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貴方の番(つがい)です〜番選定人の受難〜  作者: 結月 香


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肆:運命の番

 ルディアスと手を繋いで並んで歩きながら、カティアは自らの生い立ちを簡単に話した。


「……そうか、フルールの神官だったのか」

「うん。今は休職中なんだけどね」


 王女の番選定の不正を断ったせいで、というのは伏せて話すと、ルディアスはカティアの手をぎゅっと握った。


「カティアが他の男と番になる前に出会えて良かった……」

「そう言うルディアスは、結婚とかしてない……?」


 なにしろ獣人族の習慣がわからないが、獣人族の中には一夫多妻が当たり前の種族もいるらしいので、少々心配になるカティアだ。


「していない。俺はシルヴァ族の次期族長だ。嫁選びには様々な決まりがあって、難航していたんだ」

「嫁選び……」

「獣人も、番に出会えるのはごく一部だからな。他の種族であることも多いが、番が見つかれば嫁選びは不要になる」


 それは自分と同じなのか、と考えてふと気づく。


「そういえば、ルディアスの一族はフルール王国に住んでいるの?」


 王国内のどこかに、獣人族の集落があるとは聞いたことがある。

 ただ、獣人は王国民ではなく、集落は自治区のような扱いになっているらしい。


「いや、俺たちはミトラ鉱山の麓に住んでいる」

「ミトラ鉱山ってことは、ラディカ王国民ってこと?」

「いや、ラディカの王族は鉱山にしか興味がないらしく、森の管理はしていない。だから俺たち一族の存在すら知らないはずだ」


 フルールのように、獣人の集落を特別自治区のように指定したりする以前に、存在を知らないというのか。


 驚くカティアに、ルディアスは苦笑した。


「俺たちの一族はあまり人間と関わりたがらないからちょうど良かったんだ」

「え、それなのに私が行って大丈夫なの?」

「それは問題ない。俺の番だからな。皆祝福する」


 聞くところによると、獣人族の間でも運命の番との間に生まれた子はとても強く賢く育つため、一族に繁栄をもたらすとされているらしい。

 そのため、相手が人間であっても、例外的に受け入れるのだそうだ。


 そっか、とカティアが安堵した、その時。


「ルディアスー!」


 誰かが森の向こうからものすごいスピードで走って来た。

 今の声とシルエットで、おそらく少女だと悟る。


「ザリーナ……」


 ルディアスが、少々顔を顰めた。

 カティアは怪訝そうにしながら二人を見比べる。


 と、目の前までやって来た銀髪金眼で犬のような耳を有した少女は、カティアの存在に気付いて心底嫌そうな顔をした。


「人間? ルディアスに触らないで!」


 カティアとルディアスの間に割って入ろうとするのを、ルディアスが軽く手を上げて制する。


「ザリーナ、弁えろ。カティアは俺の番だ」


 そう告げた瞬間、ザリーナと呼ばれた少女が、愕然とした顔でカティアとルディアスを見た。


「つ、番……? まさか、人間が、ルディアスの……?」

「そうだ。そうでなければ村まで案内などしない……念のために言っておくが、俺の番に何かしたら、俺を敵に回すと思え」


 冷たい声色で言い放ったルディ明日に、ザリーナは青褪めてよろけた。

 そして敵意に満ちた目でカティアを睨みつけ、踵を返す。


「……嫌われちゃったみたいね」


 思わず呟いたカティアに、ルディアスが申し訳なさそうに眉を下げる。


「不快な思いをさせてすまない。ザリーナは、俺の嫁候補だったんだ」

「ああ、なるほど……」


 あの様子では、ルディアスのことが大好きで、ルディアスとの結婚を夢見ていたのだろう。

 それを、ぽっと出の人間に奪われたとなれば、心中しんちゅう穏やかでいられないのは仕方ない。


「流石に、俺の番に手を出すような馬鹿ではないと思うが、一応気をつけてくれ」

「わかった……ところで、さっき嫁選びが難航していたって言っていたけど、他にも候補が当たってこと……?」


 カティアが尋ねると、ルディアスは苦虫を噛み潰したなうな顔をした。


「次期族長の嫁の条件は、最も強い魔力を有していることなんだが……」

「うん?」


 そこで違和感を覚える。

 その割に、先程の少女からはそれほど強い魔力は感じなかった。

 獣人と竜人に共通することだが、そもそも人間より魔力の保有量が多い。ただ、あくまでも個体差があり、獣人の中にも人間より魔力が弱い者もいる。

 

 ちなみに、獣人は魔力をそのまま身に纏って攻撃や防御を行うが、基本的に魔法は使えないとされている。


「ザリーナはそもそもあまり魔力が強くないんだ。俺と年齢が釣り合う女の中では最弱だった」


 それなら候補から落ちて終わりではないのだろうか。

 カティアはそう思いながら話の続きを待つ。


「だが、ザリーナは長老の孫娘で、血統的には問題ない……孫を溺愛する長老は、ザリーナを俺の婚約者候補にゴリ押しして来たんだ……当然、他の魔力が強い娘を持った家が大反発、揉めに揉めて、なかなか決まらない状態が続いていたんだ……でも、そのおかげで未婚のままカティアと出会えたと思えば、あの状況にも感謝しないとな」


 ふっと微笑むルディアスが眩しい。


「……正直、他の嫁候補の連中は、番が現れたと聞けば身を引くと思うが、ザリーナだけはそうも思えん。長老に泣きついてしきたりを捻じ曲げようとしてくる可能性もある」

「そんなことできるの?」

「現族長が認めればしきたりも変わる……流石に、一族にとって利にならないことを認めるとは思えないが……」

「長老と現族長とルディアスは親子とか親戚ではないの?」

「ああ、シルヴァ族は代々一番強い者が族長になるんだ。長老は先代の族長だが、現族長とは血の繋がりはないし、俺と現族長も親戚じゃない」


 へぇ、とカティアが感心したところで、ルディアスは足を止めた。


「この先は道が険しくなる。それにまだ距離もあるから、抱き上げていく。いいな?」


 許可を取ってくれるあたり尊重してくれるのが伝わって、カティアはくすぐったい気持ちになった。

 抱き上げられるのは恥ずかしいが、心のどこかで、もっと触れたいと思っている自分に驚く。


「わ、わかった……」


 戸惑いながら頷くと、ルディアスは軽々カティアを横抱きにした。


「お、重くない?」

「本気で言っているのか? 軽すぎて驚いたくらいだ。獣人の筋力を舐めるな」


 少々心外そうに眉を寄せたが、ルディアスは気を取り直して「行くぞ」と、呟き、地面を蹴ったのだった。

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