誰も言わない。


「……順調すぎて、逆に怖ぇな」


リオンが呟いた、その時だった。


通路の先に、光が見えた。


最深部の広間。


そこから聞こえてきたのは——悲鳴でも、うめき声でもなく。


笑い声だった。



広間には、二十三人の子供たちがいた。


鬼ごっこをしている一団。壁に落書きをしている一団。光る苔を集めて団子を作っている一団。


みんな、笑っていた。


「……おい、嘘だろ」


リオンが呆然と呟いた。


子供たちの一人が、四人に気づいた。六歳ほどの少年。その顔に、怯えはなかった。


「あ! 新入りだ!」


「ちがう!」ガルドが叫んだ。「我々は救出に来た! ギルドの依頼で——」


「きゅうしゅつ?」少年はきょとんとした。それから、にっこり笑った。


「いらないよ、そんなの」


「……は?」


「だって僕たち、帰りたくないもん」



話を聞いて、四人は頭を抱えた。


二十三人は、遭難していなかった。監禁もされていなかった。


自主的に、残っていた。


「僕、商会の頭取だったんだけどさ」団子を作っていた少年が言った。「借金取りの応対も、株主への言い訳も、もうしなくていいんだよ? 最高じゃん」


「わたし、伯爵夫人だったの」鬼ごっこ組の少女が言った。「社交界も、跡継ぎ問題も、姑も、ぜーんぶ、ばいばい」


「食料は苔と地下水で足りるしね。ここ、あったかいし」


「大人に戻ったら、また働くんだよ? 税金払うんだよ? やだよそんなの」


四人は絶句した。


エリシアが、震える声で尋ねた。


「で、では……あなたたちが戻らないのは、魔法陣が壊れたからでは、なく……」


「ああ、あれね」


頭取だった少年が、こともなげに言った。


「あの魔法陣、『心の底から帰りたい』と思ってないと、発動しないんだよ。何度踏んでも、うんともすんとも言わない。……最初はみんな焦ったけどさ、そのうち気づいたんだ。あれ? 帰れないんじゃなくて、帰りたくないんじゃね? って」


リオンが、ゆっくりと三人を振り返った。


「……謎が解けたぜ。俺たちが戻れた理由」


前回の帰還の瞬間を、四人は思い出していた。


屈辱。羞恥。一刻も早くこの姿から解放されたいという、魂の底からの絶叫。


「俺たちは全員、心の底から帰りたかった。……あの屈辱のおかげでな」


「思い出させないでくださいまし」



「さて、どうする」


広間の隅で、四人は円陣を組んだ。子供が四人、額を突き合わせている。作戦会議である。傍から見れば秘密基地ごっこだった。


「力ずくで魔法陣まで運んでも、無意味だ。本人が『帰りたい』と思わなきゃ発動しねぇ」


「説得は……無理そうですわね。あの顔は、本気で楽しんでいる顔ですわ」


「困りました……」


沈黙が落ちる。


その時、リオンが、ゆっくりと顔を上げた。


嫌な笑みだった。ろくでもないことを思いついた時の、盗賊の顔だった。


「……なあ。俺たちはなんで、あんなに帰りたかったんだ?」


「屈辱だったからだろう」ガルドが答える。


「そうだ。……じゃあ、なんで屈辱だった?」


「それは……子供扱いされて、可愛い可愛いと、玩具のように——」


ガルドの言葉が、止まった。


四人の視線が、交わった。


「……つまり」エリシアが、ごくりと喉を鳴らした。


「連中に『大人の自尊心』を思い出させればいい。子供扱いという屈辱を、心の芯まで刻み込めば——」


「『帰りたい』が、発動する」


リオンは立ち上がり、二十三人を見渡して、宣言した。


「作戦名——『可愛いって言ったらぶん殴るぞ大作戦』。今から俺たちは、あいつら全員を」


一拍。


「可愛がり倒す」



地獄の可愛がりが、始まった。


「あら〜〜〜! お団子作ってまちゅか〜〜〜? じょうずでちゅね〜〜〜!!」


エリシアが、元・商会頭取の少年に猫撫で声を浴びせた。宮廷魔導師の知性を全て投げ捨てた、完璧な赤ちゃん言葉だった。


「や、やめろ。僕は頭取だぞ。年商金貨五万枚の——」


「え〜〜? とうどりしゃんでちゅか〜〜? ちっちゃいのにえらいでちゅね〜〜! よちよち!」


「頭を撫でるな!! 商談で握った手だぞその頭は!!」


少年の顔が屈辱に歪む。エリシアはニヤリと笑った。イケる。この手応え、イケますわ。


ガルドは元・伯爵夫人の少女を追い詰めていた。


「ほ〜ら、高い高〜い」


「おろしなさい!! わたくしは伯爵夫人よ!! 社交界の華と呼ばれた——きゃあああ回さないで!!」


「ぶーん、ぶーん。伯爵夫人は空を飛べて嬉しいなぁ? なぁ?」


「屈辱ですわああああ!!」


アリエルは、意外な才能を発揮していた。


「はい、みなさーん、お遊戯のじかんですよー。おててをつないで、わになりましょうねー」


聖女の慈愛に満ちた微笑みが、今は凶器だった。元・騎士団長、元・大商人、元・宮廷学者たちが、手を繋がされ、輪になって回されている。


「く……くそ……こんな……儂は騎士団長だぞ……」


「はい、じょうずじょうず! つぎは おうたの じかんですよー」


「歌わせる気か!? やめろ! 儂には威厳が——」


そしてリオンは、一対一で止めを刺して回っていた。標的の耳元に屈み込み、低く——今は高い声で、囁くのだ。


「……なあ、知ってるか? お前らの今の姿、ぜんぶ魔法水晶で記録されてる」


「……は?」


「俺たちの時と同じだ。地上に出た瞬間、映像は王国中のギルドに配信される。『お遊戯する元・騎士団長』『高い高いされる伯爵夫人』——後世まで、な」


「や……やめ……」


「止める方法は一つ。今すぐ大人に戻って、映像より先に地上で威厳を取り戻すことだ。……帰りたくなってきただろ?」


悪魔だった。八歳の悪魔だった。



一時間後。


二十三人の子供たちが、涙目で魔法陣の上に立っていた。


「帰りたい……」


「大人に戻りたい……」


「税金を払いたい……働きたい……人としての尊厳を取り戻したい……」


その呟きに呼応するように、魔法陣が輝きを増していく。


ズガァァァンッ!!


閃光。轟音。


そして——広間には、二十三人の大人たちが立っていた。


頭取は無言でネクタイを締め直し、伯爵夫人は無言で扇を広げ、騎士団長は無言で誰よりも深く俯いていた。


全員、目が死んでいた。だが、大人だった。


「任務完了、ですわね」


エリシアが額の汗を拭った。


「ああ。……じゃあ、俺たちも帰るか」


四人は魔法陣に立った。今回もまた、心の底から帰りたかった。主に、赤ちゃん言葉を使った記憶を消し去りたかった。


光が、四人を包んだ。



冒険者ギルド。


「よくやった! 全員救出、死者なし! 完璧だ!」


ギルドマスターが上機嫌で金貨の袋を積み上げる。


「約束の三千枚だ。それと——例の映像の原本。この場で燃やそう」


暖炉に、水晶の記録板が投げ込まれた。『ちっちゃくなった伝説の冒険者たち』が、音を立てて溶けていく。


エリシアは、それをうっとりと眺めた。


「ああ……消えていきますわ……わたくしの黒歴史が……」


「これで全部終わりだな」ガルドが満足げに頷いた。


「ところでだな」


ギルドマスターが言った。


四人が、凍りついた。その前置きには、聞き覚えがあった。


「……何だ?」リオンが、恐る恐る尋ねた。


「今回の救出劇もな、記録されていたんだ。救出された二十三人の中に、監視用の魔法水晶を持ち込んでいた者がいてな。地上に出た瞬間、自動で——」


「まさか」


「配信された。王国中に」


沈黙。


「題して——『赤ちゃん言葉の宮廷魔導師』『高い高いする傭兵団長』『お遊戯を仕切る聖女』、そして」


ギルドマスターは、リオンを見た。


「『子供を脅す盗賊(八歳)』」


「やめなさああああい!!!」


エリシアの絶叫が、再びギルドに響き渡った。



おまけ


この事件の後、四人には新たなあだ名がついた。


「保育士パーティー」


ガルドは酒場で「高い高い」をせがまれるたびに机を叩き割り(修理代は金貨十枚を超えた)、エリシアは変装を二重にし、リオンは「でちゅか?」と言われるたびに相手を殴り、アリエルには本物の託児依頼が殺到するようになった。


そして、あのダンジョンは予定通り埋め立てられ、完全に封鎖された。


——のだが。


深夜、封鎖された入口の前には、今も人影が絶えないという。


疲れた顔の大人たちが、埋められた入口の前に黙って佇み、そして帰っていくのだ。


その中には、あの日救出された二十三人の姿も、ちらほらと混じっていたという。


働きたいと言って戻ったはずの、大人たちが。


めでたし、めでたし?


――完――

長編が書けなかったので短編にしました。

これもADV化しようと思います。

中編の文量になったら一本のADVとして出せたら良いなと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ