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勇者の墓守  作者: 623
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第十一話 最後の勇者の話

今日の仕事は真っ白な息を吐くところから始まった。

雑草を抜き、墓石の汚れを取る。お供物は…盗まれてないな。よかった。今日は時間があるし、添えられた花は花瓶に移して水を注いであげよう。枯れないといいが…。


そうしている間に朝日が昇り、辺りが宝石を散らしたかのように輝きだした。


「そろそろご飯にしようか。…今日は外で食べるかい?」


彼は頷く。いつも通りの朝、いつも通りのご飯。

なのに今日は嫌でも寂しくなってしまう。


今日は最後の勇者の、魔王を打ち倒した英雄の話をする。

もちろんこの話が終わったとしても私達の暮らしは続く。だから、こんな思いをする必要はないけれど…。

…嫌だな。やけに寂しがりになるのは歳のせいなのかな。


気持ちを切り替えようと手を叩く。そうだ、今日のご飯は簡単にできるサンドイッチにしてみよう。

セシリアさんからもらった野菜をたっぷり挟んで…飲み物は牛乳にリョクチャの粉を混ぜてみようか。前に作ってみたら美味しかったとカネコくんが言っていたし、試してみたかったんだ。


黙々と作っていると彼は後ろからパタパタ走ってバスケットを持ってきた。

今日は何が入っているのかな。手を拭き開けてみる。


「ん…?」


私は思わず目を細めた。

バスケットの中には白い花が一輪だけ入っていたからだ。もしかして食べられる花なのかとも思ったが、さすがに食べられるかどうかなんて見ただけではわからない。植物の本も手元にはないし…。


「えっと…とりあえず、これは一緒に添えるだけにしよう」


彼はコクリと頷き、サンドイッチを作る作業を眺め始めた。

…あのバスケットは確か、望んだ食べ物が出る代物だったはず。じゃああの花は一体…?


ーーー


「下からトマトが出てるよ、ほら」


口を拭き、溢れかけたトマトを押し戻す。味は問題ないけれど、形を綺麗に作るためにはもう少し練習が必要だったな。

最後の一欠片を口に運び飲み込む。


「ごちそうさまでした。さて…」


彼の顔はいつも通りの無表情。…彼は、どう思っているのかな。

黙っていると彼は私の袖を引き、一言。


「聞かせてくれ」


黄金がキラリと輝いた。私は微笑みを見せ、座り直した。


「わかったよ。じゃあ、どこから話そうかな…」



最後の勇者は神の子と呼ばれていた。

三歳の頃、大人が数人がかりでも持てない大岩を軽々と持ち上げた。

五歳の頃、村を襲った狼の群れを鍬一本で追い払った。

その姿を見た人々は口を揃えて言ったよ、「この子は勇者だ。きっと魔王を打ち倒してくれる」と。


その期待に応えるように、その子はわずか十歳で旅に出た。


旅先でも変わらず人々を助けてまわっている内に、すれ違う人々までもその子を「勇者」と呼ぶようになっていった。

きっとかつての勇者達の面影をその背に見たのだろうね。


……だけどね、誰もその勇者の真実には辿り着けなかった。


彼はとある力を持っていたんだ。

曰く、「困っている人物を必ず助けなければならない力」。助けるためならどんな超常的な力も手に入る代物だ。空高く飛ぶ脚力も、大岩を壊す腕力も。

だがその対象を助けるまで耳鳴りや頭痛が止まず、無視することは絶対にできない。


だから彼は駆け回るしかなかったんだ。世界中に溢れかえる悲鳴を聞き逃さず、強大な敵に立ち向かうことでしか生きていられなかったんだ。


そうして旅を続ける内に、彼の心は次第に擦り切れていった。それでも人を助ければ「ありがとう勇者様!」と無邪気な言葉が心を突き刺してくる。

その頃には勇者の中にある一つの願いが生まれていた。



「もう、死んでしまいたい…」



暗く深い願いを抱えたまま、勇者はついに魔王の元へ辿り着いた。

不思議と門は開いており、城の中も静まり返っていた。彼は足を踏み締め進む。

そして、一番大きく歪んだ扉を開くとそこには魔王がいた。


その瞬間、勇者の力が発動した。誰もいないはずの城の中で、目の前のそれは強く願った。



「殺してくれ。もう死にたいんだ」



勇者は目の前のその人…魔王から、目を離せなくなっていた。



二人の戦いは壮絶でね、そこに城があった痕跡さえなくなるほどだったんだ。


数年後、世界中に魔王が倒されたこと、勇者は相打ちになったことが伝わった。待ち望んだ平和な世界に皆が歓喜し、努力の甲斐あって今も続いているけど、彼らの願いが叶ったのかは今でもわからないんだ。


ーーー


話し終えた安堵感からか、そよ風が私達の間を通り抜けた。

どうだったかな、と彼の方を見ようとした瞬間、彼は徐に立ち上がり口を開いた。


「嘘をつくな」


低い声が響く。空気が冷え、手先が凍っていくような感覚に襲われる。

いや、比喩ではない。辺りは日の光と関係なく暗くなり地面はバスケットに入っていたモノに似た白い花が一面を埋め尽くしている。

ここはどこだ、と困惑する私を他所に彼は語り出す。


「相打ちじゃない。本当は勇者が負けたんだ。だから勇者は死後の世界に来た、だからお前は生きている。違うか?」


黄金がギラリと睨みつける。あまりのことに頭が理解を拒む。


「キミは、一体何を……」


ようやく出てきた震え声に、彼は目を伏せ答えた。


「お前の……魔王の罪を清算しに来た。私は死神。名はアダム」


揺らめく黒い身体に、私は目を奪われていた。

次回、最終回です


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