20.一緒に帰りましょう
これで、第一部は完結になります。
ひどい更新頻度のなか、読んでもらいありがとうございました。
第二部も書き進めているので、区切りがついた時点で更新したいと思います。
誰も口を開きません。
部屋の空気が、のしかかるような重さを持っているようです。
「・・・リズ」
村長が耐え切れず私の名前を呼びました。
「これは一体何なんだ。どうして・・・」
私に話しかけているというより、自分を落ち着けるための言葉でしょう。
※
今朝、リンダ様とマイズ様に「村長と話してみます」と伝えました。
リンダ様は心配しながらも、「リズが決めたことなら」と言ってくれましたし、マイズ様には「よく決心したな」と褒めてもらいました。
その後は、あれよあれよという間に話し合いの場が整っていきました。
・・・まさか、当日のうちにできるとは思いませんでした。
マイズ様に驚いたことを伝えると、「こういうのは、早い方がいいんだよ」と言われました。
※
「・・・村長」
私が呼ぶ声に、ハッとして顔をあげました。
「この場は、私の現状を村長に伝えるために整えてもらいました。私の話を聞いてもらっていいですか?」
「それは構わないが・・・」
「ありがとうございます」
今までのことを話しました。
村を出て森をさまよったこと。リンダ様に拾われたこと。魔女になったこと。リンダ様の弟子になったこと。六天祭に誘われたこと。
神様と話したことと、神の使徒になったことは伝えません。それは、事前に決めたことです。
私の話を聞き終えた村長は、深い溜息をつきました。
「・・・大変だったな」
「はい。でも、リンダ様と出会えたので」
「そうだな」と村長が頷きます。
「それで、いつ村に帰ってくるんだ?」
どうして、私が村に戻ってくると思っているのでしょう。
「あの・・・、村には戻りません」
「なぜ?魔女になったのだろう?」
「・・・それと村に戻ることに何の関係が?」
私の言葉に、村長の目が吊り上がりました。
「だから!魔女になったから、自分の故郷を守るために帰ってくるんだろ?」
・・・この人は何を言っているのでしょうか。
「育ててもらった恩を返そうと思わないのか!」
私の理解できないという表情が気に入らなかったのでしょう。村長が大声で怒鳴ってきました。
・・・村長の言葉の意味も、怒っている意味も、私には理解ができません。
私が言葉に詰まっていると、さらに言葉をぶつけてきました。
けれど、そのどれもが支離滅裂で、自己中心的で、私のことを「魔女」という道具としか認識していない発言でした。
怖いという感情ではなく、困惑が先に浮かびます。
村長が息を切らしながら、「私の村に帰るぞ!」と私の腕をつかもうと手を伸ばしました。
今度はその手を、私自身で振り払います。
「・・・私は、村には戻りません。私の帰る場所は、リンダ様のいる場所です!」
「な、なぜ・・・」
村長の戸惑った声がこぼれました。
「話し合いは終わったようだな。貴殿はこちらに来てもらおう」
部屋の隅で様子を伺っていたマイズ様が、立ち上がります。
「わ、私はまだ――」
「いや。もう、話し合いは終わった」
まだ諦めきれない様子の村長の言葉を遮り、部屋の外へ連れ出していきました。
部屋には、私一人になりました。
ふうっと息を軽く吐き出します。
先日のような、恐怖心はもうありません。それより、村長があのような人だったとは・・・。
今まで気付かなかったのは、私が、人のことをちゃんと見ていなかったということなのでしょうか。それとも、村を離れたからこそ・・・。
「――リズ!」
扉が開き、リンダ様が駆け寄ってきます。
「大丈夫?何もされてないわよね?」
心配してくれているのに、そんなリンダ様がかわいらしくて、クスッと笑ってしまいました。
「もう!・・・大丈夫なのね?」
「はい・・・。私、言えました。リンダ様のいる場所が私の帰るところだって」
「そう。・・・帰りましょう。一緒に」
「はい!」
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