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貴方の番(つがい)です〜番選定人の受難〜  作者: 結月 香


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6/12

伍:危機

 一方、カティアが大神殿を飛び出した直後、意外な人物が神官長を訪ねて来ていた。


 神官長の執務室に通されたその人は、真剣な表情で訴える。


「私の番はまだ見つからないのですか? 公爵家の跡取りとして、早く結婚する必要があるのです。早急に番を選出していただきたい」


 テオフィルは頭を抱えた。


 目の前にいる赤みがかった金髪に碧眼の青年は、リオネル・マグノリア。マグノリア公爵の嫡男である。

 

 本来ならば、カティアと相性がよく、明日にも番決定通知を発行できるはずだった。

 しかし、ベアトリス王女お気に入りの彼の番が、よりにもよってカティアだと知られたら、ベアトリス王女が何をしでかすかわかったものではない。


「リオネル様の魔力は大変稀少なのです。今しばらくお待ちください」


 努めて冷静にそう答えるが、彼は苛立たしげに机を叩いた。


「いつもそればかりだ! 私ももう二十歳になった! あまり時間がない! これ以上待たせるのならば、私が指定する女性を番にさせろ!」

「いくらリオネル様であっても、番の選定に口を挟むことはできませんぞ」


 落ち着いた、しかし強い口調で断るテオフィル。

 リオネルはふっと鼻を鳴らした。


「私は知っているんだ。二十二歳になっても番が見つからなければ、相性がそれほど良くなくても強制的に番を選定させると!」


 その言葉に、テオフィルは一瞬怯んだ。


 それは事実だ。相性が八割を超える番が見つけられずに二十二歳の誕生日を迎えてしまった場合、八割以下の中で最も相性の良い者を番とさせるのだ。

 だが、それはあくまでも『二十二歳の誕生日を超えてしまった場合』だ。

 リオネルは現時点で二十歳。まだ猶予は二年ある。


 そうなる前に、ベアトリス王女を説得して別の者を番として選定し、納得してもらった上で、リオネルの番をカティアとして決定すれば良い、テオフィルはそう考えていた。

 もしかしたらその間にカティア以外でリオネルとの相性が良い番が現れるかもしれない。


「……ですが、それはあくまでも二十二歳になった時点で番が決まらなかった場合の措置です。リオネル様はまだ二十歳……あと二年ございます」

「その二年が待てないと言っているんだ。今すぐ特例として、早急に跡取りが必要などの事情がある場合はその期限を繰り上げろと」

「期限を繰り上げたとしても、その番の相手をリオネル様が選べる訳ではありませんぞ」

 

 テオフィルがそう言うを、リオネルはふふっと不敵な笑みを浮かべた。


「それは問題ない。この私が鑑定魔法を使って、相手との魔力の相性を見ているからな」

「っ!」


 まさかリオネル自身が鑑定魔法を使えるとは思わなかった。


 だが、鑑定魔法が使えないと神官になれないだけで、鑑定魔法が使えるからといって必ずしも神官にならなければならないという訳ではない。

 特に、貴族の跡取りである場合はそちらが優先されるので、リオネルが鑑定魔法を使えること自体は、おかしなことではない。


「……水晶玉に込めた魔力で相性を見た訳ではないから、正確な数値まではわからなかったが、俺と彼女の相性は少なくとも七割は超えている。何ら問題はないはずだ」

「……こちらでも確認いたしますので、そのお相手の名前を教えていただけますか?」


 テオフィルが問う。リオネルの話が本当ならば、その相手に問題が無ければそのまま番にしてしまっても良いかもしれない。

 彼の魔力との相性が七割を超えているのが事実ならば、実際に番になったとしても大きな問題にはならないはずだ。


「カティア・ヴェルベナ」


 彼が告げた名前に、テオフィルが息を呑む。


 まさか、よりにもよってこのタイミングで彼女の名前が出るとは思わなかった。

 先程の選定担当の話では、カティアとリオネルの魔力の相性は八割超えだったらしい。

 神殿の神官が一度でも番として選定した以上、本来ならばそれを通知すべきだが、今はあまりにも時が悪すぎる。


 テオフィルがカティアの名前を聞いて表情を曇らせたのを、当然リオネルが見逃すはずはなかった。


「……何か問題でも?」


 目を細めたリオネルに、テオフィルは逡巡し、それから小さく嘆息した。


「……カティアは、本日神殿を飛び出し、行方不明となっております」

「……は?」


 予想外の言葉だったらしいリオネルが眉を顰める。

 テオフィルは淡々と、一部の事実だけを伝えることにした。


「実は、とある高貴な身分の方から、自分の番を指定させろという依頼がありましてね。その窓口対応をしたのがカティアだったのですが、当然、番の不正選定は法律に背く行為ですので、カティアは断りました」


 リオネルは黙って話を聞いている。テオフィルは続けた。


「その方は納得せず、脅迫めいたことを告げてきました。それに恐怖したカティアは、神殿から逃げ出したのです」

「それが本当なら、何故カティアを探さないんだ」

「勿論、行方は追っております。鑑定魔法が扱える神官は希少ですからな。しかし、カティアは魔法使いとしても非常に優秀な神官です。本気で姿を眩ませた彼女を見つけ出すのは容易ではありません」


 そう告げたテオフィルに、リオネルが唇を噛む。


「……そういうことですので、今日の所はお引き取りいただきたい。もしカティアが見つかったら、その時魔力の照合を行い、結果次第でリオネル様の番とすることをお約束いたしますので」


 諭すテオフィルに、リオネルは渋々頷いた。


 と、その時。


「神官長! 大変です!」


 一人の神官が大慌てで神官長の執務室に飛び込んで来た。


「こら、来客中だぞ! ノックもなしに……」


 諫めようとしたテオフィルに、神官は引き攣った声を上げた。


「ベアトリス殿下が! 王女殿下がいらしてっ! 大変お怒りで、神官長とカティアを呼べと……!」


 その報告に、テオフィルは思わず額を押さえた。


 同時に、聡明なリオネルは、今の神官の言葉と神官長の反応を見て、先程のテオフィルの話に出てきた『高貴な身分の方』というのが、ベアトリス王女であると悟る。

 そして同時に、もしそうであるなら、彼女の怒りを鎮められたら、カティアが戻って来るのではということに思い至った。


「……神官長、私がベアトリス殿下を諭しましょう。彼女の怒りを鎮められた暁には、カティアを私の番として認めていただきたい」


 リオネルの申し出に、テオフィルは「そんなことは認められない」と咄嗟に言いかけて、しかしふと言葉を呑み込んだ。


 ベアトリス王女が意中の相手であるリオネル本人から、番の不正選定を指摘されて諫められたら、流石に諦めるのではないか。 

 そして、元々リオネルとカティアは魔力の相性が八割以上なので、番となること自体は問題ない。


 彼自身がこの事態を納めてくれるのならば、それは願ってもないことなのではないだろうか。


「……わかりました。ただし、カティアとリオネル様の水晶玉の鑑定の結果が、七割以下の場合は認められません。また、何故ベアトリス殿下が怒っていらっしゃるのかは、リオネル様がご自身でお尋ねいただきますように」

「ああ、わかっている」


 リオネルは満足げに頷き、神官にここへベアトリス王女をお連れしろと告げたのだった。

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