表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/72

【拾壱ノ壱】

作:アンジュ・まじゅ

絵:越乃かん

 ベルベッチカだったチリは、吹き消されて消滅した。


 三十二歳。スレンダーで、黒髪のポニーテールに白のTシャツ、細身のジーパンが良く似合う。左目の火傷のあとは、遊郭に火を放った時のものだ。おかげで百年以上屋敷にこもることになった。

「姉」は……いや、相原静は深いため息をついた。


(やはり、私の望みなど、叶うことは無いのね。……永久に)


 恐れていたことが現実になり、その事に深く絶望した。

 それならばやることはひとつ。ぴきぴきぴきぴき……右手を、日本刀ですら切断する爪に変形させる。そして、催眠をかけられ虚ろな目をする沙羅の首筋に当てた。


「ごめんね、沙羅ちゃん。大好きだったのよ」


 爪がくい込み、白い肌に一筋、赤い線が引かれる。


「あっちでも、ゆうちゃんと、仲良くね」


 あとは、この爪を十五センチ横に引くだけ。それで噴水みたいに血を吹いて、この子は死ぬ。

 それだけ。それだけなのに。


(なぜ。なぜ、出来ない? ……私はオリジン。おおかみたちを束ねる最強の始祖。私に成し遂げられないことなど、ないはず)


 静は、逡巡していた。


 数瞬後、夕暮れの教室の中で風が吹き始めた。窓を見る……きちんと閉まっている。

 と、いうことは。静は、すぐにピンと来た。

 ごおおおっ! 風はたちまち黒い竜巻になり、教室の壁に貼られた習字の紙がちぎれ飛ぶ。

 静は、右手の衝撃波で、ベルベッチカの身体を原子レベルで消し飛ばした。文字通りチリに還したのだ。だがそれが今、チリから()()()()()()()が始まっている。そんな芸当が出来るのは、たった一人しかいない。

 ベルベッチカの力を得た、静の息子、ただ一人である。

 ごおおおおおおお──!

 竜巻はやがてひとりのヒトの形を得て、ゆっくりと立ち上がる。


「そうよ……そうよゆうちゃん! それでこそ私が育てあげた、破壊と破滅のこどもだわっ!」


 数万ボルトの稲妻のような、腰まであるブロンドヘア。深海を見てきたかのような、深い青い色の瞳。ベルベッチカがいつも着ていた、水色のリボンの白いワンピース。

 その姿は、新たに生まれ変わったベルベッチカ・リリヰそのもの。

 相原ゆうはベルベッチカの全てを受け継いで、チリから再生し、そして復活した。


「お母さん。今戻ったよ」

「うふふ。おかえり、ゆうちゃん」


 静はまるで学校から帰ってきたこどもに声をかけるかのように、ごく穏やかに、ごく自然に声をかける。だが内心は、喜びに溢れていた。


(これから。これから私の願いは、叶うのね)


「お母さん。いや、お姉さんのオリジン。倒すよ。あなたを」

「いいわ。それでいいのよ。……さあ。さあ!」


 静は両手を広げて叫んだ。


「最後の戦いよ。倒してみなさい。お母さんを」


 とても、とても嬉しそうに、笑った。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ