14.この世界は思っていたより平和ではないようです
テル様から「この世界は侵略を受けている」という言葉が出たことに、驚きを隠せません。
この世界では、国同士の争いは起きていません。
もちろん、街の中や商売敵同士のいざこざは起きますが、それも、国の役人が解決します。
それほどまでに、大きな争いとは無縁なのです。
「今すぐどうこうなる、という話ではないよ。大きな争いがあったのも、もう300年ほど前のことだしね」
およそ300年前という言葉を聞いて、一つの出来事を思い出します。
「・・・それは、『ファンシュルの災厄』のことですか?」
「今では、そう呼ばれているね」
『ファンシュルの災厄』。
ファンシュルで起きた大地震のことです。その威力の大きさは、国の大部分の地形が変わるほどだったと言います。
被害も凄まじく、すべての国から救援活動が行われました。それでも、復興までに50年ほどかかったそうです。
「テルが、勇者と呼ばれるようになったきっかけさ」
「勇者なんて、大層なものじゃなかったけどね。・・・あの時は、必死だった。それでも、足りなかった」
キソラ様の言葉に、テル様の表情が曇ります。
「私も当時は、王だった父様に言われて、後方で支援しているだけだった。自分の無力さに呆れたよ」
マイズ様が自嘲気味に鼻を鳴らします。
「ところで、聖樹ヴェルフと移動する聖地エベネイズの役割が何かも教えないとね」
ダイキ様が言います。
「ええと、聖樹はこの世界の空気を循環させて、私たちが過ごしやすい世界を作っているんですよね?エベネイズは・・・、すいません。分かりません」
「謝らなくても大丈夫だよ。まあ、移動しているのが当たり前すぎて、疑問にも思わないよね」
ダイキ様が少しだけしょんぼりしてしまいました。
「聖樹ヴェルフの認識については、空気を循環させる以外だと、魔法を使うための魔素も広げているのと、侵略から守るための魔法も発動しているね」
「そうだったんですか!?」
「そうだよ。あと、僕が移動しているのは、その魔法に綻びがないかの確認と補修が主な役割かな」
「綻びがあったらどうするんですか?」
「僕が聖樹ヴェルフを経由して治すよ。僕しかできないからね」
移動し続けるのは、そういった理由だったのは驚きです。
「私もダイキ様と同じように、綻びを治すことになるのでしょうか」
そうであれば、リンダ様とは一緒に居られないかもしれません。
それは、悲しいです。
「いや。リズが担うのは、撃退する方かな」
その言葉に、不安になります。
「それは、リズが直接戦闘に参加するという認識でいいわね?」
「そうだね」
先程から眉間に皺を寄せていたリンダ様の表情が、更に険しいものに変わりました。
「まあ、神様も言っていた通り、今すぐというわけじゃないよ」
ダイキ様は軽い調子で言いましたが、突然のことにまだ実感が湧きません。
パン!と手の叩く音が響きました。
「さあ!今はお祭りを楽しもうじゃないか。おすすめの場所は抑えてあるんだろう?」
テル様がマイズ様に聞きます。
「当たり前だろ。リズ!行こうぜ!すっげー上手いケーキ屋があるんだ!ほら!リンダも!」
「は、はい!」
「はいはい」
「僕も行くぞ!」
マイズ様に手を引かれ、部屋を後にしました。
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