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女性の少ない世界で自由気ままに生きます  作者: 戌ノ小枝
第1章 前世の目覚め編

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7/16

エリオットと公爵の話

「あぁエリオット、呼び出して悪かったね」

「いえ、お気になさらず。丁度暇を持て余していたので」

「はは、そんなに堅くならなくとも良いよ。今日から一緒に暮らしていくんだからね、フラットに行こう」


 そう言い、シェリーと同じ蜂蜜色の瞳に慈愛を篭らせこちら微笑んでくる公爵様に笑みを漏らした。そして促されるまま向かい側に座り、彼と対面する。


「昼の案内はどうだったかな?君に屋敷のことを教えるんだってあの子、昨日から張り切っていたからね。ちゃんと出来ていたかい?」

「はい、それはもう楽しく過ごさせていただきました」

「それなら良かった」


 シェリル・ルラッグ。

 かねてより僕の婚約者であった愛しい彼女と初めて対面を果たしたのは数刻前。話で聞いていた通り、いや話以上の可憐さと内面の美しさを咲き誇らせたその人に僕は本当の意味で一目で恋をした。

 手紙のやり取りでの好ましさと愛おしさを遥かに凌駕するのは実際に顔を突き合わせたから。


 シェリーのことは昔から知っていた。公爵家の姫君でありなにより僕の義妹。父は母の恋人の一人でしか無く、戸籍上関わりもない為義妹が気になったとしても彼女と会うことは無かった。

 と言ってもそれは他も同じ。理由としては、父親であるルラッグ卿が娘を溺愛するあまり婚約話を蹴り、屋敷に囲っていたから。

 実際産まれてから一度も彼女は姿を見せず、挙句に貴族令嬢として王国一の身分を持つはずの彼女に婚約者が居ないという状況。公爵家の唯一の娘として彼女の婚約者となれば自動的に公爵家が手に入ると釣書が王族並に押し寄せたらしいがそれも年々減少していったと聞いている。


 傷物、欠陥、醜女、性悪。

 不名誉な噂話は、彼女が姿を見せないことから貴族社会に流れたもの。

 それを聞いた下級貴族たちもそれなら自分達にもチャンスがあるのではと身分不相応にも公爵家に話を持ち掛けたと聞いたときは不愉快で仕方なかった。まあ公爵様がバッサリ切ったらしいが。


 そんな公爵家に縁談話が再熱したのはここ四年の事。新事業として続々と売り出していく画期的な商品等に貴族はもちろん平民すらも釘付けになった。

 公爵家監修の名も無き商会が王国のみならず周辺諸国にまで名を轟かせるのに時間は掛からず、ルラッグ公爵家の治めるハウェーゼス領が第二の王都とまで呼ばれるほど栄えていった。

 不名誉な噂話があろうがなかろうが縁を繋ぎたいと思う者は多く、それはもう婚約話が舞い込み面倒だと公爵様が話していたのは記憶に新しい。


 そして…。今は王家ですら動向に注視しているほど注目を浴びている公爵家に動きがあったのが三年前のこと。まだそれほど事業が目立ってはおらず公爵家が注目され始めた初期だった。

 

 始まりは親愛なる母が貴族のお茶会に出席したことが切っ掛けらしい。同じ娘を持つ夫人に遠回しにシェリー共々馬鹿にされたことが母の怒りに火をつけたとのこと。

 それまで静観をしていた母が突如シェリーの婚約者を決めると宣言し、公爵様の反対を押し切り僕を筆頭婚約者として指名したのだ。


 話を聞いたときは驚きと嬉しさがあった。ずっと気になっていた義妹の筆頭として選ばれたのだ。その名誉に胸が熱くなるのは当然のこと。

 しかし、シェリーと直ぐに会うことは叶わなかった。前公爵様の意向で、ある程度教育を施してからの対面と託けられたのだ。


 それに加えて、母が僕に筆頭婚約者の話を告げたのがあろうことか彼女の誕生日前日の夜。碌にプレゼントも用意できず、急遽手紙と花束を用意し母に託したのはしょうがないことだろう。

 だけど向こうからしてみればそんな事情関係無い。女性のましてや婚約者に贈る初めてのプレゼントが花束。幾ら幼いとはいえ彼女ももう七歳となる。貧相だと捨てられても仕方ない、と諦めていた。ともかく次で挽回しようと思っていたのだ。

 母は「シェリーはそんなの気にしないわよ」と言っていたが当時の僕は、初めてのコンタクトがこれで嫌われてしまったのではないかと数日間生きた心地がしなかった。


 だけど…。


【このたびは、わたくしの誕生日にすてきなお祝いのお手紙ときれいな花束をいただきありがとうございました。春の日差しのようにあたたかいお言葉、とても嬉しく何度も読み返してしまいました──】


 返事が返ってくるなんて思ってもみなかった。

 母に反応を聞こうと思っていたらそれよりも先に父から手紙を渡されたのだ。中身がシェリーからだと分かったとき頬が緩むほど嬉しかった。

 そして何よりその内容が、僕の心を寸分違わず撃ち抜いた。一文字一文字大事を読むにつれ湧き起こる愛おしさと感動。拙い字で書かれたそれはあまり上手な字と言えなかったが、一生懸命書いたと分かるそれに思わず涙ぐんでしまった。

 ちなみにこの手紙は今でも大事に保管しており、公爵家にも持ってきた厳重な金庫に入れてある僕の宝となっている。


 そうしてそれを切っ掛けに始まった手紙での交流。

 文字での繋がりだったが、それでもシェリーの人柄が十分に理解できた。それに加えて公爵家の人々と交流していくにつれ聞くようになった彼女の話。


 他の女性とはまるで違う、天使と違わぬ美しい心を持つシェリー。

 そんな彼女に見合う男になるため文字道理、死ぬほど努力した。

 シェリーはそれはもう人気だった。特に屋敷で世話する使用人の話を聞く限り彼女に悪感情を抱いている者は一人とて居ない。全員がシェリーを心から大事に思っていた。


 そしてそれだけではない。

 シェリーはただ美しい心を持つだけの女の子では無かったのだ。

 

 最近公爵家で話題となっているもの全てがシェリーの発案だと言うのでは無いか。

 その神の才についてはシェリーから訳を教えられたが、それを聞いても僕は彼女の凄さに感嘆せざるを得ない。前世の記憶だろうがそれも彼女の一部で、彼女の力なのだ。素直に尊敬する。


 それに加えて容姿もそう。

 母に似た色の美しい髪に公爵様と同じ蜂蜜の瞳。天使かと見間違えそうになるほど可憐な姿に驚きで目を奪われたのは仕方ないだろう。可愛いとは聞いていたが本音を言えばここまでとは思ってもみなかったのだ。


 性格も容姿も知恵もある。

 噂話とは全く違うそれにもし他の令息が知れば挙って奪い合いになること間違い無しだと確信できる。

 だからこそ筆頭婚約者として僕はシェリーを守らなければならない。いや、一人の男として愛する女性を毒牙から守る。女神様の誓いに賭けて僕がシェリーを幸せにするのだ。



◇◇◇◇


「エリオットも分かっていると思うけど…シェリーは他の令嬢、いや女性とまるで違う。今はまだ幼いが、この先成長していくにつれ更に魅力が増していくはず。男共はそんなあの子を放ってはおかないだろう」

「そうですね。今でもかなり危険なのに更にそれが増しそうな予感がします」

「だからエリオット、君にお願いがある」

「お願いですか?」

「うん。二人…、いやせめて一人。君が心から信頼し信用できる令息を選びあの子の二人目の婚約者として紹介してやってくれないかな?」

「え?」

「なんというか…、シェリーは自分の魅力がまるで分かっていないんだ。まあそれに関しては私が外との繋がりを絶ってきたせいでもあるんだが…、ともかくあの子には早急に彼女自身を守る者が必要となってくる。それに、君という筆頭が決まって以来まだ他の婚約者が居ないんだ。数少ない女性を独占するとは何事かって外野がそろそろ五月蝿くてね。少なくともあと三人は欲しいところなんだけど…」

「っちょっと待ってください!」

「うん?どうかした?」


 きょとんとした顔でこちらを見てくる公爵様に困惑する。

 これは僕が可笑しいのだろうか、いやそんな事はない…筈、だよね?


「あの…、確かに僕は筆頭ですがシェリーの相手を決める権限を持っていません。ご存知かと思いますが、女性が相手を決めるのは女性自身。つまり、これから婚約者もしくは愛人はシェリー自身が決めることかと…」

「それはもちろん知っているよ。だけど、シェリーは選ぶ気がまるで無いんだよ」

「え?」

「初めはエリオットとシェリーが顔を合わせるまでは他の婚約者を用意するつもりが無かったから気にして無かったんだけど…。どうやら私たちは、シェリーを過保護に育て過ぎたみたいなんだ」

「えっと…?それはどういう…?」

「あの子、男にまるで興味が無いんだよね。それとなくこの前釣書見せたんだけどまるで気にもしてなかったし。ただ、他にも婚約者が必要っていうのはあの子も分かっているんだろうけど微妙そうでねぇ」

「…そ、れは」

「困ったよねぇ。私が他を決めるのもそれはどうなんだろうって感じだし。一応親が決めるのは筆頭だけって暗黙の了解だからね。まだ物心付いてないときなら私が選んでも良かったんだけど…」


 前世の記憶というものが関係しているのだろうか。

 あの後シェリーに詳しく話を聞いたけど、どうやら彼女の前世は『男女比が同等』で『一夫一妻制の産まれ』らしかった。複数の男性を自ら選ぶということに戸惑いを覚えているとか…?それともただ単に興味が無いとか?

 分からないけど、本人に選ぶ意思が無いのはかなり困る。


「と言う訳でエリオットに頼みたいな、って。それに君なら良い人材を知ってそうだし」

「なるほど…。ただ最終判断は…」

「もちろん、最終的に決めるのはシェリーだ。でも…あの子のことだからエリオットの紹介ならすんなり受け入れると思うんだ。だから変な奴だけは寄越さないようにお願いね」

「分かりました。しっかり吟味して選びます」

「うん。よろしくね」


 どうやら話と言うのはこのことらしい。

 ほっと一息ついた公爵様は、セドールに茶のお代わりを頼み腰を落ち着けている。


「それはそうと…、そろそろ君も私のことお義父って呼んで良いんだよ?シェリーの未来の夫でなによりミルシェの子なんだからね」

「…そうですね。ではお言葉に甘えてお義父様と呼ばさせていただきます」

「うんうん、それが良いよ」


 それにしてもどうしようか。

 きっとシェリーは特に家柄は気にしないだろう。となれば顔、もしくは性格…?

 うーん、彼女の好みが分からないからそれとなく確認しないと…。

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