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女性の少ない世界で自由気ままに生きます  作者: 戌ノ小枝
第1章 前世の目覚め編

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シェリルと今世

 女性減少に伴う一妻多夫制及び女性保護に関する中央大陸各国共通制度。


 世に誕生する性別に偏りが見られたのは約八百年程前。その後、女性出生率は年々減っていき今では深刻な問題となるほど女性が不足している。

 そうして制定された制度によって、いつしか男たちは女性は慈しみ守護しなければならないという本能にも似た使命感を抱くようになったのだ。


 数少ない女性に選ばれる為、男は身なりを整え身体を鍛え知恵をつけた。その道すがら醜い者は目を向けられず、弱き者は排他され愚かなものは自滅していき残ったのは、女性の手を取り傅くことが許された優秀な遺伝子を持つ子孫たちのみ。それでも上には上がいる為に優劣を付けられ、男には厳しい世界となっている。



◇◇◇◇


 私、『シェリル・ルラッグ』には前世の記憶がある。


 それを思い出したのは五歳の頃。

 地球にある日本で生まれ育った私の二十三年間の記憶。最後は事故に遭ってあっけなく死んだそれまでの人生はスーッと当然のように私に入り、今と混ざり溶けていき私の思い出の一つとなった。それでも生きていた年数からか私の性格はもう完全に前世寄りだ。

 

 となれば、苦労するのが当然前とは違う常識の数々。

 魔法、貴族制度、女性問題。地球とは全く違うそれらに何度頭を抱えたくなったか。幼いながらも学びの姿勢をとった私を褒めて欲しい。


 そんな私が産まれた家はなんと、国一番の大貴族ルラッグ公爵家。しかも一人娘ということで貴族令嬢の中では一番身分の高い公爵令嬢なのだ。

 だからこそ令嬢たちの顔となるべく、私は常日頃からレディとしての淑女の嗜みをビシバシ教育されている…、なんてことは無くそれはもうお父様を初め使用人たちから甘やかされてお姫様の如く大切に守られていた。

 これが、普通の世界だったらビシバシどころかビッシンバッシン教育を施されていただろうがここは女性上位の女性主義の世界。

 一応貴族としての礼儀は叩き込まれるがそれのみ。なにせ女性の役割は次代を産むことのみだから。仕事や勉学、育児全ては夫がするものなのでやる必要が無いのだ。


 貴族令嬢として、夫もしくは愛人を多く持ち子を産むことこそ淑女の嗜み。淫靡な毎日を艶やかに過ごすことこそ美徳とされる。

 その点で言えば私のお母様は立派な淑女と言えるほどその役割を熟しているだろう。貴族令嬢にしては夫はお父様一人だけだが、数多くの恋人たちを虜にし子を産んでいるのだ。

 前の世界なら後ろ指指されているだろうそれらもこの世界では問題無い。寧ろ歓迎されている。


 そんな訳でさすがの私も「前世が一夫一妻だったから一人の愛する男性だけと愛を貫きたい!」なんて我儘を言うことは無い。ちゃんと貴族令嬢として役割は理解できているからね。

 でもどうせなら相手の人たちとは愛のある関係になりたいので、努力はするつもりである。ちなみに男は基本、イケメン(私基準)のスパダリが通常運転なのでよっぽどのことが無ければ好きになれると思う。だって、顔も性格も良いんだよ?普通に惚れちゃうよね!


「…うんイケる」


 ふふん、と鏡の前を陣取りジッとその姿を目に焼き付けるよう見た。私自身中々に恵まれた容姿をしていると自負している。

 なだらかなウェーブを帯びた艶やかに輝く桃白金色の髪に引き込まれそうな甘やかな蜂蜜色の瞳。一目で印象に残るほど左右のバランスが整った可愛らしい顔立ちをしており、幼いながらも完成された美を予感させる存在感。そして、柔らかな春風を形取った暖かな雰囲気を持つその姿は客観的に見てもかなり良い容姿をしているのではないかと思う。

 大人にはまだ程遠いだろう。だけどこの幼子から醸し出される男を魅了する神秘がアンバランスさを感じさせ目を引くのは間違いない。


 やっぱり容姿も身分も良く産まれたのならそれを楽しまないとね。


 これが、この五年で私が導き出した答え。

 女性減少という最大の問題も愛する人がたくさん増えるだけ幸せだと考えれば良いものに思える。うじうじ悩んでてもしょうがない。なるようになるさ精神で今世を楽しむ、それが一番だと思うのだ。


「…お嬢様何をなさってるんですか?」

「うぇ!?カルアいつの間に!?」

「今ですよ。ノックしても返事がありませんでしたので…」


 戸惑うような声を掛けられぴょんっと驚きで飛び跳ねる。一人しか居ないと思っていたのにどうやらいつの間にかカルアが部屋に入ってきていたようだ。


 二十歳ほどの年齢か。

 さらさら茶髪にキリッとした茶瞳をした整った顔立ちの男の名前はカルア。

 若いながら優秀な公爵家の使用人で私の専属従者兼護衛のしっかりお兄さんである。

 男溢れるこの世界で無ければ多くの女性が離さないであろう容姿も、残念ながらここでは普通と言うのだからびっくりだ。


「それにしても今日は起きるのがお早いですね」

「…そうかな?いつもと変わらないよ」


 落ち着きなく髪を弄り目を逸らした私にカルアは優しい笑顔を浮かべながら「エリオット様にお会いできるの楽しみですね」とそっと呟いてきた。その言葉が耳に入った瞬間、ドクンっと心臓を高鳴る。図星過ぎて恥ずかしい。全部バレてるみたい。

 顔に熱が溜まってくのを髪で隠しながらうるっとカルアを見上げた。

 

「だってずっと会いたかったんだもん」

「──っう゛」


 胸を抑え口元を手で覆い隠すカルア。「お嬢様が今日も最高に可愛い」とぶつぶつ呟くそれを無視してほう、と息を吐き両手を上にぐぐーっと上げて背伸びをした。そして近くに置かれた鏡を見て目を細める。


 窓から差し込む清々しい光が私の髪を輝かせてなんだか自分が眩しいのだ。


 私の容姿は私に見慣れているカルアですら攻撃力が高い。とは言ってもぶっちゃけ公爵家のメンツはシェリルラブ♡過ぎて参考にならないのもまた事実。

 客観的に見た限りかなり自信があるのだが、お母様以外の別の女性を見たことがない為平均が分からないのだ。こんなに自画自賛しといて普通よりだったらどうしよう、なんて思うがお世辞を言わない正直なお母様曰く「年々容姿に磨きが掛かってきてるわねぇ。貴方の年のデビュタント凄いことになりそう」と言うことらしいのでまあまあ自己評価は間違って無いのだと思いたい。


「お嬢様おはようございます」


 こんこんと扉の音が鳴り入室許可を出す。部屋に来たのは公爵家家令である老紳士、セドールでお爺様が若かりし頃から此処に勤めているベテランだ。


「おぉ、起きられてましたか。本日はなんともお早いお目覚めで」

「もー、カルアと同じこと言ってる。ちょっといつもより早いだけなのに」

「そうですか?私の知る限りお嬢様は普段寝汚いと思っておりましたが」


 容赦の無い一言が心臓に来る。ただ本当のことなので何も言えず目を逸らすしかない。

 

「お嬢様は寝汚くても可愛らしいですよ!」


 そんなフォローいらない…。

 カルアをスルーし、揶揄ってくるセドールと一緒に浴室に向かい身支度を行った。いつもは朝風呂なんてしないが今日は特別なので、薔薇の香りのする入浴剤と共に優雅な極上入浴を楽しむのだ。


 私も慣れたものだよなぁ。

 恥ずかしさは未だ消えないけど、無駄な抵抗をすることは無くなった。


 女性というのは一人で入浴をしない。夫や恋人、婚約者が居る場合は彼らにもしくは使用人に、男性が付き添い女の身体の隅々まで磨くのは男の嗜みとして当然のこと。

 記憶を思い出したとき私は見た目五歳の精神年齢成人済みとあって、恥ずかしさがあり一人で入ろうとするもそれは駄目だと全拒否された記憶がある。とは言っても女性の使用人も居ないためイケメンたちに隅々まで綺麗綺麗してもらうのは流石に嫌。ということで、入浴に関する全般はセドールに一任されることに決まった。他の使用人からブーイングがきたがそんなの知らない。無視だ無視。


「力加減どうですかな?」

「うぅん…きもちぃ…」


 頭のマッサージされながらのシャンプー凄く良い。

 極楽過ぎて天国が見える気がする。


「にしてもこのシャンプー素晴らしいですな。こんな品を考えつくその神眼、お嬢様は天より舞い降りし遣いと言っても過言ありません」


 過言あるよ。だってそれ前世の知識だもん。

 気持ちよさにほう、と息を吐きながら考える。

 この世界は女性のためと男たちの長年にわたる涙苦しい努力により、発展している。ただ、前世を知る私からすればちょっと不便。痒い所に手が届かない、という具合で改善出来る部分が多くあるのだ。


 髪洗薬もそうだ。

 この世界で使われている髪を洗うそれは動物の油を使ったもので魔法による加工により洗浄力がかなりある。ただしあり過ぎて、必要以上に汚れを落としてしまい人によっては髪が痛む人が多く居る。

 私も同様で、それが合わず急遽お父様に拙い説明で新たに植物を使った髪洗薬、シャンプーとトリートメントを作り出してもらった。そのおかげで私の髪は絹のような滑らかな手触りで磨かれたような艶髪となっている。それに加え、ふんわりと花の香りもして完璧。

 ついでにと作り出した身洗薬、ボディソープも上々。繊細な私の肌はそれのおかげで柔らかくしっとりしている。

 やはりこういうのは幼いときから気を遣わないと大人になって後悔するもの。今からでもケアをしていかないといけない。せっかくこんな可愛く産まれたんだから素材をばっちし活かさないと。というわけで今後、私にも必要になってくるだろう化粧水などもぜひ作っていきたいと思っていたりもしてる。


「びよーでてんかとういつ…」

「はい?なにかおっしゃいまし──ってお嬢様!寝てはなりませんよ!」

「ぁい…」


 むにゃむにゃ、心地の良いマッサージを受けながら天国浸るのだった。

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