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デイビス・クレイ創世伝  作者: 太郎
第一章 始まりの呼び声編
4/4

#4_護光


 デイビスは依然として、自身の周囲を取り囲む黒い靄の影を睨み続けていた。


 ――どうやって、ここを切り抜ける……?!


 ひたすらに、この危機を脱する為の策を頭の中で考えるデイビス。

 しかし、そう簡単に思い浮かぶわけも無く、ただ無防備な時間が過ぎていく。


 その時、取り囲んでいた影の一体が、行動を起こす。


 ビュン!


 高速で突進を繰り出してくる影。

 デイビスはそれを間一髪、横にローリングする形で避けるが、着地した地点へまた別の影達が更に突進を繰り出す。


「くそっ! 避け続けなきゃ……!」

 

 必死にそれらの突進攻撃を避けるデイビスであったが、次々と繰り出される突進に身体が追い付かず、遂にその突進をモロに食らってしまう。


「ぐわぁっ!」


 その靄の影のような見た目からは想像も出来ぬ程、強烈な質量のある突進を受け、口から声が漏れてしまう。

 突進の勢いでその身体は激しく宙を舞い、デイビスをその背後の方角へと吹き飛ばす。


「うっ……!」


 そのまま地面へと勢い良く叩きつけられたデイビスは、再度苦痛の叫びを漏らす。

 苦しみながらも、自身が飛ばされて来た方向を見れば、先程の影達がこちらを目掛けて迫ってきている。


「これ……でも……喰らえ……!」


 それでも諦めず、ふと横目に入った拳大の石を、迫りくるそれらの一番先頭の影に、仰向けの姿勢から投げつける。


 先頭に居た影は、投げつけられた石を避けること無く、デイビスの元へ移動しながら真っ向から食らう。


 黒い靄の影に対して投げられた筈の石は、何かに跳ね返ったかのような挙動を取り、そのまま地面へと転がった。

 そして、石を当てられた影は、ピタリとその場で静止し、周りの影も同じ行動を取った。


 ――……!?


 急に接近を止めた影達に困惑するデイビス。

 対して影達は静止したまま、デイビスと相対している。


 ――一体どうしたんだ……? さっきまではあんなに追い掛けてきたのに……。

 

 目の前の影達に対して警戒を解かずにじっと睨みを利かせていたデイビスであったが、ここでとある事に気が付いた。


 ――あれ? ……人?

 

 確かに先程まで、実体が無かったはずの靄の影の中に、人のシルエットが浮かんでいたのだ。

 そのシルエットは徐々に濃くなり、人の姿がより鮮明に見えるようになってきている。


 ――まさか、嘘だろ……?


 そう。そのまさかであった。


 デイビスを追ってきた黒い靄の影は、人間だったのである。


 数秒もしない内に、驚愕するデイビスの前には、黒い靄のカーテンから出てきたかのように人が姿を表した。

 そして、姿を表すや否や、先程までの黒い靄の影は霧散して消えていった。


 残ったのは、全身を黒いローブで包み、フードを深く被った人物達である。

 フードを深く被り、尚且つ少し俯いた形でデイビスと向き合っているため、デイビスからはその人物達の顔を見ることは出来なかった。


「えっと……」


 久し振りに人に会えた少しばかりの安堵と、先程まで追い掛けられていた事実が入り混じり、言葉をうまく発することが出来ないデイビス。

 

 すると、それまで直立不動だったフードの人物達の中の一人が少しだけ顔を上げた。

 

 デイビスに石を当てられた先頭の影から出てきた人物である。


 デイビスは注意深く、その顔を見つめる。


 そして、確かに見た。

 

 ――……!?


 笑っていた。


 隙間から少しだけ覗いたその口は、確かにニヤリ、と不気味に笑っていた。


 デイビスは一目見てそれを、友好的な笑顔では無いと察した。


 急いで再び逃げようと後退りをするも、もちろん逃げ場などは存在していなかった。


 タッ……タッ……タッ……。


 不気味な笑みを絶やすこと無く、デイビスに歩み寄るローブの人物。


 まさに、一巻の終わり。であった。


 ――くそ……! 母さんの元に帰らなくちゃいけないのに!


 腕を交差して目を瞑る。

 母親の元へ帰りたい、そう強く願うも、その願いは届かない。


 タッ……タッ……タッ……。

 

 あと数歩で、デイビスの元に辿り着く。


 

 ……その時。


 ビュン!


 白い軌跡を残しながら、デイビスとフードの人物の間を何かが通り過ぎる。


 ――……?

 

 身構えていたデイビスが目を開けると、一帯を一つの眩い光の玉が飛び回っていた。

 その光の玉は、フードの人物達に体当たりをしながら、不規則に移動し、その場の状況を掻き乱している。


 まるでデイビスを守るかのように。


 そのせいか、フードの人物達は意識を完全に光の玉に気を取られ、今ではデイビスから完全に目を逸らしている。


「何だ……? 今度はどうなってるん……?!」


 言葉を言い終わるよりも先にデイビスの服の襟が背後から強い力で引っ張られ、デイビスは宙を舞いながら高速で移動し、その場から離脱していく。

 デイビスは咄嗟に振り向くが、そこに自身を引っ張る何かの姿は見受けられない。ただしかし、不思議なことにデイビスの襟は確かに後ろから引っ張られたような形をしている。

 

 しかも、不思議な点はそれだけではなかった。


「うわ!」

 

 途端に驚き、声を発するデイビス。

 そのデイビスの視線は依然として襟に向けられていたが、その襟に異常が見られていた。

 

 徐々に透明になっている。

 更にその地点からデイビスの身体全体に、押し寄せる波のように透明化が素早く広がっていた。


「何だこれ! 離せよ!」


 自身の半身が透明になってしまったデイビスは、あまりの状況に、暴れながら自身の襟を掴む何かを振り解こうとするが――


 ダッ! ダッ! ダッ!


 自身に近付く物凄い足音を聞き、思わずその方角を見ると、先程デイビスの取り囲んでいたフードの人物の一人が物凄い勢いで迫ってきていた。

 そして、その差は徐々に縮まっている。


 その光景を目にしたデイビスは、先程よりも強い力で暴れ始め、脱出を試みる。


「離せ!」


「静かにしてくれ!」


 何者かの声が聞こえる。


「僕は君を助けに来た! だから静かに身を任せてくれ!」


 爽やかな青年の声であった。

 吹雪の後目覚めてから、初めて聞いた声に思わず目を見開くデイビスは改めて周りを見渡す。

 しかし、声の主らしき人物は勿論見当たらなく、そのことからデイビスは、きっと声の主は自身を引っ張る何かであると考えた。

 

「……分かった」

 

 その者が何者であるか、自身の敵なのか味方なのかはデイビスにとって不確定要素であった。

 が、先程の発言から、少なくとも敵意は汲み取れなかった為、言葉の通り従う事にしたデイビスは、その一言を最後に身を任せ、暴れるのを止めた。

 その直後デイビスの身体全体が完全に透明になり、外部から完全に視認できなくなった。


 先程まで追いかけて来ていたフードの人物も、デイビスを視認できなくなった影響でその姿を見失い、追跡を断念したのであった。

 

 タッ! タッ! タッ!

 

 静かになった辺りには、草原を駆ける足音が聞こえている。

 周りの景色も徐々に移り変わり、デイビスは完全に見えなくなった自身の身体に困惑しながらも、その光景を眺めながら静かに運ばれていく。


 ――? 何だあれ?

 

 移動速度が少し遅くなったのを察知したデイビスは、ふと進行方向に目を向けると、自身が運ばれていくその先の何も無い空間そのものに、縦長の長方形の穴が空いている。

 その穴の中は周りと明らかに景色が違っており、中には雑貨やテーブルのような物が見受けられ、まるで開かれた家の玄関のようであった。


 デイビスは運ばれながら、その穴の中に入っていく。


 ――?!


 デイビスは混乱した。


 先程まで空が広がる草原に居たはずだったが、一度穴を潜った先には三角錐の形をした天井や木で出来た床が存在していたのである。

 また、穴に入る前見受けられた雑貨やテーブルなどもその通りの物であり、更に床には綺麗な大きなラグが敷いてあった。


 ドン……!

 

 引っ張られていた襟から力が抜かれ、宙に浮いていたデイビスは地面に落ち、尻餅をつく。

 

「痛っ!」

「すまない、許してくれ。これでも助けられただけで幸運だったんだ」


 デイビスが思わず声を漏らすと、謝罪の声が聞こえる。

 そして、それと同時にデイビスの身体が元に戻り始め、デイビスは自身の腕や身体を見回し、再確認していた。


「良かった……。 戻った……」


 安堵するデイビス。

 そして、先程自身が潜って来た穴の先の景色を見ると、こちら側とは反対の草原の景色が広がっている。


 キィー……バタン。

 

 デイビスがその景色を見た直後に、その穴は本のページを閉じるかのように無くなった。

 無くなった穴の場所には、代わりに木で出来た扉のような物があり、家の玄関のように見えたその穴は、その役割を実際に持っていたということを示唆していた。


「……よし、これで大丈夫」


 閉じられた玄関扉の横から声が聞こえると、 少しばかりの時間を掛け、デイビスと同じくらいの年代の爽やかな青年がデイビスの目の前に姿を表した。

 

 紺色に近い深縹(こきはなだ)色をした長い髪を後ろで束ね、右目が少し隠れた前髪と、掻き上げて編み込まれた反対側には一本のビーズヘアーを垂らしている。

 動きやすそうな服で包まれた肌は少し色白で、デイビスを見つめる目は淡い赤紫色をしていた。


「ふぅ……。なんとか逃げ切れて良かったよ。 本当に幸運だった」


 青年はそう言いながら、依然として尻餅をついたまま警戒しているデイビスの方へ向き直る。


「あーごめんごめん。 自己紹介がまだだったね」

 

 デイビスの警戒を解くかのように、ニコッと微笑みながら言葉を続ける。


「僕はレオン。 レオン・ギルホール。 君の名前は?」


 静かな空間にはレオンの優しげな声が響いていた。

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