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梅散らず  作者: 花河燈
24/27

忠誠

歳三は、足の怪我が癒えてすぐ、会津の鶴ヶ城に登城した。容保に会う為である。

「参上するのが遅くなり申し訳ありませんでした。容保様」

怪我により挨拶が遅れた非礼を歳三は頭を畳に摩り付けて詫びた。容保はすぐに頭を上げさせた。

「ようきてくれた」

周囲が新政府軍に寝返って四面楚歌の中、歳三の登城が嬉しかった容保は、目に涙を溜めて歳三が来たのを喜んだ。鳥羽伏見で慶喜に伴なって、戦う兵を見捨てて江戸に戻ってしまった自分を尋ねて来てもらえるとは思っていなかったのだ。容保は、部下である者を裏切るような行為をしてしまった事を悔いていた。

「足を撃たれたそうじゃな。もう平気なのか」

容保は、歳三の身を案じてそう尋ねる。

「もういつでも戦えます」

歳三の怪我を心配する余裕などない筈なのに、それを案じてくれる容保に、歳三も涙を浮かべる。歳三は、幕府に抱えられるまで、新選組の面倒を見ていてくれていた容保の頬がやつれているのを見て胸が傷んだ。

今まで国の為、幕府の為に身を削ってきた会津が薩摩や長州から朝敵の汚名を着せられている現状が歳三にはどうしても納得がいかなかった。

「余は土方が来てくれて幸せじゃ。闇のような時勢でも見捨てたものではない」

 容保は噛み締めるように呟く。

「私共、新選組は会津と供に戦います」

 歳三の言葉に、容保は嬉しそうに頷いた。


だが、八月二十一日の早朝に始まった母成峠での戦いは、苦戦を強いられていた。新政府軍の砲撃により、第一はおろか第二台場までを撃破され、指揮官の大鳥や新選組も散り散りになって逃走したほどの激しい戦いだった。

大鳥達が山間部へ逃げたという情報を得た歳三は、隊士達を東山の天寧寺にやって、自分は大鳥の元を訪れていた。

「土方さん、ご無事でしたか」

なんとか逃げ延びた大鳥は、歳三の姿を陣営に見て駆け寄ってくる。

「なんとか逃げる事が出来ました。隊士達は今、天寧寺で骨を休めている所だ」

「我々も流石に胆が冷えました」

 新政府軍の攻撃のすさまじさに、いささか閉口気味の大鳥は苦笑した。

「ああ。ここから大鳥さんがどうされるおつもりかを伺いに来ました」

「母成峠が破られた今、薩長軍は会津になだれ込む事になるだろう。我々は北に陣を張りながら戦い、仙台を目指す。そして仙台湾に到着予定の榎本さんと合流するつもりです」

「榎本さんと?」

「ご存知なのですか?」

 大鳥が意外そうな顔をする。

「ええ、少々」

 歳三は、榎本が大阪城で言っていたもう一戦するという言葉を思い出して唇を緩めた。

「これは驚いた。榎本さんとお知合いだったとは」

 知合いも知合いである。洋服に着替える発端を作ったのも榎本なのだ。歳三は曖昧に頷く。

「で、この先はその榎本さんの所に向かうっていうか」

「ええ、戦況を見ながら判断するつもりです」

「そうですか」

歳三の中で、海軍力を持った榎本と一緒に戦ってみたいという思いが膨らんで行く。開明的な考えの榎本の元でならば、状況を変える事が出来ると思ったからだ。

だが、歳三には恩のある会津藩があった。現在会津が新政府軍からの猛攻撃を受けている中で、見捨てていくような真似は歳三には出来ない。


歳三は会津を守る為、援軍要請に奔走した。

 だが、頼ろうとする庄内藩は、新政府軍に恭順してしまう。

「そうか。援軍も無理だったか。ご苦労だったな」

歳三の報告に、責める事もせず容保は頷き、労を労る。歳三は、何も出来ない無力さに打ちひしがれていた。

(少しは根性のある奴ぁいねーのかよ)

歳三は、畳についた手を握り締める。

「なぁ土方。もう会津の事はよい。ここは捨て置いて大鳥達と先へ行け」

「そんな事は出来ません」

「余は、土方がこうして奔走してくれた事を忘れはせん。もう十分じゃ」

 容保は、歳三の傍まで来ると肩に手を乗せた。


九月、大鳥は会津で戦うのを断念する旨を歳三に告げた。武器や食料が底をついてしまうというのだ。

歳三は腕を組んで考える。

(北に上がれば、起死回生の活路が見出せるかもしれない。一分の可能性でも残っているのならば、俺はそちらにかけたい。だが、恩のある会津を見捨てていく事はできない)

 歳三は大鳥の所から隊士達の集まる天寧寺へ戻ると斎藤を部屋に呼びつけた。

「土方さん参りました」

「入れ」

襖を開け斎藤が中に入ってくる。歳三の目の前に正座した斎藤は、歳三が何か重大な事を言おうとしているのを察知した。そして中々口を開こうとしない歳三を見て斎藤が口火を切った。

「土方さんは、これからどうされるつもりですか。会津はこれから大変な戦になります。土方さんがここを最後の戦地とし、討ち死にするとおっしゃるのでしたら、我々もそれに従うまでです」

歳三は周りに人の気配がしないのを確かめて口を開いた。

「山口…俺はこれから仙台へ行く」

「…わざわざ言うとは何事ですか?庄内藩へ援軍の要請に行った時には、俺に文一通のみだったではないですか」

斎藤は、少々責めるような眼差しを歳三に向ける。

「まぁ…そう言うな。今回のはそれとは違うんだ」

 気まずげに歳三は言葉を濁した。

「どういう事ですか?」

「仙台藩に援軍を頼みに行くのは勿論の事だが、俺はそのまま会津には戻らない」

歳三の言葉に、斎藤は一瞬意外そうな顔をする。会津に恩を感じている筈の歳三の言う言葉だとは思えなかったのである。だが斎藤はすぐに自分の中に芽生えた疑問を消し去り頷いた。

「では俺もお供します」

「責めないのか?会津を捨てて行く事を」

歳三が自嘲気味に笑う。

「何か考えがあっての事だと思いますので」

 斎藤が淡々と答える。

「お前も総司のような事を言う…」

 歳三は軽く笑った。

「土方さん…」

斎藤が嗜めるような声を向けると、歳三は声を立てて笑った。そしてしたたかに笑った後、斎藤の顔をじっと見据えてしみじみと呟いた。

「山口…お前は俺が近藤さんの助命に奔走していた時。よく隊を率いてくれた」

「?」

歳三の話題転換に付いて行けずに斎藤は、首をかしげる。

「お前でも、十分隊を引っ張って行ける事は十分に解った」

「…」

斎藤は真意を探ろうと食い入るような眼差しで歳三を見た。

「山口…お前に頼みがある」

「まさか…」

「おう。そのまさかだ。お前は感が鋭くていい。お前なら戦を生き抜けていけそうだ」

歳三はにやりと笑みを浮かべる。斎藤は顔を蒼白にしていた。

「嫌です。俺は土方さんと供に仙台へ行く」

「先手を打ってきやがったな」

歳三が苦笑を浮かべる。

「先手でも何でも打てるものは打たせて頂きます。俺は土方さんに付いて行く事を沖田さんと約束したのです」

「…」

「俺は、江戸であなたに付いて行くと決め京へ行き、ここまで来た人間なのですよ」

斎藤の言葉に、歳三は揺らぐ。斎藤を手放したくないのは歳三も同じなのだ。試衛館から一緒に来た仲間はもう斎藤だけだ。近藤も沖田も井上も山南も死んで、永倉や原田もいなくなってしまった。気心の知れている斎藤と離れるのが嬉しい筈はない。

「…」

「…」

 お互いの顔を見合わせる。沈黙が部屋を包んだ。

戦の所為でたちこめる硝煙の匂いが二人の鼻をついた。

先に口を開いたのは歳三だった。

「…だが、お前にしか頼めない」

歳三は崩していた足を直し、正座すると畳に手を付いた。

「…土方さん」

「頼む。お前でないと隊は統率できない」

「だからって…」

「俺は会津を見捨てて行く事は出来ない。だが、俺にはやらなければならない事がある」

「土方さんっ」

「分身のようなお前を置いていけば、容保様も安心できるだろう。信用して全権を委任できるお前でないと出来ない事なんだ」

歳三は、畳に頭を摩り付ける。斎藤は驚いて歳三の元に駆け寄った。まさか頭まで下げられるとは思ってもみなかったのだ。

「頭を上げてください」

斎藤の声には諦めが滲んでいた。それを嗅ぎ取った歳三は顔を上げる。

「頼まれてくれるのか」

 歳三の申し訳なさそうな顔を見た斎藤は静かに目を閉じた。

(沖田さん、すまない。約束を守れそうにない)

「解りました」

 斎藤の了解を得て、歳三はほっと肩の力を抜いた。

「ならば、俺を隊士達の前で罵倒してくれ」

「何ですって?」

 歳三の申し出に、斎藤は眦を上げる。

「『会津が落ちようとしている時に何事だ』と言ってくれれば良い」

「そんな事を俺が言えると思っているのですか」

「言ってくれなくては困る」

歳三は顎に手をあてた。斎藤は溜息を付く。

「どう困るというのですか」

「隊士達が俺と一緒に来られては困るって言うんだ。会津は一人でも人が欲しいだろうからな。俺が腑抜けだと知れば、お前の方に付く人数が増えるだろう」

 歳三は言いたくなさそうに説明した。

(この人は、そんな事までこんな状況の中で考えていたのか)

斎藤は、何も言えずに俯いてしまう。

「嫌な役だと思うが、引き受けてくれるな」

「…」

「斎藤!」

馴染みの深い名で呼ばれ、斎藤は決心した。

「解りました。俺は会津に残り、土方さんの分も会津に忠義を尽くしましょう」

「よく…言ってくれた。死ぬなよ」

「…最善を尽くしてみます」

歳三は、感極まった声で斎藤の肩に手を置いて、そこに額を乗せた。


そして、歳三は斎藤達を会津に残し、自分について来ると言った者達を連れて仙台へ向かった。


「そうか。土方がそう言ったか」

容保は、斎藤の報告に目頭を抑える。

「はい。会津を見捨てては行けぬと、そういって私を置いて行かれました」

斎藤は、鶴ヶ城に訪れ、事の次第を容保に伝えていた。

「そうか」

「仙台藩に援軍を要請した後、大鳥軍と行動を供にし、最後まで戦い、起死回生の好機を待つとの事です」

「なんと義理を重んじる男か」

 容保は、歳三の忠誠心に胸を打たれる。もう捨て置けと、鶴ヶ城まで来てくれただけで満足なのだと歳三には言った筈だった。それでも、歳三は会津を救う為、仙台に援軍を要請に行ってくれているというのだ。挙句に、苦楽を供にしたのであろう大切な腹心をこうして置いて行った。それだけで容保の心は満たされる。

「さぞ山口もついて行きたかった事よのぅ」

「いえ、私は容保様を守る事を決めた人間です。私の忠誠が土方さんの忠誠になります」

斎藤の強がりを黙って容保は見ていた。そして、悪戯を思いついたように、ニヤリと笑った。

「山口。そちは余の命令ならば何でも聞くと申すか」

突然の容保の言葉に、斎藤は背筋を伸ばした。死んで来いといわれるのならば、それも良いと斎藤は腹を括る。

そして、斎藤は深深と頭を下げた。

「この命に代えましても」

 斎藤の決意を垣間見た容保は、満足そうな笑顔を見せる。

「ならば、余からの最初で最後の命令を下す事にしよう」

 斎藤は、容保が発した言葉を耳にし、その場にひれ伏し生まれて初めて涙した。


一方歳三は仙台湾に来ていた。

 そこに榎本武揚の姿を見つけて、ゆっくりとした足取りで港に停泊している軍艦に近づいて行った。

 乾板にいた榎本が歳三を見つけ駆け寄ってくる。

「やはり土方君でしたか」

「お久しぶりです」

歳三は、以前榎本に教えられたように、手を差し出した。榎本も当然のように歳三の手を握り返す。

「随分と戦場を駆け抜けてこられたようですね。顔に現われていますよ」

 歳三は、榎本の言葉に照れたような笑みを浮かべた。

「足を撃たれたおかげで、戦場に復帰できたのは、最近ですが」

「足を…もう平気なのですか?」

 榎本の目が、痛々しそうに細められる。

「完治はしたが、冬場は辛そうだ」

 歳三は口を歪めて嫌そうな顔をした。

 歳三が榎本との合流を果たのは 八月二十七日の事である。


そして月が開けて九月三日。

会津への援軍を要請する為に、歳三は奥羽列藩同盟の軍議の席に榎本と供に向かった。だが、思わぬ方向に話は流れる。

軍議は榎本を筆頭に和やかに進められた。が、そのうち奥羽の軍隊が弱いのは、全軍を統率する指揮官がいないからだという話になったのだ。では誰が適当かと、彼らは門閥の名をいくつか挙げて囀り合った。その様子を、榎本は笑って遮る。歳三は、何も言わずにその場に座っていた。

「門閥門閥。全くこれだからあなた方は駄目だと言うのですよ。この期に及んで門閥が一体何の役に立ちますか」

榎本の言葉に、その場にいた全員が口を噤む。歳三は、地位に捕われない榎本に感心していた。

「指揮官については私に任せていただきましょう」

榎本のその言葉に、全員が頷く。

そして、榎本が口にした名前は歳三の名前だったのだ。

これには流石の歳三も驚いて、榎本を振りかえる。いきなりの大抜擢に、戸惑いの色を隠せない歳三がいた。それを榎本は笑顔で見やる。だが、その場に集まった者達のうちの一人が声を上げた。仙台藩の中でも恭順を謳っている遠藤である。

「土方ですと?…この人斬りの土方を我らの頭に置くつもりだとおっしゃるか」

「そうなりますね」

 榎本は慌てる事なく頷いた。にこにこと笑顔を貼りつかせて遠藤の顔を眺めているだけである。

「無頼者の集団にでもする気なのですか!」

 遠藤の失言にも、歳三は眉も動かす事なく黙って耳を傾けていた。

「何を言っているのですか。奥羽の軍隊を強くしたいというのであれば、彼ほどの適任者はいない筈でしょう」

 榎本の正論に、その場に集まった皆が息を飲む。

「よろしいですかな」

誰も異論を唱える人間がいないのを確認すると、榎本は歳三に了解を取った。

「土方君。この任を受けて頂けますか?」

 歳三はゆっくりと顔を上げると、額に落ちた髪を、掻き揚げた。そして端から端までゆるりと見渡すと、小さく息を吐く。

「これを受ける場合と受けない場合においては、一応お尋ねしなければなりませんが」

土方は一旦そこで言葉を切り、鋭い目で居並ぶ面々を見渡した。

「この奥羽列藩全軍である三軍を指揮する場合、軍令を厳しくする必要があります。もしこの軍令に背く者がある時は、御大藩の宿老衆と言えど、この土方が斬ってしまわねばならない。そのために生殺与奪の権利を、この総督の二字にお与えくださるのならば受けますが、その辺は如何なものでありましょうか」

途端、その場がざわざわと騒がしくなる。

(これだから腰抜けっていうんだ。命も掛けられずに戦に勝とうって言うんだから片腹痛い)

 歳三は口許にうっすらと笑みを浮かべて、蒼白になっている面々を見た。

「冗談じゃありませんぞ」

 低い唸り声を上げたのは遠藤である。

「では、この話はなかった事に」

 歳三は、当然のように席を立つ。そしてその様子を見ていた榎本も歳三の後を追うように部屋を出ていった。


そして、恭順派に仙台藩が寝返った事で列藩同盟はもろくも崩れ去った。会津に援軍を向ける事は出来ない事を、歳三は無念に思いながら、拳を握り締めた。

 その様子を見ていた榎本が慰めるように歳三を酒に誘った。 歳三は榎本の誘いを受け、停泊している船室で酒を振舞われていた。

「榎本さんはこれからどうされるのですか」

 榎本から注がれる酒を切子グラスで受けながら、歳三は榎本に尋ねた。榎本の出してくれた酒は血の色をした舶来品の酒だった。

「仙台が駄目となった今、私には一つの妙案があるのです」

「妙案?」

榎本のグラスに酒を返しながら、歳三は尋ねる。

「そうです。現在、薩長を官軍と認められない旧幕軍の残兵がここまで来て戦っているわけですが。」

「その通りです。会津も必死に抵抗を続けています。我々も断固戦う次第です」

 歳三は当然のように頷いた。

「戦いの中に身を置いていた土方君がそう思うのは当然でしょう。ですが、少し冷静になって考えてみてください。本来、国を第一に考えるのなら、今、国内で争って良い事は少しもありません。喜ぶのは異国の人間だけです。漁夫の利を狙っている国がそこら中にいます」

 榎本の口から、以前坂本が言った事と同じ言葉を聞いて、歳三の熱くなっていた頭が冷えていく。

「恨みの感情に捕われ戦い続けて、北へ逃げるより、私はこのまま蝦夷に渡っていっそのこと国を一つ作ろうかと思っています」

「…国?」

 規模の大きさに歳三は目を白黒させる。

「薩長の作る国を国だと認められない以上、徳川を支持している者達の国を築いてしまおうかと思っているのです」

榎本はゆるりとグラスを回した。

「そんな事、出来るものなのか?」

(出来ると言うのなら、希望が見えてくるというものだが)

 賊軍の汚名を着せられたまま、討ち死にを覚悟していた歳三が、榎本の案に目を光らせる。

「出来ますよ。向こうは英国が後ろについていますが、こちらは仏国が後ろについてくれています。異国が私達の作る国を国だと認めれば勝算はある」

「勝算?」

「ええ。幸い我々には、開陽を含めた八隻もの軍艦がある。蝦夷は島国で周囲は海だ。新政府軍には戦力になるような軍艦は数少ない。そうなれば新政府軍はおいそれと蝦夷には攻めて来れないでしょう」

「国…か」

(一から出直せば、いつか機会は訪れる)

歳三はかけてみようと思った。そしてやはり榎本を面白い男だと思い始める。

「そうです。土方君も参加しませんか。土方君なら大歓迎だ」

「ですが、俺には学も何もない」

 軍議の席に出てくるような地位の人間は、皆それ相応の学を積んだ人間ばかりなのだ。大鳥にしても博識の高さは凄いもので歳三は感心させられてばかりだった。

「学がないのは、後からいくらでもつけられます。土方君には一番大事な気概というものが備わっている。それに戦う事においては、誰よりも実戦で経験を積んでいる。きっとここに集まった誰にも引けを取らないでしょう」

榎本の忌憚の無い言葉に歳三は照れて赤くなる。だが、学がないのを学べば良いと言ってのける榎本の人間の大きさに、歳三は賭けてみる気になっていた。

「俺も蝦夷に行こう」


 容保や斎藤の安否を気遣いながら、榎本達と供に蝦夷に渡る船に乗ったのは十月九日の事であった。


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