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女性の少ない世界で自由気ままに生きます  作者: 戌ノ小枝
第1章 前世の目覚め編

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3/16

シェリルと婚約者

 私に婚約者が出来たのは今から三年前の七歳の頃。

 誕生日を迎えたその日にお母様から渡された一通の手紙と花束が始まり。それは、筆頭婚約者となったエリオット・オーブアからの初めてのプレゼントだった。


『これエリオからよ。彼はこれから貴方の婚約者になるから仲良くしなさいね』


 エリオどなた?

 こて、と首を傾げる私にウインクし頬への口付けを終えるとお母様は颯爽と公爵家から去っていった。お父様はなんとも言えない顔で爆弾発言を残していったお母様を見送り溜息を吐いている。

 突然の婚約話に知らない人の名前、疑問はあるが先ずは食事だとお父様に抱かれ席に着いた。

 そうして告げられたお父様からの話はこう。


 事の発端は、今までお父様が邪魔に邪魔してきた婚約話にとうとうお母様が痺れを切らしたことに始まる。

 曰く──、このまま貴方に任せておくとシェリーの縁談は一向に纏まらない。他の令嬢たちは産まれた時から何人も候補が居るのにうちの娘は一人も居ないでは無いか。この前なんてお茶会で他の奥方に娘さんに欠陥があるのかと遠回しに馬鹿にされた。など出るわ出るわ。

 最後の方はもうお母様のプライドの話だったが、ともかく七歳にもなって婚約者が居ないのは母親である私が許さない。筆頭は息子の中から出すと言い…。


 ──選ばれたのがエリオ兄様だった。


 お母様の恋人の一人との間に産まれた正真正銘私の異父兄。

 この世界は血が近縁でも魔力が混じっていることによって兄弟でも結婚することが出来る。その為半分血が繋がっているエリオ兄様との婚姻も何ら問題が無いのだ。


 顔を見たことが無い相手との婚約に思うところは無いかと言われれば無いと言い切れないが、まあ筆頭婚約者は親が決めると決まっているので素直に受け入れることはできた。ちなみに父は「シェリーが遂に婚約者を」と大号泣。


 初めての婚約者。それも筆頭だ。

 妻となる女性の最も近くに立つことが許された立場で、妻に関するあらゆる権限を持つことが法律で許されている。時には、妻でさえも筆頭の言葉に従わなければならず他の夫たちとの調整役を担う。妻の最大の守護者となり、名誉と権利を守るそれが筆頭なんだとか。


 親に決められる筆頭婚約者は、女側から唯一婚約破棄出来ない立ち位置に居る。基本、女はどんな男でも求めることが出来るし、男は強制では無いにしろそれを受け入れる義務がある。そして、手に入れた男を捨てるのも女の自由。だが筆頭はそれに該当しない。

 他所の筆頭に手を出すのはご法度だし、破棄するには親の同意が必要となり本人の我儘でどうこうすることなんて出来ない。筆頭というのは特別なのだ。


 そんな知らぬ彼からの手紙。


【柔らかな春光と共に御生誕の日に合わせ初めてお言葉を届けられることを光栄に思います。拙い手紙ではありますが、貴方様の心に少しでも灯が燈ればと願いたく──】


 七歳児に送る内容では無い難しいそれに思わず笑ってしまったのは、字の節々が微かに揺れているのを見つけたから。緊張して書いたのか震えている文字、温度を感じさせる言葉に(難しい言い回しはお父様に教えてもらった)心が暖かくなり本心から嬉しく思った。

 嬉しそうに手紙を読みながら貰った花束を抱える私にお父様も思うところがあったのか、エリオ兄様はその日正式にお父様にも認められ私の筆頭婚約者となった。


 七歳の女の子と十一歳の青年。

 初々しい婚約者たちはその日から文通をする間柄となる。


 初めは、次の日にせっせとお父様に見てもらいながら書いた私からのお礼の手紙が切っ掛けだろう。その後手紙を、時にはプレゼントを送り合い日々が過ぎ去った。夏が来て、秋が来て、冬が来てまた春が来て一年。この三年間交流が途絶えることは無かった。


 優しい人だと思う。いつも手紙で私を気遣ってくれるから。

 誠実な人だと思う。人伝で婚約者以外は無理だと必要最小限しか女性と交流しないと聞いたから。

 穏やかな人だと思う。選ぶ言葉の節々にそれがみえるから。

 愛情深い人だと思う。プレゼントから私のことを想って選んだと分かるから。


 一度も会ったことのない相手。それでも手紙や両親から聞く話で彼の人となりを知るには十分だった。


『なんでエリオ兄様と会えないの?』


 当然の疑問だろう。文通を始めたての頃、私は婚約者なのに会えないことを疑問に思いお父様にそれを聞いた。そして言われた言葉。

 エリオ兄様はどうやら筆頭の勉強と次期公爵としての教育で忙しくしているらしい。ある程度身につくまで私とは会わせないことをお爺様が決めた。そう、なぜかお父様では無くお爺様が。

 だから本人の進み具合にもよるが早ければ四年以内には会えるだろう、とのこと。それまでは接触禁止で手紙のみのやり取りのみ。


『シェリーに会う為にエリオットは凄く頑張ってるんだよ』

『すごく?』

『そうだよ。凄く凄く頑張ってる。だからシェリーもエリオットを応援してあげて』

『!! うん!私凄く凄く応援する!』


 そんな会話をお父様としたのが懐かしい。ちなみにそんな意地の悪いことをしたお爺様には半年間会いに行かなかった。教育どうこう言ってどうせエリオ兄様が、というより婚約者が気に喰わなかったのだろう。反省してほしい。


 堅苦しい手紙が次第に気安く甘さを含むようになり──、

 明日を誕生日に控えたこの日、私たちは顔を合わせることになった。


 エリオ兄様は想定された時間を大幅に短縮し、三年という月日でお爺様とお父様から合格点を捥ぎ取った。そうして、近くに迫っていた私の誕生日に合わせて今日初めて公爵家に来ることになったのだ。



◇◇◇◇


 赤茶の髪に私と同じ蜂蜜色を宿した瞳を持つイケオジ(私基準)が満面の笑みで手を振っている。そう、何を隠そうこの方こそ私を溺愛している公爵現当主のイクメンパパことアルバートだ。

 こんなハリウッドスター並みのイケメンなのに普通なのやっぱり可笑しいと思う。


「シェリー!!」

「お父様!」


 だだだっと駆け寄り両手を広げたお父様の腕に飛び込む。

 お父様が「可愛い私の天使ちゃんおはよう」とちゅっちゅっ頬にキスしてくるのが嬉し恥ずかしくてにまにましてしまう。やっぱり親から愛は良いものだからね。


「お父様お仕事は?」

「エリオットが来る日だからね。仕事なんて放って来たよ」


 しれっとした顔でそう言うお父様は王宮勤めの役職持ちだ。

 セドールの言うところ、陛下からの覚えがめでたい優秀な人材として重宝されているとか。

 そんなお父様はもちろん忙しく毎日大変そう。なのにお父様は少しでも私との時間を無理に作ってくれている。

 初めそれを知ったとき、そんなことするなら休んでくれと言ったのだが肝心のお父様が「シェリーに会えないなんて私は死んでしまう!!私の生き甲斐を奪わないで!!」と泣き縋って来たのでもう何も言わないことにした。お父様の愛は深く大きいのだ。


「シェリー今日も変わらず愛らしいね」

「ありがとう!お父様もかっこいいよ!」

「ふふ、この可愛い天使ちゃんはお父様を喜ばせるのが上手だね」

「きゃー」


 抱き上げられるとぐるぐるされ声を上げて笑う。ふわふわとドレスが揺れ、髪がなびく。

 楽しくてきゃっきゃっしていたが、それを見てセドールが即座に止めに入ってきた。


「旦那様その辺で。お嬢様の身支度が乱れてしまいます」

「あ!」

「おっと、ごめんごめん」


 そうだった。今日は普通の日じゃないんだからこんなことしてたら駄目だ。

 幸いにも少ししか乱れが無かったらしく、使用人たちに軽く整えてもらうことで直った。


「シェリーの今日の服はエリオットを意識したのかい?」

「はい!エリオ兄様の色を取り入れて見ました!その…合ってますか?」

「うん大丈夫。エリオットは、白と青だからね。きっとすぐに気づいて褒めてくれるよ」

「本当?私似合ってる?変じゃない?」

「変じゃ無いよ。それに可愛らしいシェリーに似合わない服なんてこの世に存在しないんだからそんな心配しなくとも不要だよ」


 お父様は恐らく私がどんなに似合わない服を着ても娘大好き補正によって「可愛い似合う」しか言わないんだろうな。そしてそれを本心で言うのだから恐ろしい。

 私を綺麗に着飾ることに煩いカルアが合格点を出したのだから変では無いのは確かで自信は持てるがそれでも他の視線からの意見も聞きたいのだ。まあ人選間違えたけど。

 というより、この公爵家の中に補正無し状態で私を見れる人はいるのだろうか…。


「さて、それじゃあエリオットを迎えに行こうか」

「!!」

「今日が初めての対面か。…楽しみかい?」

「はい、ちょっとだけ緊張してますけど…」

「エリオットは良い子だよ。彼もシェリーに会えるのをずっと楽しみにしてたからね」


 目を細め穏やかにそう言うお父様に笑みが零れる。

 知ってる、手紙にその想いが書いてあったから。それに私も同じ。

 

 ずっと会いたいと思ってたもん。

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