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光と影と、チープなアニメーション

娼館の奥の部屋は、さっきまでの湿った空気を引きずっていたが──

それ以上に、部屋全体が“次に起こるもの”を待っているようなざわめきを帯びていた。


アキトは炭の絵板を見つめながら、セラの帰りを待っていた。



「連れてきたぞ!」


セラが扉を開けると、

紙屋の店主──小柄で、腕だけ太い職人肌の男が汗を拭いながら入ってきた。


「……上質紙が欲しいって聞こえたからよ。こんな急ぎの依頼、何年ぶりだ……?」


アキトは頷き、少女の描いた板を見せた。


「これを、“紙”で再現したい。光を通す紙が欲しい」


紙屋の男は目を細め、何枚かを手に取り、光に透かした。


「……おいおい……この線……正確すぎるぞ……

 板じゃなく紙で描いたら……影がもっと綺麗に出る……」


横で店主(さっきわからされた方)が腕を組んで言う。


「ほら見な。だから言ったろ?

 一番わかりやすいのは“絵”なんだよ。

 この子の線なら、誰でも真似できる」


少女は無言のまま、次の板を描いていた。


アキトが指示した“猫がネズミを追いかける連続絵”だ。


線は無駄がなく、正確で、そして不思議なほど温度を持っていた。



「よし、準備できる。始めるぞ」


アキトは衣の内ポケットから カメラ を取り出す。


それを見た紙屋が首を傾げた。


「……それ、魔道具かい?」


「いや、俺の世界の道具だ。

 本来は影じゃなく“像”を記録するためのものだが……

 今日は“光源”として使う」


女店主が鼻で笑った。


「やっぱりあんた、変な奴だね。

 ま、その光ならいけるさ。

 ……発光魔法の連中に頼むより、ずっと信用できるよ」


ミアが補足するように言う。


「カメラの光は方向性が安定しているので、影の形も整います」


紙屋が目を丸くした。


「影に……形ができる……?」


アキトは、紙屋が持ってきた薄紙を並べ、

少女の板絵をその後ろに置き、カメラの光を当てた。


そして──


影が動いた。


猫の影がネズミを追いかける。

紙越しの光が揺れ、影が生きているように見えた。

ほんの数枚の連続絵。

だが、この世界の誰も見たことのない“動き”だった。


娼館の女の子たちが口を押さえ、

女店主は息を呑み、

セラは瞳を細め、

ミアは思わず前に出て観察し、

アリイは目を輝かせて跳ねる。


そして──紙屋は、手を震わせながら、涙をぽとりと落とした。


「……なんだよ……

 紙が……こんな未来を持ってたなんて……

 俺は……ただの拭き物や書き損じの紙しか作れないと……

 ずっと……思ってたのに……!」


女店主も震えながら言う。


「……これが……“説明”なのかい……

 影だけで……全部伝わっちまう……

 動きが……気持ちまで運んでく……

 あんた、本当に……影を操る男なんだね……」


アキトはカメラを下ろしながら言った。


「これが俺の“わからせ”だ。

 言葉より、声より、手より──

 影で伝える」


部屋の中が熱を帯びていく。


紙屋が震える声で言う。


「俺……紙を全部提供する……!

 これが紙の未来なら……俺もそこにいたい!」


セラが紙屋を解き、肩を叩く。


「お前も今日から仕事が増えるぞ。覚悟しろ」


ミアは薄紙の特性を調べ始め、

アリイはローティスを手に「実演いる?」と笑い、

娼館勢は客を呼びに走る。


全員が動き始めた。


そしてアキトは、連続絵を描き終わった少女の前に歩み寄る。


「……なぁ」


少女は顔を上げる。

影の光を受けて、黒い瞳がわずかに揺れた。


「お前──

 俺がパトロンになるって言ったら……嫌か?」


少女は息を飲み、

ほんの一瞬だけ震え、

そして静かに──しかしはっきりと言った。


「……嫌じゃない。

 働かせて……ください」


アキトは微笑む。


「名前は?」


少女は炭で汚れた手を胸に当てて言った。


「……ルクス。

 光を……描く者です」


アキトは手を差し出す。


「じゃあ行くぞ、ルクス。

 今日からお前も、“文化を作る側”だ」


光と影が部屋を満たした。

裏通りで、初めて“動く影”が 産声を上げた 瞬間だった。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この作品は「エロとの戦い」がテーマなので、感想やブクマ・評価を書きづらいかもしれません。

ですが、「気軽に一言だけ」——それでもいいので、反応をいただけると、とても励みになります。

みなさんの一押しが、次話を書くエネルギーになります。

どうぞよろしくお願いします。

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