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と言っても、正面から侵入できるわけもなく、私達は裏口からコッソリと()を使って忍び込んだ。


途中で、捕らわれていた騎士達も合流し、なんの問題もなく要塞を制圧できた。 はずだったのだが……。


(ふくろう)から、姿が見当たらなかった隊長が、一人雪原を歩いている。と連絡が入った。

そして、彼の遥か前方には武装した一軍がいるとも。


(隊長が部隊と合流する前に、叩かないと)

そうすれば作戦は失敗となり、部隊は撤退するだろう。 そうなって欲しい。


「隊長が見つかったわ。 他の部隊と合流する手筈みたい。 私、行ってくる」


一人では危ないと止められたが、タイミング悪く道標の()からも連絡が入った。


―――武装した一団が、通りすぎた。


方角的に、ミゲル達の待ち受ける切通(きりとおし)へと進軍しているようだった。


せめて自分達の中から、一人だけでも連れていってください。と、ペルラの騎士達に懇願されたが、今ならまだ()()()()を叩けばよい。 まだ、いける。


私は、仲間の制止を振り切り、駆け出した。


自信があった。 ()もいる。 兄と戦場で駆け回った経験もある。 負ける気がしない。



※※※


「お嬢様! 無茶です!」

「お戻り下さい!」


窓から乗り出すようにペルラの騎士達が声を張り上げていた。

ルカスが窓の外を覗くと、雪原の上を何かが滑るように駆け抜け、消えていった。


「どうしたのだ、何があった?」

不思議そうに尋ねるルカスに、騎士達が答える。

「お嬢様が、隊長を止める為に一人で向かってしまった。 私達はミゲルの応援に行かねばならないし、どうすれば良いのか……」


ルカスは憤る。 この悪天候の中、女一人で手練れの傭兵に勝ち目があるわけがない。

思わず声を荒げてしまったが、今は時間が惜しい。


「隊長が言った通りだ。 あの女はでしゃばりだから、一人で追いかけてくるってさ」

突然、捕らえた反乱者の一人が(あざけ)る。 まるでそれを狙っているかのような物言いだ。


「隊長は、あの女を手土産に隣国の貴族になるんだと。 そんで、俺たちを騎士にしてくれるって」

「そろそろ、あの女は血祭りにあがってるんじゃないか」

どっと、笑い声が上がった。


「―――黙れ」

ルカスの剣が振り下ろされ、静寂が広がった。 一瞬の出来事だった。


彼は剣の汚れを、反乱者の衣服で拭き取り、鞘に納めた。そして、静かに告げた。

「私が彼女を追いかけよう」

ルカスは決めた。 彼女を守る、と。


急ぎ彼らは騎馬に乗り、慣れない雪道を駆け出した。 一人は雪原を、もう一つの集団は街道を。


※※※


()に乗り、風のように移動していたエレンの目が、隊長の姿を雪煙の中に見つけた。


敵部隊と合流する前に、見つけられた事をよろこんだ。 これで、最悪の危機は避けられた。


しかし、近付くにつれ、異様な違和感を感じていた。 その理由は、直ぐに分かることになる。

彼は、()()を向いていたのだ。 私を待ち構えていたのだ。


慌てて()から飛び降り、隊長の一撃を交わした。


「奥様、人質になって欲しいんですけど。どうですかね」

彼は剣を交えつつ嘲笑い、そして、イカれた提案をしてきた。

「私は人質にはなれないわ。 だって、重宝されていないもの」

本当の事だ。 きっと黒バラ様は、私を見殺しにする。 間違えても、侵略を許さない。


「じゃ、あんたを手土産にして、貴族にしてもらうか」

そう言いながら振り下ろされる剣は、重みを増してくる。

雪に脚を取られる事もあり、思うように身体が動かない。 寒さのせいもあるのだろうか。


かろうじて攻撃を交わしているような状態だった。 こんな筈ではなかった。 皆の忠告を聞けば良かった。


そして、肩に痛みを感じた瞬間、弾き飛ばされ雪に埋まった。 急ぎ立ち上がろうとするのだが、隊長の剣は猶予を与えない。


いつの間にか雪は止んでいて、雲が晴れていたようだ。 隊長のギラつく瞳が、雪明かりのせいでハッキリと見える。 彼の後方には、空高く静かに輝く下弦の月………。


彼の剣を、必死に自身の剣で押さえるのだが、段々と刃先が近付いてくる。 波紋がキラキラと煌めいていた。

首筋に冷たい刃先が当たるようになり、彼の呼気が顔にあたる。 彼の全体重を身体に感じていた。


(もう、駄目だ。 なぜ、私は大丈夫だと思ったのだろうか………)


その時、急に「ゴホッ」という声と共に、彼の瞳の輝きが無くなった。 口端から血泡が飛んだ。

そして、力が抜けたように、ゆっくりと私に覆い被さってきた。


「大丈夫か?」そう言って、私を見下ろしていたのは黒バラ様だった。


差し出される手をそのままに掴むと、ゆっくりと引き起こされた。

私は驚きで声が出ない。 『目がパチクリする』というのは、このような状況なのだろう。


「なぜ………」口をついて出たのは、そんな言葉だった。

「なぜ、私を助けるのですか? 私を憎んでいるのでは?」

そう続く筈の私の質問は、音に成ることなく儚く消えていった。


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