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【玖ノ陸】

作:アンジュ・まじゅ

絵:越乃かん

 新月の耳が悲鳴を捉えた。沙羅ちゃんの声をほんの僅かだがたしかに聞きとった。たしかに、境内に続く階段のいちばん下に座っていた。ベルベッチカ・リリヰがそこに駆けつけるまで、三秒もかかっていないはずだ。さすがのオリジンも、痕跡を消しきれていない。においが、残っている。


(新月の目起動……追跡開始)


 沙羅ちゃんが声を掛けられている。


「さ……しい……」

(寂しい? か……)


 オリジンがヒトをおおかみに引き込む時、よく使う言葉だ。実際にそう言っているわけではない。孤独で惹き付けられやすいヒトには、都合のいい言葉に変換されてそう聞こえるのだ。


(一秒後、みぞおちに打撃……肋骨が一本骨折。五メートルの高さへ飛ばされる。同時に跳躍。上空で沙羅ちゃんの首筋を掴む)


 ベルベッチカは隣の太いケヤキを見る。


(首を掴むと同時にケヤキの幹を蹴る。そのまま、階段を全て飛ばして階段上の道へ着地……追跡ロスト。新月の目、起動終了)


 間に合わない訳だ。声をかけてから、神社の外に行くまで二秒しかかかっていない。三秒後に駆けつけた時には、一キロは離れていただろう。でも、においをたどれば、追跡できる。オリジンが本当にあゆみ先生なら……学校だろう。


 社務所に神速で戻った。

 おじいさんがツテで用意した拳銃を取り、銀の弾丸を装填して、残りの五発に銀メッキの弾丸を装填した。銀の弾丸が、一発目に来るように弾の順序を整えた。

 いつもの白ワンピースにはポケットがないことに気づく。おじいちゃんの部屋を見渡すと、沙羅ちゃんの学校の制服がある。それに袖を通した。やや大きいけれど、問題ない。グレーのジャンパースカートの制服。着るのは何ヶ月ぶりだろう。ほんの数週間しか着ていないはずなのに、とても懐かしい。スカートのウエストベルトに、拳銃を差し込んだ。

 社務所の事務室に居た沙羅ちゃんのおじいさんを呼び、孫娘がさらわれたと伝える。とても驚いて声を大きくするが、冷静に努めた。


「私が、取り戻してくる。……大丈夫。この村の大半のおおかみを食べてきた。私の目算が正しければ、五分以上に立ち回れるはずだ。銀の弾丸も持った。どうかご安心を」

「あ、ああ……どうか、どうか……沙羅をよろしくお願いするよ」

「すまないね……私の因縁に、お孫さんを巻き込んでしまって。……沙羅ちゃんは死を賭してでも必ず取り戻す。最善を尽くすよ。おじいさんは、どうか、この結界の中で、待っていて欲しい」


 そう告げると、ベルベッチカは社務所を出た。


(新月の目、再起動……わかるぞ、オリジン。お前が残したにおいが……)

「待っていろ、今日こそケリをつけてやる」


 そうつぶやくと一歩で三十メートル先の階段まで飛び、次の一歩で階段を全て飛び越え、神社前の道に着地した。そして、百メートルを二秒で駆け抜ける脚で、学校を目指した。

挿絵(By みてみん)

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