02.お買い物についていきます
リンダ様に助けていただいて、一週間が経ちました。
あ。リンダ様は、魔女様のお名前です。
この一週間で、私の心の整理も着きました。
リンダ様が優しくしてくれたおかげです。
何かお返しをしたいという話をしましたが、「そんなのいいわよ。もとはと言えば私が原因なんだから」と言われてしまいました。
お返しになるとは思えませんが、何とか、家事のお手伝いをさせてもらっています。
台所には、見慣れない調理道具や食材、調味料がたくさんありました。
リンダ様に使い方を教えてもらい、料理してみました。リンダ様から「美味しいわね」という言葉をいただき、その日から、料理係に任命させてもらいました。
冷蔵庫の前で、今日の献立を考えていると、リンダ様が2階から降りてきました。
「リズ。ちょっと王都まで買い出しに行くけど、一緒に来る?」
「い、行きます!」
遠いのでは?とは思いましたが、気付けば即答していました。
「それじゃあ、行きましょうか」
「え?あの?宿泊の準備を――」
「そんなのいらないわ」
そう言うと、リビングに色んな模様の入った円が拡がりました。
次の瞬間、円の真ん中に、薄く光る扉が現れました。
その光景に目が離せません。
「さあ、行きましょう」
呆然としている私の手をとり、一緒に扉をくぐります。
※
扉をくぐった先は、壁に設置された棚に、何か荷物が収められ、まるで倉庫のようでした。
本当に、王都に着いたのでしょうか。
だって、村から王都までは、馬車で5日ほどかかるのです。
それが、あんな一瞬でなんて。
「こんな所でごめんね」
「い、いえ。・・・もう王都なんですか?」
「そうよ」
そう言うと、歩き出し、扉を開きます。
すると、ざわざわと人や魔動車が動いている音が飛び込んできました。
我慢できず、扉から顔を出します。
村や隣町とは比べ物にならないくらい活気があり、本当に王都に来たんだと、実感しました。
「どう?驚いた?」
リンダ様が、いたずらに成功した子供のような表情で聞いてきます。
私は興奮し、言葉が出せないまま、首を激しく縦に振りました。
「ふふ。さあ、行きましょう」
高い建物がたくさんあります。あと、道も広いです。お家が建てられるくらい広いです。魔動車が行き交うので、ここまで広いのでしょう。
屋台は少なく、お店の中に入ってゆっくり過ごすカフェが殆どです。なんだか、オシャレな匂いがします。
もう、何でも気になってしまいます。これが、おのぼりさんというものですか。
いつの間にか、リンダ様に手を引かれていました。
「着いたわよ」
言われた方向を見ると、お城でした。
・・・どういうことでしょう?買い出しって言っていましたよね?
あれ?聞き間違いでしたか?
私の混乱に気づかない振りをしているのか、門番に手をあげ、あいさつします。すると、門が開きました。
門番に「お疲れさま」と言って、中へ入って行きます。手は繋がれたままなので、私も中に入ることになりました。
リンダ様は、迷うことなく城内を歩いて行きます。
さっきから誰かとすれ違うたびに、立ち止まって会釈されるのですが、リンダ様が気にせずにずんずん進んでいくので、私の会釈は中途半端になり、居心地が悪く感じてしまいます。
リンダ様にとっては、慣れたことなのでしょう。
けっこう城内を歩きました。
もう、どうやってここまで来たのか、覚えていません。
どこまで行くのかと聞こうとした時、リンダ様が、ようやく立ち止まりました。
目の前の扉を、ノックもせずに開きます。
「いらっしゃい。お茶の準備もできてるよ」
中から、男性の声が聞こえます。
「あら、珍しいわね」
「今日は、お客さんがいるみたいだったからね」
部屋の中へ入ると、一人がけのソファーにこの国で一番偉い人が座っていました。
そう、王様です。
え?王様を買うのですか?
2人が私の方を見て、声を上げて笑い出しました。
「買えるとしても、わざわざ、買わないわよ」
「僕も売りたくはないな」
どうやら、口に出てしまっていたようです。
「ご、ごめんなさい!」
すぐに謝ります。
「いや、構わない。どうせ、そこの魔女さんに秘密にされていたのだろう?全く悪戯も程々にしてもらわねば」
「ごめんね。でも、買い出しも噓じゃないのよ?」
「それで、さっきの発想に至ったのか」
恥ずかしさに顔が熱くなるのが分かります。
「さあ、立ったままでは疲れるだろう。せっかくお茶も用意したのだ」
ソファーに座るよう促されます。
リンダ様が王様に近い位置に座りました。その隣に私も座ります。
王様と同じ空間にいます。
信じられません。
六王の一人にして、勇者。
200年もの間、この国を治めている傑物。
そんな方が、目の前にいます。
リンダ様がカップを口に運びました。
私もそれを見て、紅茶を飲みます。
リンダ様のお家で淹れている紅茶と同じ味がしました。
「お口に合ったかな?」
王様が聞いてきます。
「はい。飲みなれて安心します」
そう答えると、リンダ様の方を見てニコニコしました。
「なによ?」
「いや?それでどうしたんだい?その子を自慢しに来たのかい?」
そう問われたリンダ様が、「んー」と少し考えながら話しました。
「この子ね、魔女なのよ。だから私の弟子にします」
私、魔女だったんですか!?
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