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女性の少ない世界で自由気ままに生きます  作者: 戌ノ小枝
第1章 前世の目覚め編

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11/16

シェリルと楽しいお見合い

新年あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします!

 銀と青の糸で織られたドレスに柔らかな桃白金色(ピンクゴールド)の髪が混ざり合って、不思議な色彩を生んでいる。光を受けるたびに、淡い桃色から白金へと変化して、見るものを飽きさせない。空気を含んだようにふわりと広がる装いは、小さな身体をそっと包み込み安堵を与える。裾には白く細かなレースが重なり、小さな花の飾りが星のように散りばめられている。子どもだけが許される清らかと華やかさ。

 贔屓目無しに、まるで物語から飛び出してきた儚く美しい精霊のようだった。


「うわあ……すごぉい……」


 鏡の前でくるくるとしながら自分の姿を確かめる。ドレスもそうだが髪の毛が綺麗に編み込まれて、お花が咲いたように飾られている。

 白く瑞々しいふっくらとした頬が淡い紅色に色付き、目元がラメで輝いている。整えられた眉に、赤い林檎の唇。まだ子供だからと最小限の化粧だがそれでも、普段と全然違う。


 朝から兄様に起こされて、なんだなんだと寝ぼけた頭で準備されること数刻。出来上がった姿はそれはもうとんでない可憐で美しい少女だった。

 エリオ兄様やセドール達がやりきった、というように満足気に後ろで頷いている。


「今日は非公式だけど、リリアーネが初めて邸にお客様を招く日だからね。それ相応の装いで迎えないと」

「兄様の従兄弟で知り合いなのに?」

「そう、僕の知り合いでもね。……それに今回はお見合いでもあるから、流石に普段着とはいかないだろう?」


 た、確かに…。

 まだ十歳だからと気にもしていなかったけど───この世界で女性のおめかしは、年齢問わず推奨されるもの。特にお見合いやパーティー、なんらかの式といった特別な日は、気合いを入れるのが普通とされているのだ。

 吞気に寝こけていた私は、淑女として失格も失格だろう。兄様の為に頑張ると決めたばかりだというのに……無念。


「それにしても……凄く綺麗だシェリー!こんなにも美しい君を他の男に見せないといけないなんて……!!ベルシューレの目を今から抉ってこうかな?」

「ダメですよ?!」

「そうですぞエリオット様。ここは私にお任せを、バレないように秘密裏に───……」

「セドール!?」


 エリオ兄様の腕の中でギョッと目を引ん剝く。冗談だと笑っているが、生まれた時から一緒にいる私には分かる。セドールの目、本気だった……!!


「シェリーって化粧をすると少しだけ大人びて見えるね。なんだかいつもとは違って、ドキドキしちゃうな」


 蕩けるような瞳でこちらを見てくるエリオ兄様に、私の胸が破裂寸前にまでなる。彼も普段とは違った装いをしていて、私ほどでは無いにしろいつもよりも装飾品が多く、上品な衣を身に纏っている。髪も片側を掻き上げて撫でつけているし、その色気で私の全身が焼け焦げそうだ。


「───そんなに緊張しなくとも大丈夫さ。ベルシューレなら適当にしてても気にしないだろうし」


 お客様を迎えるために、庭にセットされた机と椅子へと足を運びそこで待つ。

 これが通常のお見合い形式。父もしくは母のどちらかが婚約者候補を迎え入れて、女性の元へと案内。そこで互いに自己紹介をして───というのが基本、今は父と婚約者候補さんが来るのを、私はエリオ兄様と待っているのだ。


「私、ちゃんと挨拶できるでしょうか……」


 緊張で顔が真っ青になっている私を見て、エリオ兄様が苦笑いをした。そしてそっと背を撫でて落ち着かせようと、茶菓子を口元に運んできてくれる。が、兄様…とても食べる気になりません。今食べたら吐きます……。


 一度気絶したという前科があるため、今回はそんな失態しないようにしたい。ていうかしてはいけないだろう。エリオ兄様は事前に交流があったからまだいいとして───いやよくは無いだろうけど。

 ともかく、いくら兄様の知り合いでも対面早々気絶なんて出来ない…!折角時間を作って態々来てくれたのだ。婚約どうこうは置いておいて、失礼の無いように満足して帰っていただけるよう、おもてなしをしなければ……!!


「わ、私頑張ります──っ!最後まで立って見せます!!」

「うん…?無理しないようにね?」


 困惑してるエリオ兄様を横目に、私は瞳を燃やして気合いを入れる。目指せ円満解散!目指せNo気絶!!



◇◇◇◇


 ベルシューレ・ゲルヴァイス。

 伯爵家の令息で、特殊属性持ちの有望株。勉学も出来、剣の腕もあるとして王立学園卒業後、騎士団所属が決まっているエリオ兄様の従兄弟さん。

 それだけ聞くと、なんだか優秀で凄そうな人のように思えるが───。


「へえ!じゃあシェリちゃんは外出したこと無いんだ?まあ女の子だからそれはそっかぁ~。世の中物騒だしな~。──あ、これ美味っ。公爵家ってマジでいいもん食ってんね。俺の人生で食べた美味いもんリスト断トツでトップだよ」

「それは…よかったです……」


 腰まで伸ばしたサラっとした夜明け前の薔薇を思わせる濃いローズピンクの髪に、森の奥を閉じ込めたような翡翠眼。伏せられた瞳はまつ毛がパサパサで一見、女性にも見えるその容姿。

 吸引器みたく、次から次へと口の中に食べ物を放り込み机の上を真っ平にするその行動は、下品に見られても仕方ないのに──醸し出す陽気な雰囲気、一輪の高貴な花のような美貌と洗練された所作からなんだか目が惹きつけられて、惚れ惚れとしてしまう。


「……ベルシューレ、君ちょっとはっちゃけ過ぎてないかい?」

「ふぉふぇ?ふぉうか?…んぐ───やだなぁ~、おまえが言ったんだろ?シェリちゃんは堅苦しいのが苦手だから、いつも通りで良いって。だからまんまの俺を見せてんじゃん。ねえ?シェリちゃん?」

「うん?殺してやろうか?」


 パチンとそれはもう見事にウインクされ、あまりの顔の良さにほんのりと頬を染めてしまう。が、逆にエリオ兄様は怒り心頭なご様子で……青筋を立てて、カップの持ち手にヒビを入れている。


『お初にお目にかかりますルラッグ嬢、ゲルヴァイス伯爵家のベルシューレと申します。この度は公爵家の至宝たる貴女様にお目通りいただける機会をくださり、心より光栄でございます。本日はこのお時間が有意義なものになるよう、精一杯努めますのでよろしくお願いいたします』


 数十分前に父と共にやってきた、美しいその人は穏やかな笑みを浮かべてそう私に挨拶をしてきた。エリオ兄様とは違った系統の美貌をもった彼に噛み噛みながらも挨拶をし、手への口付けを受け入れたときはさながら、物語のお姫様にでもなったようで凄くドキドキしたのだ。

 父が、若い子達で楽しんでと去っていき、三人でいざ席につくと───。


『……んじゃあ今日はよろしくね!俺のことはベルシュでいいよ!あ、俺はシェリちゃんって呼ぶから!いいよね?そっちの方が仲深まりそうだもんね!そうしよ!』


 すっごい軽かった。例えるなら、前世でいう大学の目立つグループにいるような陽キャ。最初の高潔さ溢れる姿は瞬く間に消え去り、残ったのは調子の良い軽薄さのみ。あのセドールもお客様の前だというのに、四度見ぐらいしてたぐらいの変わりっぷりだった。

 なるほど、見ようによっては確かに女性の扱いが上手そう。何というか……スルッと心の中に入って来て存在を刻み付けていくんだよね。


 そんな彼を見て、エリオ兄様はもう満面の笑み。隣から感じる威圧感に恐れ戦く。


「僕は、シェリーが気負わないように堅いのは無しでって言ったんだよ。誰も初対面早々、気安くシェリちゃん呼びをしろとも言ってないし、馬鹿みたいに食べろとも言ってないし、何より……馴れ馴れしいんじゃないかな?懇意でない女性に対して、今おまえがしてるのは紳士の嗜みとしてどうなんだい?常識から逸脱した行いはさすがに看過できない」

「あはは、さすがに他の女性の前じゃちょっとは偽るさ。でも、今回はシェリちゃんだからね。未来の奥さん相手に気取っても仕方ないでしょ?さっきも言ったけど、ありのままを見せないと」

「ふふ、()()()()()()だって?僕の聞き間違いかな?おまえはまだ土俵にすら立てていないのに、さすがに図々しいんじゃないかな?僕がシェリーにおまえを紹介したのは、あくまでも候補だ。僕は今まさに推薦したことを後悔してるし、今後シェリーと関わらせるつもりは無いと決意した所だよ」

「へぇ?でもさ、いくら筆頭だからってシェリちゃんの婚約話に首を突っ込むのは、そっちの方が紳士の嗜みとしてどうなの?エリオットが何と言おうが、決めるのはシェリちゃん自身だ……そうでしょ?」


 う、うわああああ!!

 なにこのバチバチ!?二人って従兄弟じゃないの!?なんでこんなに仲悪いの!?

 エリオ兄様の血管がブチギレそうだ。あわあわしながら、カルアに視線で助けを求めるが目を逸らされる。酷い…!助けてくれてもいいじゃん!


 ここは私が二人を止めなければ…!!

 

「あああああっああの……ッ!!!!」


 情けない声が響くと共に、ピタリと二人の口が止まる。四つの宝石が私を見ていて、ぎゅうっと胸元で手を握った。そして……。


「っけんかはダメでしゅ───!!!!!」


 ダメでしゅ──ダメでしゅ──でしゅ──。

 う、うわああん!!噛んだ!声を張り上げた結果、庭中に私のマヌケが知れ渡ってしまった…!


 顔を下に向けて、耳まで真っ赤に染める。恥ずかしさからか、視界が潤んでくる。ぷくっと唇を噛み締めて、ぷるぷると身体を震わした。


「っぶは…!んはははっ、ふっ……ん゛んっごめんごめん、俺たちいつもこんな感じで会話しててさ、喧嘩とかじゃないんだよ」

「ベルシューレ笑うな!!……シェリーごめんね!気遣いが足りてなかった、あぁ泣かないで……!君の可愛らしい瞳が溶けてしまうよ…!」

「……お前なんか性格違うよね?変なものでも食べた?」


 なんだと!?ま、紛らわしい!!

 二人によしよし慰められるもそんな泣いてない。恥ずかしいだけだ。

 ムッと睨みつけるようにエリオ兄様を見ると、苦笑いをしてこちらを見ていた。まるで融通が効かない幼子を見るような眼差しに、頬を膨らませる。


「喧嘩してるのかと思いました……」

「大丈夫さ、俺たちが喧嘩なんてしたらこの辺一帯吹き飛んでるからね」


 ははっと軽快に笑うベルシュ様に今度はドン引きする。それってもはや喧嘩では無く、一種の災害では……?冗談かと思いエリオ兄様を見てみるも、彼は肯定するように頷いていて啞然としてしまう。この二人、もしや混ぜたら危険なのではないだろうか───?


「まあでも、婚約者の話は考え直すつもりなのは本当だよ……シェリーがベルシューレを望むのなら別だけど」

「ええ!?なんでさ!?それは酷いだろ!!」

「酷くないだろ。おまえ、今日ここに来てから碌でも無い姿しか見せてないじゃ無いか。シェリーにそんな男近づけさせられないよ」

「はあ?!なんだそれ!親バカか!?娘を溺愛する父親かよ!!」

「失礼な、立派な筆頭婚約者だよ」


 ギャアギャア言い合う二人に目をぱちくりさせる。

 なんだか意外だった。私の知るエリオ兄様はいつも冷静で、穏やかで余裕がある姿なのだ。今まで声を荒げるなんてことは絶対にしなかった。それなのに、ベルシュ様の前だと年相応にはしゃいでいるように見えて……。


「───だから僕は……シェリー?どうかした?」

「エリオ兄様は…」

「うん?」


 ポツリと呟いた言葉は自分が思っている以上に弱々しく、情けなかった。不思議そうに顔を合わせる二人を横目に言葉を続ける。


「……兄様は私といて楽しいですか?その………きゅ、窮屈じゃない?」

「え?」


 だって落ち込む。私と話すときと全然違うんだもん……。

 私の前だと常に気遣って、自身を偽ってたのだろうか…。

 

 エリオ兄様が信じられないと驚いたように声を上げる。


「まさか!そんな訳ないだろう?いったいどうしてそんな勘違いを……?」

「だって……ベルシュ様と喋ってるときと私と居るときとじゃ全然違うもん…」


 そう言葉にして、思わず顔を真っ赤にしてしまった。これじゃあ私がベルシュ様に嫉妬してるみたい───!!

 二人を見てみると、エリオ兄様はきょとんと首を傾げていて、ベルシュ様は口元を抑えて笑っている。


「んふふ、シェリちゃんってマジで面白いね。……安心しなよ、エリオットにとってシェリちゃんはかけがえの無い大事な存在だからね。俺と比べるまでも無い。君から手紙が来るだけで、その日一日絶好調だったぐらいなんだから……それに、シェリちゃんと正式に顔を会わせてからも、俺に毎日のように君がどれだけ可愛くていい子なのか、そりゃあもうしつこいくらい自慢の手紙がくるし」

「えっ」

「なんでベルシューレが答えるんだ…って言いたいところだけど──彼の言う通り、僕はシェリーに関してそんなこと思ったことが無いよ……僕はシェリーが息をしているだけで、嬉しいし幸福なんだよ。君が笑ってくれるだけで、僕の心も晴れやかになる。窮屈なんて考えたことも無い……君といるだけで楽しいし、この時間がもっと続けばいいと思ってる…それにシェリーは他にない発想をするから、実際に一緒にいて飽きないし、君との時間はいつも有意義で充分楽しませてもらってるよ」


 ベルシュ様の手紙どうこうは一旦置いておいて……なんだか、筋違いな嫉妬をして恋人を困らせるメンヘラ女みたいなムーブをしてしまい、申し訳無くなる。素直に謝るが、聖人エリオットは気にするなと頭を撫でてくるばかりで…。

 そして、もちろんベルシュ様にも謝るが彼も気にするな、と手を軽く振りついでとばかりに話を逸らすように話題を変えてくれる。さっきからさり気ない優しさが凄いベルシュ様。こういった部分も女性の心を掴む要因にでもなるのだろうか。

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