04.魔法を教わります
「うーん。私も、ここまでとは思わなかったわ」
リンダ様が、呆れたように言いました。
しかし今の私には、その言葉に返事する余裕などありません。
私たちの目線の先には、山がありました。
あったはずでした。
※
「さて、今日から魔法を少しずつ教えるわね」
それは、王様と会ってから3日後の朝、いつも通り洗濯物を干し終え、ひと段落がついたタイミングでした。
「はい!」
急いで教わることではないと思っていたのですが、内心、早く教わりたいとも思っていたのでしょう。
自分でも驚くほど、大きな声が出ました。
リンダ様が苦笑しながら、「よろしい」と言いました。
「最初にどの程度、魔力を持っているのか確かめましょう」
そう言うと、王都に行ったときに出した、薄く光る扉をだしました。
「これは『トラベル』という魔法よ。自分のいる場所と別の場所を繋ぐの。これも覚えてもらうわよ」
扉を通り、別の場所に出ました。
出た先は、ものすごく広い平野でした。遠くには山が見えます。
ものすごく、気持ちのいい場所です。
「ここはね、魔女が魔法を練習したりする場所の一つなの。周りには何もいないし、気にせずやるにはもってこいの場所ね」
こんなに広くないとできないことを、練習するのでしょうか。
魔法ってすごいのですね。
「今日は、魔力量を測るだけにしましょう。それから、方針を決めるわね」
そう言って、ポシェットから水晶玉を取り出しました。
ポシェットには、入らない大きさですが、これも魔法でしょうか。
興味深く見ていると、「これは空間魔法を定着させてあるの、リズも作れるようになるわ」と教えてもらいました。
「この水晶玉を使って、魔力量を測るの。この前料理している時に、体から何かが流れているという感覚があるって言っていたでしょう?それと同じようにやってみて。あとは勝手に測定してくれるわ」
リンダ様から水晶玉を受け取ります。びっくりするぐらい軽く、驚いてしまいました。
深呼吸し、料理する時と同じように体の中から何かを流すように意識します。
水晶玉へ流れていくのが分かり、途中から吸い取られる感覚になりました。
すると、私の魔力に反応するように、水晶玉の中心に小さな赤い明りが灯りました。
明りの色が、赤からオレンジ、黄色に変わっていきます。
これが、勝手に測定してくれているということなのでしょうか。
色の変化は続き、黄色から緑、青になりました。
リンダ様は、ジッと見ています。
青が藍色になり、紫を超え、黒になりました。
今度は、明りが大きくなってきました。
すると、リンダ様が水晶玉を取り上げ、遠くに投げました。
軽い力で投げたように見えましたが、水晶玉は見えなくなるほど、遠くに行きました。
「目を閉じて」
リンダ様の言葉に、従います。
次の瞬間、目を閉じているのに分かるほどの光と、これまでに聞いたことのない大きさの轟音が辺りを包みました。
恐る恐る目を開けると、さっきより視界が開けていて、さらに遠くまで見渡すことができました。
そうです。あったはずの山が消えてしまいました。
「うーん。私も、ここまでとは思わなかったわ」
リンダ様が、呆れたように言いました。
5分ほど経ったでしょうか。
少し落ち着いてきました。
「・・・あれは、私のせいですか?」
リンダ様に聞くと、困ったように頭を掻きました。
「いや、目測を見誤った私のミスかな。とりあえず、リズの魔力はこの世界でトップクラスということがわかった」
ポカンとしてしまった私に構わず、言葉を続けます。
「今この世界にある魔法は、どれでも問題なく扱えるわ。もちろん、練習は必要よ?しっかり鍛錬すれば、将来は、おばあ様ぐらいになれると思う」
「リンダ様のおばあ様ですか?」
「ええ。まあ、簡単に言えば、リズは凄いということね」
※
「魔法は色んな種類があるわ。陣や詠唱、珍しいものだと歌わないと発動しないものもあるわね。その全てに共通しているのは、魔力が必要だということ」
「魔道具などの誰にでも使えるものにも必要ということでしょうか」
「そうよ。魔道具には、魔力が補充されているカセットを用いることで、誰にも使えるようになっているの。だから、魔力が必要ということは同じね。ちなみに、家にあるものは、使用者から直接魔力を流すからカセットは使っていないわ」
「魔法ではどんなことができるのですか?」
「理論上、どんなことでも可能よ。でも、発動方法が特殊になったり、単純に膨大な魔力が必要であったりと、現実的ではない魔法も存在するわ」
「例えば、どんなものがありますか?」
「んー、過去に戻る魔法かしら。その人のすべての魔力を消費して、過去に戻るんだけど、歴代最長で30分しか戻れていないの。平均的な魔女が使えば、5分程度しか戻れないでしょうね」
「その方、すごいですね。」
「まあね。それじゃあ、早速簡単な魔法からやっていきましょう」
「はい!」
山を破壊してしまうというアクシデントはありましたが、それ以外は順調に進みました。
リンダ様からも「リズは覚えが早くて助かるわ」と褒められました。
今日は、灯りを手のひらから出す魔法と触れているものが少しだけ軽くなる魔法、反対に触れているものが少しだけ重くなる魔法を教わりました。
お昼頃には家に帰りました。
昼食のサンドイッチを食べながら、今後の方針について、軽く話してくれました。
「最初は、今日みたいに午前中に魔法についての講義や実習をしようと思う。午後は習ったことの復習や疑問をまとめる、まあ、自習かな」
「わかりました」
「あと、初心者向けの本も渡すね。どんどん読み進めていいから」
「はい、ありがとうございます」
こうして、私の魔女の弟子としての生活が、幕を開けたのです。
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