国を守っていた真の聖女なのに、バカ王子に偽物だと言われてしまいました〜ご丁寧に浮気相手である新しい婚約者まで紹介されましたが、その人多分聖女じゃないですよ?〜
「アイナ! お前との婚約は解消させてもらう!」
大広間にて。私の婚約者であるアーサー王子が声高らかに婚約破棄を宣言した。きらびやかな装飾が施された広間で、立ち並ぶ宮廷の人間たちの侮蔑の視線が私一人に突き刺さる。
私はこの国の聖女である。数百年ぶりの聖女として才能を見いだされ、故郷の村から宮廷に召し上げられた。聖女はその力で国を守る存在。その証として、次期国王であるアーサー王子と婚約を結んでいた。
それも……ついさっきまでの話ではあるが。
「理由をお聞かせ願えますか。アーサー王子」
「とぼけるな! お前が偽物の聖女であると、とっくに発覚しているのだ!」
偽物……? 私は理解できずにいたが、周囲の人間たちがその言葉でざわめき始める。
つまりあれだろうか、私は本物の聖女ではないと言いたいのだろうか。しかしこれまでやってきた仕事は本物であり、それをアーサー王子は見ていたはずだ。
なのにどうして?
私が悩んでいると、アーサー王子が勝ち誇ったように口の端を釣り上げると、隣に控えていた一人の女性の手を握った。
「紹介しよう。こちらにいらっしゃるのが、本物の聖女であるカミラ様だ!」
彼の隣で、カミラと名乗る女性がこくりと頷いた。か弱そうな表情をしながら、華やかなドレスを身に纏い、軽く笑みを浮かべている。
「この方が本物の聖女……と言いたいのですか?」
私が尋ねると、アーサー王子はこくりと頷く。
「そうだ!」
ということらしいが……しかし彼女が本当に聖女だとは私には思えなかった。聖女である人間は、聖の属性を持つ魔力が極めて高い存在だ。しかし彼女からはそのような魔力は感じられないし、そもそも保有魔力量が一般的のようにも思える。
この人……本当に聖女なのか?
「なんだその目は。まさかまだ自分が本物の聖女であると主張するつもりなのか? よく見てみろ、お前とは違って慈愛に満ちた目をしている彼女を!」
つまり私の目が死んでいるとでもいいたいのだろうか。確かに私の表情筋はぎこちないものではあるし、カミラという人間と比較されてしまったら負けてしまうだろう。
しかしそもそも聖女である上で大切なことではないし、そんなことで判断されてしまうとこの国には何千何万と聖女がいることになってしまう。
まあ……とどのつまり、カミラのことがすごく気に入ったから、お前はさっさと出て行けと言いたいのだろう。
呆れてしまう。一国の王子がそんなことで婚約者を変え、王都や国家の維持すらも投げ捨ててしまうだなんて。
まあいい。私もアーサー王子には疲れていたから、離縁する良いキッカケができたと思おう。
「承知いたしました。それでは……今までありがとうございました」
私がそう言うと、王子はニヤニヤと笑う。
「話が早くて助かるよ。そこだけは褒めてやる」
なんて図々しいやつ。
私はそう思いながら、宮廷を後にした。
◆
自分の荷物をまとめ、宮廷から出るまではかなりスムーズにいった。誰も私を止める人間はいなかったからだ。
ある意味、王子の力が強いということではあるけれど、なんだか誰も私のことは見ていなかったんだなと悲しくなってしまう。
というわけで、悲しくなったし呆れもした私は故郷の村へと向かう馬車に乗ってのんびりしていた。
流れる景色、のどかな光景。王都でいると息が詰まりそうになるが、やっぱり田舎は心地が良い。私はこんな場所が体に合っている。
馬車が村の入り口で止まる。私は少しばかり元気よく飛び降りて、ぐっと伸びをした。
やっぱり変わらないな、私の故郷は。
今も昔も相変わらず田舎で、畑が広がっている。うん、最高。
「早速実家に帰りますか……ん?」
ふと、畑で農作業をしている男の人と目が合った。男は私を見るなり、急いでこちらに駆け寄ってくる。
「もしかしてアイナか!?」
「もしかしてオーウェン?」
「そうだ! オーウェンだよ!」
日に焼けた肌に逞しい体。優しそうな栗色の瞳を持つ、私の幼馴染みだ。
懐かしい……久々に見た。彼は昔から私によくしてくれていて、一緒に遊んだりご飯を食べたりもしていた。他には……確か結婚しようだなんて話もしていたっけ。
少し思い出したら恥ずかしくなってきたので、一旦それは忘れよう。
「どうしてアイナがここに!? 宮廷の聖女の仕事はどうしたんだよ!」
まあ、そこが気になるよな。私は苦笑しながら、事情を説明する。宮廷の聖女はクビになったこと、王子との婚約も解消されたこと、挙げ句の果てに新しい聖女は偽物かもしれないこと。
とりあえず言えることは言ったのだが、オーウェンは目を見開いて驚く。
「そんなことが……そうか、婚約も解消されたのか……」
「そこが気になるの?」
私が聞くと、オーウェンは顔を赤くして首を横に振る。
「いやっ! それはまあ……そんなことより! お前が帰ってきてくれて、俺は本当に嬉しい。村のみんなもそうだと思う」
オーウェンは困った様子で言う。
「実際問題、聖女の力を借りたかったところなんだ。実は、ここ一ヶ月以上まともに雨が降っていないんだ。このままだと、村の作物が全部ダメになっちまう」
オーウェンは畑を見て、悲しそうにする。確かにどれもこれも茶色く枯れかかっており、力なく萎れてしまっている。畑の土もかなり乾燥してしまっているようだ。
なるほど……これはかなり一大事だ。
「分かった。私がどうにかするわ」
「ほ、本当か!?」
私はこくりと頷き、目を瞑って集中する。手をぎゅっと握り、祈りを捧げる。
刹那、パッと私の胸から明るいオーブが溢れ、空へと舞っていく。同時に空は曇天になり、小雨から次第に強い雨へとなっていった。
オーウェンはパッと嬉しそうにする。村の人達も驚いて外に出てきている様子だった。
「すごい! すごいぞアイナ! これで村も救われる!」
オーウェンははしゃぎながら私の手を握ってきた。だが、すぐに顔を赤くして手を離す。
「す、すまない。昔みたいにやっちゃって」
全く、オーウェンは昔から変わってないな。オーウェンは反省してしまっている様子だけど、私はとても嬉しかった。
私はオーウェンの手を握って微笑む。
「昔みたいにでいいよ。これからもよろしくね」
「あ、ああ」
私の言葉に、恥ずかしそうにするオーウェンだった。
◆◆◆
一方その頃。宮廷では前代未聞の混乱が生じていた。
新しい聖女であるカミラの力を、国民にお披露目をするため大規模な豊穣祈願の儀式が執り行われていたのだ。
しかし……何も起こらなかった。
「どうなっておるのだ、アーサー」
国王が怒りの表情を浮かべて、アーサー王子を睨めつける。
なんせ、祭壇の上でもっともらしい祈りを捧げても天候一つ変わらないのだ。聖女の力である能力が何一つとして現れていない。
「ど、どうしたのだカミラ! 早く聖女の力を見せろ!」
アーサー王子が焦って彼女に叫ぶが、カミラは顔を青くして言い訳をするばかりだった。
その見苦しい姿を見て、宮廷の人間は気がつき始める。彼女には聖女の力など微塵もないということに。
アーサー王子は絶望する。王家がこんな醜態を晒してしまうことが、どれほど重い罪なのかを理解しているからだ。このままでは国王から何を宣告されるか分かった物じゃない。
「偽物じゃなかったんだ……アイナは……」
しかし、今更自分の犯した罪に気がついてももう遅い。アイナはもうすでに新しい幸せを掴み、あまつさえ王子自身に呆れてしまっているのだから、戻るわけもなかったのであった。
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