第十話 勇者リョーガの話
「キミに話せる話も、もう少なくなってきたな」
私がそんなことを溢すと彼は首を傾げてこちらに近づいてきた。
「いや、キミがここにやって来て毎日いろんな話をしたしいろんなところに行ってきただろう?それで考えなおしたんだがね…私が話せる勇者の話は、あと二人分しかない」
彼はいつも通りの無表情だったが、目の奥が少し揺らいだ気がする。
…嫌だな、やはり。黒い夕暮れを見ると気分が落ち込んでくる。
もちろんこの生活をやめるつもりはない。だけど繋がるきっかけとなったモノがなくなるのはとても寂しい。私は手先の冷えを誤魔化すように蝋燭に火を付けた。
「………」
すると彼がその燭台を椅子の近くに持って行き指をさした。座れ、ということなのだろうか…?
そこに座ると彼は隣に座る。そして顔を近づけて話し始めた。
「残り少ないなら、後悔がないようにしろ。死に際に生き様を後悔して泣く奴は多い」
「死に様って…大袈裟だなぁ」
笑ってみせるが彼の目は真剣だ。鋭い刃物を突きつけられているような感覚さえ覚えてしまう。
…だけど、言っていることは的を得ている。私だって最後に後悔して終わりたくはない。
よし、と手を叩き立ち上がった。
「この間リャンリーさんの故郷のお茶の淹れ方を教わったんだ。それを飲みながら話をしよう」
彼は頷いた。いっぱい失敗していた料理も少しは上手くなってきた。今日だって、きっとできるはずだ。
そう思って淹れたお茶は渋すぎて全く飲めなかった。
ーーー
「もしかして、これが異世界転生ってやつ…!?」
勇者リョーガ。本名はリョーガ・ハギワラというらしい。
別の世界から召喚された勇者なんだ。彼は「ニホン」という国からやってきて、来た瞬間「イセカイテンセイ」だの「チートムソウ」など訳のわからない言葉を並べていた。
状況をいち早く理解した彼は、周りの王族や召喚士達に言われるがまま魔王討伐の旅へと向かう。その最中彼を敬愛する女性達に出会い、囲まれながら過ごしていた。
…そうだね、彼の旅は酷く呑気だったよ。
だけど彼は強かった。なんでかって?
召喚される人々は強い力を付随されていたからだ。彼らはそれを「スキル」と呼んでいたね。そしてリョーガが持っていたのは、「相手よりも少しだけ強くなれる」というスキルだ。
それだけ?って思うかもしれないがこれが強いんだ。必ずリョーガが強くなるもいうことは力負けすることも組みつき絞められることもない。魔法だってそうだ、必ず相手よりも大きな火球を出せるんだ。戦闘という場で彼が負けることはまずなかった。
だけど、それ以外はリョーガのセンスも関わってくる。
例えば彼はタイミングを見極め回避することなどは苦手だった。それはスキルに頼れない、彼自身の観察眼が必要だからだ。それに大多数との戦闘も苦手だった。スキルの効果は一人にしか通用しないから、それ以上に強い人がいると押し負けることもしばしばあった。
そんな見えない弱点を克服しないといけないと悟ったリョーガは、毎晩仲間達に協力してもらいながら戦術を学んでいた。魔王城へ近づくたび彼は強くなり、そして…
仲間達の命は散っていった。
当然さ、城の周りにはより強い魔物がいる。人の精神を操る者、肌を腐食させる毒を吐く者、頭蓋骨を噛み砕く牙を持つ者…他にも大勢。
リョーガだって無事ではなかった。彼のスキルの効果に身体がついていかなくなっていったんだ。
足がガクガク震え歩くこともままならない中、彼は諦めずに前へ進む。
そして魔王と相対した瞬間、彼の肌は避け血が吹き出た。…奴の強大な力に耐えられなかったんだ。
だけどリョーガは最後に、魔王に傷を付けることに成功したんだ。倒れる直前に一歩踏み出し、足の筋を引っ掻いた。柔らかく裂けた魔王の外皮から血が吹き出し、膝をついた。
その時はたったそれだけの傷だった。だけどね、最後の勇者が魔王を倒すことができたキッカケはその傷だったんだよ。
この話を聞いた誰かは言っていたよ。
勇者とは繋がるモノ。時を超え、海を越え、希望を持って繋げていく、細い細い糸のようなモノなんだって。
ーーー
話が終わると窓の向こうは日が落ちて真っ暗になっていた。
僅かな灯りに照らされた彼は、私を見つめたまま手を叩いている。ふふっ、よっぽどこの話が良かったんだな。
すると腹の奥で虫がクゥと鳴いた。今日は何を食べようか。そう考えていると彼はどこかからバスケットを差し出してきた。
「…キミのそのバスケットも久々だね」
まだ少し怖いが、たまにはいいかとバスケットを開いた。中には野菜がたっぷり入ったいい香りのスープに大きなパンが二人分。どこか舌が覚えているような感じがした。
最終回がかなり難航し更新遅れました…。
今年中、早ければ12月頭に完結いたしますので何卒よろしくお願い致します。
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