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ルカス達がゲオルクに滞在して、数ヶ月が経った。


順調に街は発展し、コーゼル騎士団も無事、発足した。 とはいっても、半数以上はロデリクス公爵領からの希望者だった。 後は、ゲオルクの没落した貴族や自警団の若者だった。


相変わらずエレンと会話する事もなく、顔を合わせる事もなかったが、居心地よく過ごせるよう心を配ってくれていることには気付いていた。


公爵家の使用人達の仕事だと思っていたが、執事のヴィンセントが言うには、エレンが上手く使用人達をまとめているらしい。

コーゼル子爵夫人としての立場を固めているようで、気にくわない。


そんなルカスの心を癒してくれているのが、山小屋で見かけた()()だった。

この屋敷に出入りしている事には気付いていたが、ヴィンセントに尋ねてみても、上手く交わされ名前も聞けずにいた。


彼女のコロコロとした笑い声は、どこにいても耳に届く。 一度、声の出所を捜した時、あの女の後ろ姿を見つけてしまい、萎えた。

それ以来、彼女の姿を捜すことはやめた。 声だけで満足することにした。


スノードロップが小道に咲き誇る春先には、ゲオルクは立派な交易都市に生まれ変わっていた。


※※※


ある日、エレンは気付いてしまった。 黒バラ様が侍女達と共に過ごしている自分に好意を持っていることを。

そして、その彼女と自分は別人と思っている事も。


「旦那様はアホです」侍女のローザは呆れていた。

「こんな間近で会話しているのに、奥様と気付かないなんて。 声でわかるではないですか」


ある時、井戸の前で訓練帰りの黒バラ様とバッタリ出くわしてしまった。 汗を流すために井戸に寄ったのだろうか。 側にはオリバー達もいた。


慌てて移動しようとする私を彼は引き留めた。 「直ぐに済むから、待ってて」

そう言うなり、シャツをはだけて身体を拭きだした。 彼の身体から湯気が立ち上るのを見て、慌てて背を向けた。 顔が火照るのがわかった。


「ねぇ、悪いけど背中を拭いてくれないか」


驚いて振り向くと、黒バラ様がタオルを手渡してきた。

(あぁそうか、()としての役目なのか)

そう思った私は、恥ずかしい気持ちを押さえつけ、彼の広い背中を拭く決心をつけた。


彼の素肌に触れる僥倖(ぎょうこう)に浸っていると、彼が話しかけてきた。

今まで散々避けられ、拒絶されていたのに、どうしたのだろう。と不思議に思っていたのだが、彼の一言で全て解決した。


()()()に嫌がらせをされていない?」


一瞬誰の事かわからずに問い返すと「女主人だよ」と苦笑いをする。 無言でいると「彼女は、令嬢達に嫌がらせをしたせいで、婚約破棄をされた()()なんだ。性悪女なんだよ。 それに、護衛騎士と()()()らしいよ」


私は返事ができない。 勘違いされている事もさることながら、そんな風に思われていただなんて。

ミゲルとの仲を疑われるなんて、怒りを通り越して悲しくなった。


そして、彼は続ける。傷付いている私に、こう言った。

「あの女に何かされたら、直ぐに言って? 守ってあげるから」


罪な程に優しい微笑みを私に残して、彼は立ち去った。 後には、何とも言えない気持ちだけが残った。


※※※


そして、事件は起こる。 雪混じりの小雨が降りしきる、凍えるような朝の事だった。


国境付近の山々は未だ雪深く、とても攻めいる事はできないだろう。と、たかをくくっていた。

それが仇となった。 油断していた。 黒バラ様に(うつつ)を抜かしていた罰なのだろうか。


隣国から攻めいるなら、()()だろう。と、目星をつけていた山道にある道標の()から、合図が来た。


急ぎマントを羽織り、馬小屋へと走った。 走る私を見つけた使用人達は、私を追いかけ集まってくる。

そして、馬小屋に着くと、彼らは次々に防具を着せにかかる。


ものの数分で私は馬上の人となり、山の要塞へと駆け出した。

直ぐ後を、護衛騎士のミゲルが追う。


(間に合うだろうか。 出来れば切通(きりとおし)で、敵を待ち受けたい)

要塞に詰めている兵士達は、きちんと手筈通り動いてくれるだろうか。 街からは、どんなに急いでも半日はかかる。

私は祈ることしかできない。


※※※


街中を馬で駆け抜けていくエレンとミゲルを見かけた自警団の兵士達は、慌てた様子で彼女の後を追いかけだした。


その様子は、騎士団の訓練所からも見ることができた。

すると、自警団上がりの兵士達の落ち着きがなくなった。「早くエレン様の後を追わないと」とまで言い出した。


ルカス達は意味がわからない。 なぜ、エレンが駆け抜けると、後を追わないといけないのか。


「敵襲ですよ」

「山の要塞の方向だ」


急かされるようにルカス達も騎馬に乗り、エレンの後を追いかけた。

後方で狼煙が上がった。 屋敷の方からだろうか。



※※※



途中、エレンとミゲルが中継地で馬を乗り換えようとしていると、続々と自警団の者達が集まってきた。


何度か野党退治を行っていた成果だろうか、使用人達も自警団の兵士達も段取りが良かった。

今回は特に何も伝えていないが、緊急の狼煙も上がったし、こうして自警団も駆け付けていた。


「エレン様、要塞で何かあったのですか?」

自警団の隊長が尋ねてきた。

「何者かが、国境沿いの道標を通ったわ」

エレンが答えると「雪解けもまだなのに?」と、皆が驚く。

「まだ、切通(きりとおし)近くまで、進攻してきていないから、間に合えば()()で押さえたいわ」

エレンは、一抹の不安を抱え、灰色の重たい空を見上げた。


その時声が聞こえた。 黒バラ様の声だ。

「何があったのだ?」

集まっていた兵士達の間を通り抜け、私に近づいてくるその人は、紛れもなくルカスだった。

「何者かが領内に進攻しています」

「何故わかる?」

そこでエレンは説明した。 要所要所に道標と共に()を配置していて、異常があれば連絡がくる。と伝えた。


「それで、作戦は?」

「防衛に適した切通(きりとおし)があるので、()()で叩く手筈に」

「なるほど」と頷いた黒バラ様達を含め、自警団の兵士達も馬を乗り換えた。


「ただ」と、私は声を張り上げた。

皆の視線が私に集まる。

「本来なら要塞の兵士が切通(きりとおし)に向かうのですが、その連絡が来ない」


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