シェリルと雑談
『火・水・風・土・闇・光』
女神様より与えられし、六つの核心的力は【六大属性】と呼ばれ魔法の本質として成り立っている。それ以外にも【特殊属性】と呼ばれる六大属性に分類できない力があり、これらは極めて希少とされ、どの国でも重宝されている。
属性は遺伝にあらず気質や才能により天から定められしもの。それらに優劣などは存在しない。稀に複数属性の所有者が居るが基本は一つの属性を持つのが普通とされている。
この世界の生命を持つ者は皆等しく魔力を持ち、息をするように魔法を扱うことが出来るのだ。
───普通なら。
『シェリーは魔力の扱いが下手なのか。どれ、私が見てやろう』
ハヴァ義父様とお母様の喧嘩が沈静化し皆で仲良く豪華な食事を味わっていたときだ。
食事の席で再度祝いの言葉と共に、エリオ兄様から一点物の髪飾りと花束。お父様からは複数の装飾品と魔力で発動するオルゴールをプレゼントされ、浮足立っていた。そんな私にお母様が「鳴らしてみせてよ」と言ったので承知とオルゴールに魔力を注ぎ込んだのだが…。うん、鳴らない。
そう、実は私シェリルは魔力の扱い方が超絶ド下手くそなのだ。
「うーん、魔石に魔力を込めるのは出来てたんだけどねぇ。シェリー、同じ要領で出来ないかい?」
「やってみる!…ふぬぬぬっ」
「シェリーってば思わぬところでポンコツ発揮するわね」
「あぅ」
「シェリー大丈夫だよ、人には向き不向きがあるんだから。一緒に練習しよう?」
「え、えりおにいさまぁ…」
兄様の優しさが染みるよぉ!!
だけど兄様、私本当に不出来なのでお爺ちゃん先生も投げ出しちゃったし、あのお父様ですらも今みたいな苦笑いでなにも言ってこないんです。もはやこれは練習でどうにかなる問題では無いかと…。
そんな節の先程のハヴァ義父様のあの発言。
どうやらハヴァ義父様は、若い頃に宮廷魔法騎士団団員としてそれはもうブイブイどころか、ずしゃーんっどっかーん言わせていた天才魔術師なんだとか。今は退職したが現在も時たま特別顧問役として教鞭を執るほど魔法に精通しているらしい。
「魔法は奥が深いものだからな。私も研究しているが未だ全てが解明されてない神秘の領域なのだ。きっとシェリーもその根本に微かでも触れれば直ぐに扱えるようになるさ」
「なるほど…」
よく分かんないけど自信満々に言うのだからそうなのだろう。なので、如何にも分かってます感を出し神妙そうに頷いておいた。
「まず基本的なことから説明しようか。魔力は全ての生命が持つ命の灯そのものだ。もし、魔力枯渇にでもなれば命の危機に陥ってしまう。だからこそ自身の魔力量を常に把握し、理解することが魔法を使う上での基礎となる。さて、シェリー。それを踏まえて君の属性と大まかな魔力量が知りたいのだが…」
「あー…」
やばーい!初っ端から躓きそう…!
昔お爺ちゃん先生の授業で魔道具を使って精密検査をしたんだけどトラブルがあって何も分からなかったんだよね。だから魔力量どころか自分の属性すら分からないのだ。
「ハヴァルス、実は…」
過去の検査で起こった軽い魔力暴走と魔道具破損についてお父様が代わりに説明をしてくれる。魔力量は通常より多いのは確かだが正確なデータは未だ不明で、私の魔力の扱いが下手過ぎて詳細確認が出来ないのが現状。なんだったら、お爺ちゃん先生も私もほぼ諦めており今は魔法の授業は月一程度だ。
「なるほどそこまでか…」
「僕も覚えてるよ。手紙からでもシェリーの悲しさが伝わったからね。僕が傍にいればその悲しみを分かち合えなのに…、自分が不甲斐無くて情け無くて仕方なかったよ…」
そういえば手紙でちょっと愚痴ったら、エリオ兄様からとんでもない量の慰めの手紙が来たんだった。普通にびっくりしたよね。
当時の私よりも悲痛な表情を浮かべたエリオ兄様が頭を撫でてくる。まあ、碌に魔法が使えない自分にどうしようもない虚しさを覚えたのは事実だけど、それも寝たら忘れたし出来ないものは仕方ないよねって感じなのだ。
「さっきエリオットが言ったように人には向き不向きがあるんだ。魔法が使えないからと言ってシェリーの価値が揺らぐわけでは無い。それにそもそもシェリーは女の子だからね。魔法を使う危険な状況になんて遭遇しないだろう。もししたとしても傍にいる私たちが守れば良いだけだ」
「お父様…」
優しい言葉に涙を潤ませ抱き着こうとしたときだった。お父様は困った顔をして「だけど…」と徐に話を続ける。
「流石に自分の魔力を把握していないのは不味いと思うんだよ。何らかのきっかけで魔力暴走なんてことになった場合や枯渇したときなんかそれこそ命の危険すらある。せめて、属性の把握と少しの魔力操作を出来るようにして欲しいと思ってるんだ」
お、お父様…!? そんなこと考えてたんですか!?
初めて聞く言葉にポカンと口を開ける。
「それはそうだな。このままだとシェリーの為にならない」
「うん、だからオルゴールで少しでも魔力操作の練習が出来れば良いかなって。それに、ロクタール卿もシェリー専用の魔道具を開発してくれてるみたいだしね」
えぇ!?このプレゼントそんな意図があったの!?
というか、お爺ちゃん先生諦めてた訳じゃ無いんだね。私の為に頑張ってくれてたんだ…。
「師はロクタール卿なのか。ふむ…そうだな…、それは考える必要があるな。彼が指導しているなら私が中途半端に手を出すのは良くないだろうし…一度聞いてみるか…」
魔法が無い世界の記憶を持ってる私は楽観的に考えてたけど、どうやら自分の魔力把握はかなり大切なものらしかった。うぅん、それなら頑張らないといけないなぁ。なにかあってからじゃ遅いだろうし…。お父様に迷惑かけるなんてことになったら一大事だ。それは自分が許せないもん。
お爺ちゃん先生私頑張るよ!!きっと自由自在に魔法が操れる立派な淑女になるよ!!
「私…頑張ります!自分の力を制御出来るようにお爺ちゃん先生にもビシバシ教えてもらいます!!」
「シェリー…、私ももっと早く言えば良かったね…。シェリーが魔法特訓を嫌がるかと思って今日までずるずる引き伸ばしてしまったんだ…。ロクタール卿がそろそろ授業を再開するって言っていたからこのタイミングに…」
「いえ、お父様は悪くありません。自分の力なのに出来ないからと投げ出して諦めた私が悪いんです。これからはもっと真剣に授業に取り組みます!」
わあっと感嘆するお父様と抱きしめ合う。
これまで怠けていたツケが回ってきたが、まあ授業自体は楽しいので全然ばっちこいだ。だって魔法だよ?やっぱりちょっとでも使えるなら使いたいよね。
「偉いねシェリー…。あ、そうだ…どうせなら僕も授業一緒に受けようかな」
「ふむ、エリオットが参戦するのか。では私はロクタール卿いない際に代打で指導しよう」
「なに言ってるんです?父上はお忙しいでしょうからご無理なさらず大人しく自宅に居た方が良いかと」
「そういうお前こそ来月から学園で忙しくなるだろう。私に任せておけ」
「ご安心ください。授業終了後は直ぐに帰宅しますので時間ならあります」
「全く…、歳の近い令息と関われる機会なんだ。もっと学園生活を大事にしたほうがいいのではないか?」
「将来を見据えた付き合いは既に社交を通してしております。それに新しい付き合いもシェリーを虚ろにしてまでする必要性は無いので」
ちなみにこれ、いつもこんな感じだそうだが親子仲は別に悪く無いらしい。男同士だと淡々とした会話になるんだろうか?
話に入って来なかったお母様はこの間、デザートに夢中になっていたようでハヴァ義父様の分までぱくぱくと食べていたのだった。




