壱:番の選定
フルール王国の王都カリクスの中心地に聳える、大神殿。
そこに、数十人の市民がやって来ていた。
今年十五歳になった少年少女と、一枚の紙を握り締めている若い男女たち。
「魔力の測定は大聖堂で行いますので、順番にこちらへ。番の決定通知をお持ちの方は、応接室に順番にお呼びしますので、中の廊下でお待ちください」
若い神官見習いが声を張り上げて市民を誘導する。
この大神殿には五十人ほどの神官と神官見習いが在籍していて、魔力の測定や相性の鑑定は『鑑定魔法』と言う特殊な魔法を使いこなせる正神官が対応し、それ以外の市民の誘導は神官見習いが行っているのである。
「……カティア、今大丈夫か?」
同僚に呼び止められ、淡い金髪とアメジスト色の瞳を有する女性神官、カティア・ヴェルベナは振り返った。
「うん? これから測定だけど……」
大聖堂で国中の十五歳の少年少女が特殊な水晶玉に魔力を込め、その魔力の測定は後日行うが、日々水晶玉が増えていくので、神官は毎日大忙しである。
ちなみに、十五歳で魔力を測定するが、番が決まるのは平均的に二十歳前後である。
「……ベアトリス王女の遣いが、お前指名で来ているんだけど……」
言い辛そうに告げる同僚神官、レナト・アセリアに、カティアは心底嫌そうに顔を歪めた。
「……行ってくる」
王女の遣いを無視する訳にはいかないので、カティアは重い足取りで応接室へ向かった。
ノックして入ると、ここ数日ですっかり顔なじみになった王女の侍女がいた。
「お忙しいところ申し訳ありません。カティア様」
侍女は一礼する。
忙しいとわかっているならもう来ないでほしいんだけど、と思いつつ、カティアは向かいの席に腰を降ろした。
「ご用件は? 先日の御依頼でしたらお断りしたはずですが」
「そこをなんとか……! 応じていただけないと、私がベアトリス様に罰せられます!」
侍女は何かに怯えたように訴える。
「しかし、意中の相手と番にしろ、だなんて、王族が番制度の根幹を揺るがすようなこと、市民にバレたらとんでもないことになりますよ」
そう、先日この侍女が申し入れてきたのは、第一王女ベアトリスが、お気に入りの貴族である公爵家の嫡男、リオネル・マグノリアと自分を番として認定しろ、という内容だった。
意中の相手と番になれるように不正してほしいと、金を積んでくる貴族は定期的に現れる。
しかし、それを始めると制度の根幹が揺らぐ。
仮に言われるがまま番を決めたとしても、二人の間に生まれた子が魔力を持たなかったら、選定した神官が疑われ、あっという間に不正が露見することになるだろう。
そうなれば市民の信用は失われ、王家の威信にも傷が付くことになる。
まして、この制度を始めた国王の末裔である王女が、そんなことをしていい訳がない。
「お引き取りください。私は断じて、不正など致しません」
厳しく言って、カティアは席を立った。
魔力の測定を行う神官に必要なスキルである『鑑定魔法』は、潜在魔法と呼ばれ、才能が無ければどれだけ努力しても習得できないとされている。
逆に、この魔法が使いこなせれば神官としての地位を約束され、一生食うに困らないといわれる一種の才能である。
貧しい家に生まれ育ったカティアは、自分にこの才があったおかげで神官になり、家族を救えたため、絶対に職を失う訳にはいかないと考えていた。
番の不正選定などしようものなら、露見した時点で失職は免れない。
不正で失職した神官など、その後仕事を見つけるのは困難となるだろう。
「……たとえ多額の報酬を貰ったって割に合わないっての」
ぼやきながら、カティアは足早に測定室と呼ばれる水晶玉の保管庫へ向かうのだった。
魔力を測定して相性を測定する鑑定魔法も、番制度が始まって百年の間に随分と効率化が図られた。
特に、二年前に新しい魔法道具が導入されてから、各段に鑑定ペースが上がった。
それまで、毎日大量に追加される水晶玉を個別に鑑定して、相性の良い水晶玉を探し出すという方法を取っていた。探す対象が十万個近くあるので、当然時間もかかり、未鑑定の水晶玉は溜まる一方だった。
今では、保管庫の棚自体が魔法道具となっていて、鑑定魔法の効果を増大し、対象の水晶玉と相性が八割以上で最も高いものを選び出して手元に転がしてきてくれるようになった。
しかも三人の神官が同時に起動できるので、この魔法道具を導入してから、神官の残業時間が格段に減ったのだ。
しかしそれでも、常時十万個近い水晶玉がある保管庫のうち、まだ効率化が図れるようになる前から溜まっている未鑑定の水晶玉が数千個残っているのと、かつて神官が保管庫内を動き回って相性の良い水晶玉を探していた時は見逃しが少なからず発生していたので、定期的な再鑑定も必要なため、まだまだ鑑定対象は沢山あり、カティア達神官は、日々鑑定魔法の行使に当たっていた。
この大神殿に所属する神官は、神官長が一人、大神官が五人、神官が十八人、神官見習いが三十人、計五十四人だ。
そして鑑定魔法を行使して日々鑑定に当たり、決まった番同士の初顔合わせに同席するのが十八人の神官。
神官見習いは基本的に雑務と、鑑定魔法の精度を上げるための訓練を受けて毎日を過ごしている。
大神官は神官を纏め、鑑定スケジュールを出したり、神殿の運営に携わり、神官長は大神殿の代表として国王と連携を図っている。
カティアは一度深呼吸をしてから、未鑑定の水晶玉を手に取るのだった。
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