第十二話 勇者の墓守の話
「罪を述べろ、レイモンド。お前の口から語れ」
「……なんのことだか、」
パキンと甲高い音が鳴る。
そちらを見ると私の手の先にあった白い花が鋭く伸びた氷の塊になっていた。
「次はお前の指だ。誤魔化しは効かない」
彼…アダムの瞳はあの黄金の色から、酷く黒ずんだ赤色に変わっていた。
本当に、死神なのか。確かに不思議な子だったがそんなこと思いもしなかった。
……覚悟を決めなくては、いけないのか。
「……確かに、私は魔王だ。魔王だった」
振り絞り、ようやく出た声はなぜか穏やかだった。
続けて私は語る。
「多くの人間を殺め、悪辣の限りを尽くした。それなのに、今の今まで呑気に生き延びている。あの時は死にたがっていたくせにね」
ハハ、と乾いた笑いが漏れる。しかしそれを見た彼は顔色一つ変えずこう言った。
「それだけではない。お前は嘘をついている。なぜ、相打ちと言った?お前はあの勇者にトドメを刺しただろう」
強く心臓を掴まれたような感覚。
そこまで見てるのか、死神は。もはや恐れよりも畏怖を覚える。
私の意識は嫌でも過去を遡る。そうだ、私の始まりは、あの言葉だった。
「……ありがとう、と言われたんだ」
ーーー
私達の戦いは、最も簡単に終わってしまった。
共に全力で戦っていたよ。力を余すことなく使い、声が枯れるほど叫んだ。
それでも付け焼き刃の力では持たなかったのか、勇者は私が手を下すことなく倒れてしまった。
その時、僅かに聞こえたんだ。「ありがとう」って。
意味がわからなかったよ。
命を奪われる寸前の人間なんて、喚くか嘆く者ばかりだったから。
だから知りたくなったんだ、なぜ彼が礼を言ったのか。人間の彼が、今までどうやって生きていたのかを。
魔王が生きて歩き回ることなんて出来ないから、彼の体を使い人間として……『レイモンド・カーター』として生きることにした。
その旅の中で少しずつ、勇者は魔王と相打ちになったと伝えていたんだ。
幸いなことに、包帯で顔を隠すだけで誰も私がその勇者だと気づく人はいなかった。……それに少し寂しさも覚えたけどね。
やっと言葉の真意を知ったのはほんの数十年前。
とある村の女性……当時はまだ言葉もろくに話せない子供に、力のことを漏らしていたらしい。
まさか同じことを願っているなんて、当時は思いもしなかったよ。
だからこそ、私は伝えなくてはいけないと思ったんだ。
世界を救った華々しい話も、もがき苦しみながらも前へ進んだ泥臭い話も、全ては多くの勇者達が苦しみながら進んだ道なのだと。
ーーー
「だから私は勇者の墓守となった。空っぽの墓石に祈るのは無意味に見えるだろうけど、生きた証を形に残しておくべきと思ったんだ」
語り終えるとスッと私の中を何かが通り過ぎた。
私は、安心しているのか?秘めていたものを吐き出して、身軽になったことを。
あぁ、なんて浅はかなんだ。
「…お前はなぜ、死にたかったんだ?」
「私は負の感情が霞でもあれば永遠に生き続けられる。それが苦しくなっただけさ。勝手な理由だろう?」
勢いのまま出てきた言葉を返すことなく、彼は包み込むように身を広げた。
「お前の罪は聞き届けられた。これより、罰を与える」
耳元でパキリと音がした瞬間、静寂が訪れる。
左半身が氷で覆われ始めたのだ。動揺し右手で触れれば肌が張り付き離れなくなる。
死とはこんなに騒々しいものだったのか。
私はゆっくりと目を閉じ、口を開いた。
「キミは、どうするんだい」
……おかしなことだ。最後の最後で出てくる言葉が、死神への心配なんて。
彼は間を開けてから答えた。
「何も変わらない。また死神に戻る」
「もう、迷子にはならないといいね」
「……最初から迷子になどなっていない」
「そうかい。それなら、よかった…」
それから先は喉が凍り、言葉を伝えることはできなかった。
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