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女性の少ない世界で自由気ままに生きます  作者: 戌ノ小枝
第1章 前世の目覚め編

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シェリルと二人目

「やだ!!」

「お嬢様!それでは立派な淑女とは言えませんぞ!」

「淑女じゃなくてもいいもん!!やだったらやだ!!」

「お嬢様!!」


 譲れぬ戦いがここにはあった。

 ソファの後ろに隠れてガルガルとセドールを威嚇する私。それを困った顔で見てくる使用人一同。セドールは私を捕えようと構えている。


「うーん、困ったなぁ。そんなにも僕のことが嫌いかい?」

「そ、それは違います!!嫌いとかじゃなくて…っ!!」


 しゅんっと悲し気な顔を見せたエリオ兄様に否定の言葉を言う。だけど、本心ではそれほど悲しんでいないだろう。だって、目の奥が面白そうに笑ってる。


「じゃあいいよね?」

「──っは、恥ずかしいからやだああ!!」


 顔を真っ赤にさせてそう呻く私を見て、吹き出し笑うエリオ兄様。


 どうしてこんなことになったのか。

 今日は十歳の誕生日。皆に祝ってもらい、お母様もハヴァ義父様も帰っていった後に発言したお父様の言葉が原因だった。


『そうだ!シェリーも十歳になったし、これから家にはエリオットが居るんだから婚約者の役目は彼にやってもらおうか。今日はもう寝るだけだから…、うん。エリオット、シェリーの入浴をお願いしてもいいかい?』

『うぇっ!?』

『分かりました。それでは、本日よりシェリーに関することは僕が対応を』

『うぇっ!?』

『うん。よろしく頼むよ。二人とも仲良くね』

『うぇっ!?』

『はい』


 そう、全てはお父様が悪い!いや私だって分かってるよ?この女性が少ない一妻多夫制で、例え使用人であっても自分の婚約者、もしくは妻に他の男が触れるのは嫌だという気持ちは理解できる。婚約者が傍に居る以上、そのお世話は任すべきだというのも分かるよ!?けども…!!無理だよ!!エリオ兄様と一緒に入浴!?つまりセドールにいつもされてるみたいに隅々まで洗われるってことでしょ!?むりむりむり!!


「照れてるシェリーも可愛いんだけどね…、ちょっと君は接触に免疫が無さ過ぎるから……お父君も心配してるんだよ?」

「大丈夫です!!いずれ慣れるので…!!」

「そうかなぁ?僕はそう思わないけど…。まあともかく……筆頭として僕もシェリーに協力するよ。慣れるにしても訓練が必要だろう?このままだったら口付けは勿論、それ以上だって無理そうだからね」


 それ以上…!?兄様なに仰ってるの!?私まだ十歳よ!?


 どうやら勝敗は向こうに決したらしい…。

 最後ににこりと微笑んだエリオ兄様の無言の圧に私はなにも言うことが出来ず───ガクンっと項垂れたのだった。



◇◇◇◇


「お話…ですか?」

「うん、中庭に行こうか。今日は天気も良いし、茶菓子を用意してもらったからそこでゆっくり話そう」

「はい…?」


 スッと背に手を回され流れるように中庭へエスコートされる。

 誕生日から数週間。兄様も学園入学とあって忙しそうにしているなか、久しぶりの二人の時間だった。

 

 うん?入浴の件?そんなの決まってるでしょ?もちろんエリオ兄様の裸体を見た直後に意識飛ばしましたけど?エリオ兄様脱いだらそれはもう凄いの。ムキムキとかじゃなくて、程よく鍛えられててバランスのとれた筋肉で…。こんな超美形の顔にあの身体って……もう破壊力が凄まじかった。今もこうして腰にある手、密着している身体全てが私とは違って硬くて大きくて──。


「シェリー?」

「ひゃい!!」

「ふふ、顔真っ赤だよ?緊張してる?」

「…ちょっとだけ」

「そっかぁ、道のりは長そうだね」


 鼻歌でも歌いそうなぐらい機嫌が良いエリオ兄様に誘導され、中庭に足を踏み入れた。未だにちょっとした接触しか出来なくて不満だろうに、それを悟らせないとは……もしかして兄様は聖人なのだろうか。うぅ、婚約者として私失格過ぎる…。もっと頑張ろう…。

 実はお風呂で気絶したあの日、私には入浴が早急すぎると判断が下され、地道に接触を増やしていく作戦に切り替わったのだとか。その為日々の積み重ねで触れ合いに慣れていくのが、今の私の課題。とは言っても兄様は現在かなり忙しい為そんなに時間が取れないのだが。


「──兄様!私もっと頑張るね!」

「うん…?」


 男が傅くのは当たり前。男は女の為に生きてこそ、触れさせてもらえることを泣いて感謝するべき。そんな世界で、女性が男の接触に一々動揺したり照れたりして見せるシェリーの姿はなんとも新鮮で、まだ幼いというのに男の欲を煽り、刺激する。

 今この瞬間もエリオットが笑顔の裏で愛する婚約者のあられもない姿を想像し、欲望のまま貪り尽くす衝動を抑えているなんてシェリーは全く知らない。そしてこれから先も知る術は無いだろう。エリオットはシェリーの信頼を勝ち取る為に完璧な人畜無害の清純男に擬態しているので。

 

「わっ!見てください兄様!ふわふわパンケーキですよ!」

「へぇ、面白い見た目だね?初めて見たな…」

「これ凄く美味しいんですよ!スフレパンケーキって言って普通のと食感が全然違って…」


 きゃあっと目を輝かせて久しぶりのパンケーキに釘付けになる。恭しく配膳する使用人に礼を言いながらも視線はパンケーキ一択。くすくす頭上で笑う声が聞こえるが気にならない。


 最近教えたスフレパンケーキの作り方。料理人たちは直ぐにものにして見せ、こうして作ってくれるようになった。あと少し経てば領地にあるカフェを区切りに、王国中で流行るのでは無いかと思われる。だって、前世でも女性に凄い人気だったからね。この世界は女性中心なので女性の注目を集めるほど男も関心を持つのだ。流行を知ってこそのモテ男ってやつだね。


「ふぁ~!!いい匂い~!!」

「これって…、うん、ラズベリーソースだ。シェリーの好きなやつだね」


 淡い焼き色の重厚なパンケーキが三段重なっている。振動が少し加わっただけで震えるほど柔らかく、食べると口の中で溶けるほど軽いのだ。見た目も美しく、上にかけられたクリームの白さと深紅の果肉が映えるラズベリーソースが際立ち食欲を誘う。全ての香りが合わさり、私の鼻を刺激してくる。ああ早く食べたい!!


「シェリーはこれに釘付けなようだし…、話は食べ終わってからにしようか」

「そうしましょう!温かいうちに美味しくいただくべきです!」

「ふふ、そうだね。じゃあいただこうか」


 エリオ兄様がこちらを見て笑っている。食い意地張ってる奴と思われただろうか…、いやでもこんな美味しそうなパンケーキ目の前にして、すまし顔していることなんて私には出来ないよ!


「いただきます!」


 では早速。ナイフとフォークで丁寧に切り分けていく。スッと刃が入り、中からふわりとバターの甘い香りと湯気が沸き立つ。ごくりと唾を飲み込みながら一口サイズをフォークに刺してゆっくりと口に含んだ。


 お、美味しい──ッ!!


 バターとクリームの甘さ、そしてラズベリーの酸味が絶妙にマッチしている。料理長また腕を上げたね!もうこの美味しさの虜になったよ!後二皿…、いや五皿行ける!!


 舌の上で溶けるように無くなり、甘さが追撃してくる。はふはふと熱が口いっぱいに広がるのも美味しさを引き立て、更なる食欲を駆り立てる。見た目とは違う軽さと優しさ、だけど確かな満足感!これぞまさに至福の一時!パンケーキ最高!


「おいひぃ~!!」

「うん。凄く美味しそう…」


 隣からの熱烈な視線を気にせず、ぱくぱくと食べ進めていく。

 時折、兄様に「クリーム付いてるよ」とぺろり舐められるなんて事件もあったが、無事完食。


「はふ、お腹いっぱい…」

「ぷっくりしてる…可愛い…」


 いつの間にか食べ終わっていたエリオ兄様に口元を優しく拭われながら、ルンルン気分で膝の上に抱きかかえられる。そのまま私の胃の辺りを手で優しくさすさすしながら兄様が少しだけ残ったカップに視線を送る。


「淹れなおしてもらえる?」

「承知いたしました」


 ちゃぽちゃぽと新しいカップに注がれる柑橘系の香りの紅茶。これまた私のお気に入りのもので───どうやらエリオ兄様に好みが完全把握されているらしく、つい笑みが零れた。


「さて…それじゃあ本題に入ろうか」

「あ」


 そう言えば何か話があるってことで来たんだった。パンケーキ食べる為じゃ無かったよ。兄様が「忘れてたでしょ?」と髪に口付けしてくるのに何も言えず、誤魔化すように紅茶を口にした。うん美味しい。


「話っていうのは二人目の婚約者についてなんだ」

「っごほ!」


 柔らかな声色で告げられた想像もしていなかった言葉に咽せた。

 うん?今婚約者って言った?言ったよね?

 

「大丈夫かい?ほら、一気に飲んだらダメでしょう?」


 兄様が仕方無さそうに「全く、シェリーはおっちょこちょいなんだから」と背中を摩ってちょんちょんっと口を拭いてくれるが違う。兄様…私は兄様の発言に驚いて咽たのですよ。

 

「シェリーと僕が婚約してもう三年。それこそまだ一週間前程に顔を会わせたばかりだけど──そんな事情、他の者からしたら関係無いからね」

「?」


 いったい何の話だ?

 きょとんとする私の頬に静かに口付けした兄様が微笑む。


「君は公爵令嬢という立場だからねぇ。シェリーと婚約…そうでなければ一度でもお目通しをーっていう輩がそれはもう多いんだよ。……それに筆頭だけしかいないってのも問題でね。僕が君を独占しているのではって勘ぐっている貴族も要る。それはまあ否定しないんだけど…でも筆頭としての役目不十分を理由に、シェリーの筆頭婚約者という立場を僕から掠め取ろうとする奴らが多くてね」

「えぇ!?なんですかそれ!?」


 ぎょっとするも当本人であるエリオ兄様の表情は少しも変わらない。ただ事実のみを淡々と語っている。


「まあこの件はお母様はもちろん、ルラッグ公爵家一同が反対してるからなんともないんだけど…。ともかく早急に次の婚約者をとシェリーのお父様とも話し合ってたんだ」

「うぅ…。ごめんなさい、私のせいで…」

「!! やめてよシェリー、君が謝ることじゃないよ。僕がもっと早くにお義父様たちから合格点をもらえれば良かった話なんだ……三年も愛しい君を待たせてしまった不甲斐ない僕を許しておくれ…」

「エリオ兄様…」


 それは…さすがに兄様は悪く無いと思いますよ。寧ろ、最短四年とお父様が言っていたものを一年縮めるだけでかなり凄いですよ。お父様なんてちょっと引いてたんですから。


「ともかくシェリーには出来るだけ早く、新しい婚約者を選んでもらいたいんだ」

「…新しい婚約者」

「お義父様に聞いたけど釣書の者達にはあまり興味が持てないんだって?」

「ぁー…」


 興味が持てないというか…。前世の一般庶民からすればお見合い結婚なんてまるで想像できないのだ。どの人も家柄も素行も容姿も十分だと言われたけど……いまいちよく分からない。気に入らなかったら婚約解消して他のにすればいいって言われても、私はそんな軽い気持ちで縁を結びたくない。婚約するなら最後まで人生を共にしたいと思っている。

 貴族社会は、女性に選ばれる=婚約が常識なので、釣書の中から選択したらもうほぼ婚約者決定なのだ。これで相手にお断りをしたら向こうの責務になるし、女性の扱いがなっていないなんて後ろ指を指される。だから性格が会わなかった場合かなり悲惨になると思い、それもあってどうしても選べなかった。この世界は本当に男の人に厳しすぎるからね…。


「なるほどね…」


 使用人を下がらせて自分の気持ちを隠すことなくエリオ兄様に告げる。真剣に聞き頷いてくれる兄様の胸にそっと凭れ掛かった。


「シェリーは優しいからね。うん、それじゃあ一つ提案があるんだけど」

「提案?」


 ゆったりと髪を撫でられ甘く微笑まれる。そして、その綺麗な碧の瞳を見て首を傾げた。


「僕の従兄弟はどうかなって思ってね。お義父様に話を聞いたとき、実は一番真っ先に彼が思い浮かんだんだ」

「兄様の従兄弟…?」

「そう、父上の弟…叔父上の息子なんだ。今は色々事情があって家を出ているけど信頼できる奴だよ」

「え、一人暮らしってこと?何歳の人なの?」

「今は確か…、十六だったかな?秋に十七になるからシェリーの七つ上ってことだね。それと学園があるときは寮生活で、今は新学期の休みだから僕たちの家に居候してる」


 へぇ、何か訳ありっぽいなぁ。それと七つ上…。年齢だけ見れば結構年上に思えるけどエリオ兄様も五歳上だし、まあ別に私は気にしないかなぁ。なんだったら前世合わせたら私の方が上だし。


「女性に優しい奴でね、誘いを掛けられたら絶対に断らないんだ。顔も良いし性格も申し分ないっていろんな令嬢から正式な婚約者に、と何度か誘いを掛けられてよくトラブルになってるんだけど……。本人からしたら貴族の男として当たり前の対応をしただけで、彼女たちの誰かのものになるのは、見当違いの話でしか無いんだろうね~………というより、あれこれ応じるあいつが変なんだけど。いくら女性第一と言っても流石に断りは許されてるんだから。でないと、女性からの強制強姦になっちゃうし」


 すっごい言いたい放題だけど兄様その人私に薦めてるんだよね…?今の所、凄い女遊びする人っていう認識しかしてないんだけど…。


「僕はね…シェリーを心から慕い守れる男だけを君の婚約者にと考えてるんだ。あいつは確かにどんな女性にも変わらない一定した態度を取ってるけど……その実、内側に入れた人間には義理堅くて誠実で異様に甘いんだよ。だから一人を定めたら、その女性を泣かせる真似は絶対にしないって僕が保証する」


 エリオ兄様…その従兄弟さんのことかなり信頼してるんだなぁ……。


「最初は顔合わせで、大丈夫そうなら正式に婚約者として決定する……だけどシェリーに会っても彼の態度が変わらなければ、僕の権限でこの話は無かったことにしてもらうよ。僕は他の女に現を抜かす奴をシェリーの婚約者にするつもりはないからね。とは言っても……最終的に決めるのはシェリーだ。好みだったら傍に置けばいいし、気に入らなければ切り捨てていいよ。君を射止められなかったあいつが悪いんだから」


 信頼してるからこそか、従兄弟に対して中々に辛辣なエリオ兄様を見上げる。その顔は輝かんばかりの笑顔で一点の曇りも感じさせない。うーん…かなり癖が強そうな人だけど…。


「わ…っかりました!その従兄弟の方に会ってみます!」


 エリオ兄様が選んだんだ。悪い人では無いのは確かだろう。それにしても、ほっと息を吐いて「ありがとう」と微笑んでくるエリオ兄様が今日も麗しい。


「それで、その…」

「うん?」

「会うときって、エリオ兄様も一緒に…?」

「それは勿論。婚約者でも無い奴と二人っきりになんかさせやしないよ」


 エリオ兄様と会って数週間でもう新しい婚約者かぁ。まあ私公爵令嬢だし妥当か。流石に兄様だけは問題だもんね。

 嫌々駄々捏ねて、兄様に迷惑掛けるのだけは避けなければならない。うん、もし兄様が婚約者から外れたら悲しくて泣く。泣き喚く。


「エリオ兄様ずっと私の傍にいてね?」

「!!」

「結婚してもお爺ちゃんお婆ちゃんになっても一緒にいようね」

「あぁシェリー!!当たり前だよ!!死んでも君を離さない!!愛してる僕の天使!!」


 ぱああっと光臨差し込む満面の笑顔を浮かべた兄様に抱き潰される。どうやら私の言葉はそれほど兄様の心に響いたらしい。


 こうして私、シェリル・ルラッグは二人目の婚約者との対面を近日中に控えることになったのだった。

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