シェリルと婚約者2
雪の精霊如く、優雅に歩く姿は人を惹きつけ魅了する。
淡い輝きを放つ真珠を砕いたような白髪に陽光を受けた煌めく碧眼。細身に見えるが軽やかな動きと姿勢から鍛錬の跡が見て取れる。そして、大人の域を出ない年齢なのに心が攫われるような色気を持ちはっとする美しさがある。
【速報】エリオ兄様、とんでもない美少年だったもよう。
え、あれで十五歳って本気かな?嘘じゃ無く?最近の十五歳ってこんな大人っぽいの?
この美少年ならぬ美青年を見ると、カルアや他の人たちが普通と認識される理由が分かる。うん、なんかもう次元が違うや。
数分前に無事我が家に到着したというエリオ兄様。
それをお迎えしようとふんふん向かったんだけど…。
玄関ホールでお父様と和やかに話をしているエリオ兄様を柱に隠れてじっと見る。遠くからでも分かるあの輝き。チキンの私にはその存在が眩すぎてこっそり隠れてしまったのだ。
「…あの、お嬢様なぜお隠れに?」
「え。ぅ、うん──、ちょっと…うん、ね?」
「はい?」
あんな美少年の前に堂々と出て行けるわけ無いじゃん!なんでみんなそんな普通そうにしてるの!?もしかして目が腐ってる!?
不思議そうに同じく柱に隠れながらこちらを見てくるカルアに言葉を濁す。
さっきまで楽しみで心躍ってただけなのにいざ姿を見てみると、緊張であり得ないほど心臓ドコドコ高鳴ってる。普通に死ぬかもしれない。
なんて考えてたところ──、お父様が私不在に気づいてしまった。
「…あれ?シェリーはどこいった?」
「シェリー?シェリーが居るんですか?」
「うん、さっきまで横に居たんだけど…」
うっわぁ、声も良い…。
きょろきょろ周りを見渡す父に合わせて、エリオ兄様と使用人も揃って私を探し出そうとする。
「お嬢様ー?」
「シェリー、エリオットが来てるよー?」
や、やめてええ!お願いだから私のことは放っておいてええ!
うるさいっ!「お嬢様今はかくれんぼの時間じゃありませんよ」なんて分かってるし!かくれんぼじゃない!
隙を見て部屋に戻るか…。そう、これは逃げじゃない戦略的撤退。
なんて考えていたらまさかの裏切りが起こる。
「旦那様お嬢様ならここに」
「かるあ!?」
ええ!?ちょっとカルアさん!?なに裏切ってるの!?
なんでそんなやれやれ、みたいな呆れた顔するのさ!こっちがしたいよ!
「シェリーなんでそんな場所にいるんだい?お父様の所においで」
安堵した表情を浮かべたお父様が近づいてくる。もちろんその後ろにエリオ兄様もいる。
巨悪の根源カルアは柱から身を出ししれっとした顔で傍に控えていた。己許さん。
「ほらおいで、エリオットにご挨拶しないと」
「…」
「シェリー?」
怪訝と困惑が入り乱れたなんとも言えない表情を浮かべたお父様がこっちを見てくる。
柱に隠れて様子を伺う私。確かにその顔になるのも無理は無い、なんか怪しいもんね。
しかし、そんな私にも悠然とした態度を崩さないエリオ兄様。
その場から動かず、私の前(柱)に跪くとにこりと微笑んだ。
「…可愛いシェリー、僕がエリオットだよ。漸く会えたね」
かかかか──っ!かっこいい!!
頬が紅潮し、瞳が輝いている。その嬉しさ喜びが顔全体に出ており、私の胸が熱くなった。
「今日という日を僕はずっと楽しみしてたんだ。だから、…僕にその愛らしい顔を見せてくれないかい?」
…む、むり。なんかもう意識失いそう。
冷たい柱に顔を押し付けながら沸騰する熱を冷ました。緊張と恥ずかしさが入混じり限界突破しそうなときだった。
「それとも…、僕の顔は君の好みじゃ無かったかな…?」
あからさまに変わった声色。苦しさと悲痛に塗れたそれに思わず柱から飛び出してしまったのは仕方ないだろう。
「っシェリー?」
め、目が焼かれる…!?
目前にある麗しいその顔に真っ赤な顔がさらに赤く染まりばっと下を向いた。
一瞬見えたぱちぱち、と目を瞬かせるエリオ兄様のその表情はどこか幼く見えて可愛らしかった。
「っち、…ちがくてっ!…そそその…、わ、わたし……ッ!!」
スカートを落ち着きなく握った後、ごくりと唾を飲み込んだ。そして意を決して顔を前に向けるとエリオ兄様に向かって大きく声を上げた。
「え、…っエリオにいさまが…す、すごく…っすす、すてきで!!」
──緊張するのっ!!
目を見開くエリオ兄様と視線が交わる。
ただ、それ以上は限界でわあッと声を上げてカルアの後ろに逃げこんだ。
素敵ってなに。もっとかっこいいとか綺麗とかあったでしょ。てか、そんなこと言わなくてもいいでしょ。私はいったいなにを言ってるんだ、とぐるぐる頭の中で自問自答しながら熟したりんごのような赤面を両手で隠しカルアの背中にピタリとくっついた。
「お嬢様よく頑張りましたね」
よしよしと頭を撫でてくるカルア。だがしかし、貴様が裏切ったことは忘れてないぞ。今回はたまたま遠くに居たからカルアの後ろに隠れただけだし。
う゛ぅ…っと唸りながらぐりぐりと額をカルアに擦り付けているとひょいっと身体が浮いた。
「ぁえ…?」
「ふふ、嬉しいなぁ。僕もシェリーが可愛くて緊張してるんだ」
抱き上げたのはエリオ兄様だった。
横抱きにされ、急激に近くなる距離にはくはくと空気を吐き出すことしか出来ない。
そして私に向けられるぐつぐつと砂糖を煮込んだ甘い瞳と蕩ける声。
「ぴゃっ」
「ね?心臓の音凄いでしょ?」
そっと頭をエリオ兄様の胸に押し付けられる。
自分の心臓と同じくらい速い鼓動だが思考が纏まらずそれに集中出来ない。理由は簡単、ふわりと香る優しい匂いと髪に触れる囁き声のせい。
そして──、
こてと首を傾げて微笑むその姿を最後に私の意識は限界となり暗闇へと落ちていくのだった。
【補足】
シェリルの住む大陸は地球と同じ季節の過ぎ去り方で歳の数え方も相違ありません。
エリオットはシェリルの五歳上でまだ誕生日が来てないので実際年齢は14歳です。
※ちなみに夏産まれ。




