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昔、わたしを助けてくれた、黒バラ様。 あなたの隣に立つためだけに生きてきました。

あぁ、その願いが、今、叶うのですね。


喜色満面の私とは違い、憧れの君は不快な表情を隠そうともしない。 そう、だって貴方は()を受けているのだから。

私という『悪女』を迎え入れるという()を………。


でも、良いのです。 あなたの隣は、永遠に私のモノになったのだから。

あぁ、このために心無い()に耐えていたのだわ。 そう、()()になるほどに。

そんな事は些末事。 黒バラ様の隣に立てる、それも永遠に。 それが、私には重要なのです。



※※※



夏の訪れを感じる、強めの日射しを感じながら私、ペルラ侯爵の三女エレン・ペルラは、愛しの君、黒バラ様との結婚式を執り行っていた。

参列者は私の侍女と、護衛騎士のみの寂しい式だったが、私の心は晴れやかだ。


ベール越しに黒バラ様を盗み見れば、漆黒の髪がそよ風に揺れるのが見えた。

婚姻誓約書にサインする、その指をじっと見つめていれば、不思議そうに私を見つめ返す漆黒の闇夜のような瞳が、その深い藍色の瞳が私を射止める。


そして、契約の口付け。 たぶん、これが彼に触れる最初で最後になるのだろう。

私は緊張で、目眩を起こしそうになるが、このチャンスは逃せない。


ベールがあげられ、間近に黒バラ様の闇夜の瞳が近付づいてくる。彼の形のよい鼻先が、すぐそこに見えた時、私は瞳を閉じた。 フワリと心地よい香りが鼻腔をくすぐる。


(何の香りかしら……)


そう、思っている間に人生最初で最後、最大の触れ合いが終わってしまった。

しかし、口付けは唇に落とされる事無く、オデコに止まった。


少し残念な気持ちになったが、まぁいい。 この温もりを私は生涯忘れないだろう。 たとえ、貴方が忘れたとしても………。



※※※



黒バラ様、ロデリクス公爵の三男ルカス様は、近年の戦争で立派な功績を収め、王よりコーゼル子爵の爵位と、敵国から切り取った土地アルセ地区を賜った。

そして、褒美として()が贈られた。


ほとんど罰ゲームだ。


それというもの、黒バラ様は公爵子息でありながら、進んで戦いの場に身を置いていた。

その荒々しい姿に加え、彼の通った跡には屍しか残らない事から、畏怖の念を抱き『血塗られた軍神』と呼ばれた。


しかしながら、そんな事情を、うら若き令嬢達はもとより、社交に明け暮れる貴族どもは知らない。

『血塗られた軍神』の異名が独り歩きをし、年頃になっても婚姻どころか婚約者も見つからなかった。


また、彼が好んで着ている()()()()()()()も、()()()()の様な瞳も、恐怖を煽るには十分だった。


そこで王は、戦争の英雄に祭り上げ、婚約者の希望を募ったが、誰一人名乗りを上げなかった。

それどころか、社交界で悪女と噂されるエレン・ペルラ侯爵令嬢の名前が上がってしまい、引くに引けない。

王は、切り取った領地と共に『悪女』を褒美として与えるしかなかった。




※※※



いまだ、戦争の傷痕が残るアルセ地区ゲオルクに、新居は建てられた。

その荒れ地に似つかわしくない程、豪華絢爛なその屋敷の一室で、私は黒バラ様と対峙していた。


「それでは契約通り、今日以降は、お互いの生活に口出し無用。という事で」

「はい。公的行事以外での接触は、必要最低限ですね」


私たちは、アルセ地区の繁栄の為に策を練るという、初夜にまったく相応しくない会話を、明け方まで続けたのだ。



翌日、眩しい夏の日射しに起こされた。


「お嬢様……じゃなかった、奥様。 もう、お昼ですよ?」

そう言いながら、ペルラ侯爵家から付いてきてくれた侍女のローザがクスクス笑う。

「やっぱり、慣れませんね」


「いいわよ、なんでも。生活の場所が変わっただけで、他は何も変わらないわ。 で、黒バラ様は?」

私は一つ伸びをする。

「朝早くに王都にお帰りになりました」

憮然とした表情になるローザに、クスリと笑みがこぼれる。

「いいのよ、ローザ。 もう、私は()()なのだから」


そう、私は黒バラ様の隣に居続ける事が出来れば満足なのだ。後は()()アルセ地区ゲオルクを発展させ、コーゼル子爵夫人の立場を磐石な物にするのだ。

末永く黒バラ様の隣を占領するために。



※※※



荒れ地に伸びる『街道』という名前だけの砂利道を、馬で駆ける一団があった。 子爵になったルカスの姿がある。


新妻を荒れた地に一人置き去りにする事に、後ろめたい気持ちは無い。とは言い切れないが、()()がそれで良い。と言うのだから問題ないだろう。

そう、言い聞かせながらルカスは馬を飛ばす。


『夜会の毒蛾』そう呼ばれていたと聞く。 実際に毒牙にかかった子息に会った事はないが、皆がそう言うのだから、よほどの悪女なのだろう。


しかしながら、自分の瞳から、呪われた()()()から、目を反らさなかった令嬢は初めてだった。 面と向かって会話をした令嬢も、彼女だけだろう。 皆、怖がって近寄りもしなかったのに。


「でも、もう社交以外で会うこともないだろう」


なぜなら、自分たちは()()()同士の政略結婚なのだから。

そこに、契約はあっても、愛はない。


https://ncode.syosetu.com/n1049il/

『アカンサスの花園~モブのつもりでいたのですが~』

宜しければ、お読み頂きたく思います。

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