終:決断
その後、カティアは一度ルディアスを伴い実家へ戻り、運命の番が見つかったことを両親に報告し、大神殿にも立ち寄って、神官長にことの経緯を話し、改めて神官を辞することを伝えた。
「……本当に、良いのか」
神官の証であるペンダントを机に置いたカティアを、椅子に座ったまま神官長が見上げた。
「はい。私は、ルディアスと一緒に居たいので」
そう答えたカティアの表情に、迷いはなかった。
カティアは、ルディアスの村で共に生きることを決めたのだ。
この選択をする前に、ルディアスはカティアの意思を尊重すると言ってくれた。神官を続けたいなら続けて構わないと。
その上で、自分にはシルヴァ族の次期族長としての使命があるから村を離れる訳にはいかない。
たとえ離れ離れになっても、魂が繋がっているから大丈夫だと。
でも、物理的に離れて暮らすことを考えると、カティアの胸がとにかく痛んだ。
身を引き裂かれるような、片割れから無理矢理引き離されるような気持ちだ。
今まで何故離れていて大丈夫だったのかわからないくらい、それは不思議な執着と依存の感情だった。
「一生をシルヴァ族の村で過ごすかどうかは、正直まだわかりません……でも、今は、ルディアスとお互いを理解するために時間を使いたいのです」
傍から聞けば、恋人ができたばかりで浮かれた若者の戯言に聞こえるだろう。
しかし、それは紛れもなくカティアの本心だった。
それを聞いたテオフィルが、一度大きく嘆息した。
「……わかった。運命の番が見つかった以上、引き離すことこそ法に触れる……だが、その集落の場所がラディカ王国の領土内というのが問題だ」
「……はい」
「番制度で、何故運命の番が見つかった場合に、その制度が免除されるのか、それは当然理解しているだろう?」
「……はい」
当然だ。カティアは神官だったのだから。
「運命の番同士の親から生まれた子は、確実に強い力をもつ……将来は確実に優秀な魔法使いになる。その優秀な魔法使いを確保したいがために、国が定めたのが番制度だ……それが隣国に渡ることを、当然国王陛下はよしとしないだろう」
それはカティアも理解している。
「運命の番を見つけたカティアがシルヴァ族の集落で暮らすということを国王陛下がお聞きになったら……近い将来、お前達二人にフルール王国に戻るように、もしくはシルヴァ族の集落自体をフルール王国内に移すようにと命じられるかもしれん……それは覚悟しておいた方が良い」
「わかっています」
それは承知の上だ。
その時は、自分だけがフルール王国に戻ってもいい。
今は、今だけでも、離れたくない。
それが今の素直な気持ちだった。
それに、自分が運命の番を見つけた以上、国が連れ戻そうとするのはわかるが、運命の番に子供を産んでもらわなければ元も子もないのだから、国王とて手荒な真似はしないだろう。
神官長と話を終えて神殿を出る時、カティアの同僚神官であるレナトと鉢合わせた。
「カティア! 戻って来たのか?」
ぱっと表情を明るくした彼に、ルディアスが僅かに眉を寄せる。
「ううん、神官は結局辞めることにしたの。運命の番と出逢えたから」
「……え?」
驚くレナトに、カティアはルディアスを紹介する。
「私の運命の番、獣人のルディアスよ。ルディアス、彼は私の神官仲間だったレナト」
無言で首肯するルディアスに、レナトも軽く会釈する。
「……そうか、カティアは運命の番と出逢えたのか……良かったな」
「うん。ありがとう。それで、私はルディアスの村に住むことにしたの……ああ、レナトの結婚式には出席するから、招待状は私宛に飛ばしてね」
通常結婚式の招待状は配達人によって郵送されるが、特殊な事情がある場合などは、転送魔法を使って本人に直接飛ばすのだ。
「わかった」
レナトが妙に切なげに頷いたので、怪訝に思いつつ、カティアは彼に別れを告げて神殿を出た。
隣を歩くルディアスがずっと無言で、何故か不機嫌そうな様子なので、カティアは首を傾げた。
「ルディアス?」
「……カティアの意思を尊重すると言ったが、神官を辞めてくれて良かった。あの男、カティアに気があるのが丸わかりだ……あんな男が近くにいると思うと、許せん」
「ええ? レナトが? そんな訳ないよ。レナトにはもう番も決まっているし……」
「運命の番じゃないんだろう? なら、心のうちはわからん」
レナトはいつだって優しかった。だが、それはカティアが特別な訳ではなく、誰にでもそうだった。
だからカティアは気付かなかった。彼が自分を見る目が、他の誰に向けるものよりも優しかったことに。
だが実際、レナトとカティアの魔力の相性はそれほどよくなかった。
それを自覚していたレナトは、想いを口にすることはなく、他の神官によって選定された番と結婚することを受け入れたのだ。
それは、カティアが知りえない真実だった。
「……ルディアスも嫉妬とかするんだね」
なんだかそれが少しだけ嬉しいと思ってしまうカティアだ。
「当たり前だ。獣人は番を何よりも大事にする。その番が、他の男に言い寄られているなど、考えるだけでも怒りが湧く」
言いながら、ルディアスはカティアの肩を抱き寄せる。
「カティアは俺の番だ。嫌だと言っても、絶対に離さないからな」
「うん。私はルディアスの番だもん。私だってルディアスを離さないよ」
同じことを言い合って、ふっと笑みを零す。
「……帰ろう。俺達の家に」
「うん」
カティアは、ルディアスの手を取って歩き出した。
人間と獣人の番は珍しい。
これからも困難はいくつも訪れるだろう。
まだカティアは




