表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/72

【拾壱ノ伍】

作:アンジュ・まじゅ

絵:越乃かん

 それでね、あなたに終わらせてもらうことにしたの。この村に広がったおおかみたちも。妹のあゆみ先生も。そして、私も。


 ……人間として、殺して欲しかった。


 そんな事が出来るのは、新月の力を持って、おおかみの力ももって、そしてヒトとして育った、ゆうちゃん。あなたにしか出来ないと思った。

 だから、誘拐を自演したの。ベルベッチカちゃんですらわからなかったみたいだけど、上町のあのお家で襲ってきたのは、私が単に後ろからゆうちゃんを()()()()()だけ。うふふ。我ながら上手くいったでしょ。ゆうちゃんは本当によくやってくれたわ。

 クラスメイトに、商店の人、村役場の人。おおかみをみんな食べてくれた。

 ベルベッチカちゃんとの融合も果たしてくれて。

 そして今。こうして私を殺してくれた。


 もう、じゅうぶん。もうじゅうぶんよ、ゆうちゃん。私はじゅうぶん、もう生きた。さあ。


 ……


「さあ、あとは、この首を潰すだけ」


 ゆうはハッとした。


「簡単よ。あなたの両手で、力を込めるだけでいい。そしたら、この長い長い呪いに帳尻を合わせられる。あなたも、沙羅ちゃんも、この村から自由になれるわ」


 ゆうはお母さんの目をじっと見つめた。


「さ、お願い。ゆうちゃん。私、そうしないと死ねないの」


 その時。ふと、ベルの言葉が頭に浮かんだ。


『これで、私はもう、大丈夫。きみの中で生きることにした』

『娘よ、私のこの世でいちばん大切な、エレオノーラ』

『私を、残さず食べるんだ。そうすれば、私の全てが愛しいきみ。きみに宿る。力も、心も』


「お母さん、僕、お母さんを食べるよ」


 お母さんは、信じられない、という顔をしている。


「ベルが、身を以って教えてくれた。お母さんも、僕の細胞の隅々に行き渡らせて、生かすんだ」

「でも、そんなことをしたら、ヒトに戻れなくなるわ」

「いいんだ。僕にとっては、ベルもお母さんも、お母さんだから。お母さんから貰った愛は、全部僕が受け止めたい。……そして、僕がこの村の新しい始祖(オリジン)になる」


 お母さんは息子の名を呼びながら、ほっぺたを涙でぬらした。


「まだ……私をお母さんと呼んでくれるのね」


 当たり前じゃないかと、ゆうは笑った。


「お母さん、はお母さんだよ」

「ありがとう……ねえ、いつものちゅう、させて?」


 お母さんはねだった。ゆうは涙を浮かべた笑顔で答える。

 もちろんだよ、と。そう言うと、お母さんの唇を自分のおでこに当てた。


「愛してるわ。ゆうちゃん」

「僕もだよ。お母さん。……さようなら」


 それから、数時間かけて、噛み締めて。喉に詰まらせないようよく噛んで。ゆうは……髪の毛一本、血のいってき残さずに。お母さんを食べ尽くした。

 相原静の舌の味は。

 どんなヒトより寂しがり屋で。どんなヒトより、甘えん坊な……

 ……お母さんの、味だった。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ