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動揺が皆の間に広がる。 想定外の出来事だった。

考え得るのは、要塞にいる兵士の裏切りか内通。 元より、流れの傭兵上がりなのだから、報酬に釣られ裏切る事は想定内だった。


だから、より信用のおける傭兵上がりの部隊を配置した()()()だった。

それに、ペルラ侯爵領から連れてきた騎士達も数人いた。 彼らが裏切る筈がない。

もし、要塞で異変があれば()から連絡がある筈だった。


私は最悪の事態を想像し、両手を強く握った。


「今現在、要塞の裏切り行為は確認できているのか?」

黒バラ様が、腕組みをしながら私に確認する。

「いえ、異変があれば()が飛ぶ手筈になっています」


しばし沈黙の後、黒バラ様が提案した。


現在の情報で確認できるのは、何者かが領内に侵入していること。 それなのに、要塞は動いていないこと。しかしながら、裏切り行為は確認できていない事。


「あっているか?」

問われた私は頷いた。


「ならば―――」と黒バラ様は続けた。

このまま、最後の中継地まで行き、その時点で要塞の裏切り行為が確認できれば、取って返しゲオルクで防衛を図ると同時に、王都に応援を頼む。


裏切り行為が確認できなければ、二手に分かれ、要塞の状況確認と、切通(きりとおし)での防衛を図る。


「あなたの他に、()を扱える者は?」

彼の問に護衛騎士のミゲルが手を上げた。

「ならば、要塞には私達二人が向かい……」と言いながら、黒バラ様は私を指差した。


切通(きりとおし)には、君たちが向かって欲しい。 何かあれば()で連絡を」

その言葉で、オスカー達とミゲルは自警団達のグループに向かった。


「いや、オスカーはゲオルクに戻ってもらおう。 万が一の為に騎士団の出立の準備をしてくれ。 向こうにも()を扱える者はいるのだろう?」

そう言うと、黒バラ様は私の顔を覗き込む。

「えぇ、ローザが扱えます」


にこやか微笑むと、黒バラ様は(とき)の声を上げた。 一瞬で場がまとまる。 さすがだ。


※※※


私は黒バラ様と共に、要塞へと馬を走らせていた。


結局、要塞からも、他の道標の()達からも連絡は来なかった。

要塞の兵士達が裏切っていたとしても、要塞からは出ていないのは確かだった。 一番近い道標からも連絡が来ていない。


唯一考えられるのは、騎士達が監禁されている状況だ。 それも、()に気付かれる事無く。 よっぽどの手練(てだ)れの仕業になるが、彼らなら問題なくやってのけるだろう。

それだけ優秀な傭兵を、率いれたつもりだった。


裏切られたのは悔しいが、彼ら能力に関しては、見る目があった事が証明された。


暗闇が迫る頃、そびえ立つ要塞が見えてきた。 念のため、山小屋に近付くのは避ける事にした。

見上げる顔に、冷たい雨があたる。 皆、無事だろうか。


「さて、どうやって近付いたものか………」

要塞近くの茂みに、共に身を隠した黒バラ様が呟いた。

いつしか冷たい雨は雪に変わり、漆黒の空から白くシンシンと降り積もる。 外気は冷たく、鋭い刃先の様に肌に突き刺さる。


私は(かじか)み震える指先で、式札を取り出した。 それを(ふくろう)の姿に変え、解き放つ。


「ルカス様……」

私は震える声で話しかけた。 きっと、嫌な顔をされる。怪訝な声が返ってくるのを覚悟していた。

それなのに、黒バラ様の瞳が優しく語りかけてくる。

「すごいな。ペルラ領の者達は、皆、式神を使役できるのか?」


私は、安堵した。 そして、このような事態になった事を詫びた。 もっと連絡を取り、不満の芽を摘むべきだった。


「何を言っている。君は良くやってくれているよ」


私は驚いた。 今までの冷たい態度は、人目があったからなのだろうか? 演技だったのだろうか?

黒バラ様に誉められるだなんて、なんと幸せな事だろうか。


しかし、次に続く言葉に納得した。


「君は何も悪くない。 アレの不始末のせいで、君は寒空の下、こんなにも動いてくれているではないか。いったい、あの女は何をしているのだろうか? 」


黒バラ様は、本人を目の前に文句を言い、そして、労りの眼差しを送ってくる。

私は、凍える指先で、再び式札を取り出し、今度は鼠の姿に変え解き放った。


雪原を走る鼠を見送りながら、上手く笑えていただろうか。と思い返していた。


※※※


(ふくろう)からの報告では、要塞の回りに怪しい者は潜んでいない事がわかった。

鼠からの報告で、やはりペルラ領の騎士は拘束されて地下に捕らわれているのがわかった。


残りは五人。 それも優秀な手練(てだ)れだ。

その事を告げると「先に騎士を解放しよう」と言われた。

だが、すでに鼠が彼らを解放し、私の指示を待っている。


「ペルラの者達は、敵に回したくないね」と、声を殺して笑いだした。

黒バラ様が、楽しそうに笑っている。 でも、それは私と一緒だからでない。

名も知らぬ()()へ向けた表情なのだ。


「二人が見廻りをしていて、残り二人は最上階に集まっているようです。ただ、隊長の姿が見えません……。砦内にいないのでしょうか……」


「じゃ、正面からコッソリ忍びこんで、上階を目指そうか。 頼りにしているよ」

そう言って、私の肩に手を置いた。









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