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【伍ノ陸】

作:アンジュ・まじゅ

絵:越乃かん

 丸い形の蛍光灯が大小二重に光っている。上質な木材であしらわれた天井。

 和室に寝ているが、ゆうの家ではない。


「お母さん……お母さんはっ? いたたたた……」


 身体を起こすと、左胸にずきんっと鋭い痛みが走る。


「アバラが折れとる、病院に行かねば。横になってなさい」


 沙羅のおじいちゃんが言った。ここで初めておじいちゃんの家だとわかった。


「どうだっていいです、お母さんはどこ?」


 クセのあるブロンドヘアは、身体を起こしてもなお布団に接するほど長い。青い瞳は、まっすぐ、沙羅のおじいちゃんを見ている。全部、ほんとのお母さんからもらったものだ。


「お父さんが見た時はもう、お前しかいなかった」

「そうなんだよ。あの場にいたのはゆうくんだけ。私らにはわからんのだ」


 ゆうくん。この姿を見てもそう呼んでくれるおじいちゃんの心遣いが嬉しかった。


『私が話そう。愛しいきみ。みんなに伝えておくれ』

「あ……ベルが……ベルべッチカが、みんなに伝えたいそうです。えと……あの時、僕は始祖におそわれたみたいです。僕も新月の目を開いて戦ったけれど。えと、圧倒的な力の前に、何も出来ずに負けたみたいです。僕のお母さんとお腹の赤ちゃんは……始祖に、さらわれて、今はどこにいるか……わからないそうです」


 ベルの言葉を伝えながら、ゆうは、目に涙があふれてきた。

 おじいちゃんは嘆いた。そして何秒かして、聞いてきた。


「ベルベッチカに聞いて欲しいんだが、始祖が誰か見たのかい?」

「えと、新月の目でも見えなかったそうです」

「そうか……やはり始祖は『我々では認識できない』のだな」

「どうすれば母さんを……静を取り戻せるんです?」


 お父さんが食い気味におじいちゃんに聞いた。


「始祖を……倒すしか、ないだろう」

「だけど今のゆうちゃんじゃあ、倒せないんでしょ?」


 沙羅が素直に感じたことを言う。ゆうも、素直に認めた。


「……うん。今の僕じゃ、手も足も出なかった」


 ……おじいちゃんが重い口調で口を開いた。


「始祖を……弱めることが出来れば……そうすれば、倒せるかもしれん」


 どうやって、とみな口々におじいちゃんに聞いた。


「おおかみたちを殺すのだ。おおかみたちは、始祖の手先。それら全てを殺すことができればあるいは……それにゆうくんの願いも叶えられる。ベルベッチカの再生だ。……だから、君にしかできない。君が、クラスメイトや村人たちを、殺すんだ」


 ゆうは自分の両の手を見た。


「殺す……僕が。……もうそれしか、残ってないんですね」

「そうだ。君が、この村に終止符を打つんだ」


『やろう、愛しいきみ。私がついているよ』


 みなが、ゆうを見ている。

 ゆうは答えた。そしてそれが、この村の()()()()()()ヒトの反撃ののろしだった。


「……わかりました。僕が、殺します。おおかみを。みな」

挿絵(By みてみん)

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